循環・廃棄物のけんきゅう
2018年4月号

最近の中国の廃棄物原料 輸入規制強化とその影響

吉田 綾

2017年7月、中国政府は2017年末までに生活系廃プラスチックを含む4種類24品目のリサイクル可能な廃棄物原料の輸入を禁止すると通知しました。世界の工場であり廃棄物・スクラップの一大リサイクル拠点でもある中国の政策変更は世界各国に大きな影響を与え、現在もその影響は続いています。本稿では、これまでの中国における廃棄物原料輸入規制の歴史を振り返ると共に、昨年末の規制強化の背景と内容、今後の廃棄物・スクラップ貿易の将来展望について整理したいと思います。

「洋ごみ」問題から輸入管理政策へ(1990年代後半~2010年)

1980年代から中国は、鉄くずや廃プラスチックなどの廃棄物原料を輸入し、リサイクルを行ってきました。1990年代初めには再生資源の名目で海外から「ごみ」が持ち込まれる「洋ごみ」事件が発生し、環境への影響から中国政府は海外からの廃棄物原料の輸入を一時停止し、国内の法整備を進めました。1995年に廃棄物を規制する法律である「固体廃棄物環境汚染防止法」が制定され、その後、輸入廃棄物を管理する規定も施行されました。

中国環境保護部、税関、国家質量監督検験検疫総局などの複数の政府部門は連携して、後に「クローズドループの管理システム」と称される管理体制を構築しました。まず、海外から廃棄物原料を輸入する企業は環境保護部門の輸入許可証を取得する必要があります。また、輸入される貨物は輸出元の国において船積みされる前に検査を受け、合格していなければなりません。廃棄物原料の種類は、「輸入禁止」「輸入制限」「自動輸入許可※」 の3つに大きく分けられ、目録(リスト)は定期的に見直されました。例えば、未解体の使用済みの家電製品などは輸入禁止リストに、廃モーター・廃電線・ケーブルなどの雑品スクラップ(中国では「廃五金電器」や「第7類」と呼ばれています)は輸入制限リストに入りました。また、雑品スクラップは解体処理の工程で二次汚染が問題となったため、解体加工を行う企業を工業園区(工業団地)に集約し、統一管理することも行われました。不合格貨物の減少やシップバック(送り返し)、不適正リサイクル防止、不適正業者の登録抹消などにある程度の成果がありましたが、不適正な輸入の問題は完全になくなった訳ではありませんでした。

※解体処理を必要としない直接利用できる廃棄物原料が対象(輸入許可証は必要)です。

2017年の輸入規制強化の背景と内容(2011年~現在)

中国各地で長引く環境汚染問題を背景に、2012年の中国共産党第十八次全国代表大会から美しい中国、生態文明社会建設を進めてきました。環境問題は最も重要な政策課題として位置づけられ、生態環境と人民の健康を守るための改革が2017年から進められました。その中の措置の一つに今回の輸入規制の強化も含まれると考えられます。これまで国内の資源不足を補うため、海外から廃棄物原料を輸入してきましたが、それらを処理・リサイクルする過程で生態環境や人々の健康に悪影響を与えていることが多く報告されたことも規制強化の背景にあります。「Plastic China(プラスチック チャイナ)」のドキュメンタリー映画などのメディア報道もこの動きを加速させたと言えるでしょう。

2017年7月の国務院通知は、2017年末までに環境への影響や人々の懸念が大きい廃棄物原料の輸入を禁止し、2019年末までに中国国内資源で代替できる廃棄物原料の輸入を段階的に停止するとしています。8月に目録の調整が行われ、これまで輸入制限リストにあったものの一部が禁止リストに記載されました。これによって、2017年12月31日から生活系廃プラスチック、未選別古紙やバナジウムスラグ、廃綿などの繊維系廃棄物の輸入が禁止になりました。また、2018年3月1日から輸入制限廃棄物の環境基準も一層厳しくなりました。例えば、廃プラスチックの異物混入率(木片・廃ガラス・廃ゴムなど)はこれまで2%以下でしたが、0.5%以下になりました。雑品スクラップ(第7類)は、新たに銅の含有量が重量全体の80%でなければならないと規定されました。これまで輸入されてきたのは銅含有量が10~60%程度と言われていますので、今後はより品質の向上が求められます。また、輸入する企業は必ず加工能力のある企業でなくてはならないという規定も追加されました。商業目的のみで輸入して、その後の解体・リサイクルの責任を持たない事業者の輸入を無くすためです。より良い品質の廃棄物原料だけを入れようとする姿勢はこれまでと同様に一貫した政策だったと言えますが、中国国内の廃棄物(資源)の回収率を上げるという新たな政策意図があるという点で明らかにこれまでと異なります。

廃棄物・スクラップ貿易は今後どうなる?

今後さらにどのような変化が予想されるでしょうか?中国の非鉄金属の市場調査機関の話によると、中国の雑品スクラップ輸入加工業者の中には東南アジアなど第三国に進出し、現地で手解体選別した後、中国へ輸出する企業が既に出てきているそうです。仮に第7類の輸入が将来禁止されたとしても、東南アジアで加工選別した後に第6類(通常の金属スクラップ)として中国に輸入すれば、含銅量はこれまでと同じかそれ以上になるということです。しかし、これは処理費用のより安価な地域へ汚染を再移転する(越境移動する)ことにもなりかねません。

日本から中国へのスクラップ輸出が急増していた2005年に筆者が行った調査では、日本の輸出企業の多くは将来について不安はなく、「永久に」輸出すると回答していました。実際に分別解体の手間のかかるスクラップを受け入れリサイクルしてくれる中国は輸出先として非常に魅力的でかつ有り難い存在でした。しかし、スクラップの品質の低下や火災事故の発生などから日本国内での適正管理も課題となり、今年4月1日に改正廃棄物処理法が施行されました。日本の輸出企業の多くは販路を東南アジアやインドなどへの広げようと考えていますが、量的に限界があると言われています。国内で手選別することで中国へ輸出したり、国内でリサイクルしたりすることが出来るものもあるでしょうがコストが課題となるでしょう。

日本はこれまで短期的な対策として、中国の規制に対応していくことで対中輸出を継続して来ました。しかし、今後は国内の廃プラスチックや金属くず、古紙などの回収・リサイクルについてより長期的な展望を持つ必要があると言えるでしょう。使い捨ての製品の削減と分別・リサイクルに本格的に取り組むべき時に来ていると言えるかもしれません。

参考資料
<関連する調査・研究>
【第4期中長期計画】
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