けんきゅうの現場から
2021年8月号

木質バイオマス灰の溶融特性を測定する

倉持 秀敏

木質バイオマス発電と混焼時の課題

2002年のバイオマス・ニッポン総合戦略の閣議決定により、バイオマス(再生可能な、生物由来の有機性資源[化石資源を除いたもの])の利活用が推進され始めました。バイオマスの利活用が、地球温暖化の防止や循環型社会の形成、地域活性化等に有効であることは、これまでの関連記事に記載されています(バイオマス利用による地域活性化バイオマスエネルギーの利用)。2012年にスタートしたFIT制度(再生可能エネルギー固定価格買取制度:再生可能エネルギーで発電した電気を、電力会社が一定価格で一定期間買い取ることを国が約束する制度)により、木材のチップ(木質チップ、図1a参照)、剪定枝、おが屑等の木質バイオマスを燃焼して発電する施設(木質バイオマス発電施設)が年々増加し、現在稼働中でFIT認定された木質バイオマス発電施数は約200に達しています。我々は、原料の種類を拡大した場合の安定した運転方法の確立や燃焼後に残る灰(燃焼灰)の有効利用(例えば、肥料、土木資材等)を目的に、いくつかの発電施設を視察・調査しています。発電施設によって用いる原料は様々で、我々が調査した施設では、木質チップに加えて、樹皮であるバークやパーム椰子殻なども一緒に燃やされていました(図1bc参照)。複数の原料を一緒に燃焼することを混焼といいます。混焼は、安い原料の使用や施設の大規模化など経済的なメリットがあります。しかし、原料の性状が異なることから、注意も必要です。例えば、バークのような繊維状に細長いかさばる原料を用いると、工場内の輸送や燃焼炉への投入が安定しないこともあります。また、原料の灰の融点(液体になる温度)が低い場合には、灰の一部が溶けて(溶融して)他の灰とクリンカと呼ばれる塊を作ることもあります。クリンカの生成は、燃焼炉の配管をつまらせたり、ボイラ管(燃焼熱を回収する部分)において熱の伝わりを悪くしたり、発電施設の運転に悪影響を与えます。また、クリンカが燃焼炉内に落下すると事故の原因にもなります。これらの問題を回避するためにも、原料の灰の溶融特性を把握することは重要です。そこで、我々は、いくつかの樹種に対して、木質チップ及びバークの灰の溶融特性を測定したので、その結果を紹介します。

図1 木質バイオマス発電施設の原料(a:木質チップ、b:バーク(樹皮)、c:パーム椰子殻) 図1 木質バイオマス発電施設の原料(a:木質チップ、b:バーク(樹皮)、c:パーム椰子殻)

木質バイオマス灰の溶融特性

灰の溶融特性を測定する方法として、日本工業規格(JIS) M8801「灰の溶融性試験方法」を用いました。簡単に測定法を説明します。まず、木質バイオマスを電気炉にて815℃で灰化させます。得られた灰を図2aのような試験すいに成形して900℃の電気炉内にセットします。900℃から5℃/minで昇温し、炉内の試験すいの形状を観察します。この方法では、形状の変化から以下の3つの溶融特性、軟化点(図2bのように、試験すいの頂部が溶けて丸くなり始めた温度)、融点(図2cのように、試験すいが溶融して、その高さが底部の見掛け上の幅のほぼ1/2に等しくなったときの温度)、溶流点(図2dのように、溶融物が支持台に流れ、融点のときの高さのほぼ1/3の高さになったときの温度)を求めることができます。杉と雑木の木質チップ灰及びバーク灰の軟化点、融点、溶流点の結果を表1に示します。木質チップ灰の溶融特性については樹種に関係なく、ほぼ似たような値でした。一方、バーク灰の溶融特性については、杉の方がかなり低温化していることがわかりました。灰が溶け始める軟化点については、最も高かった杉の木質チップと最も低かった杉のバーク灰では約200℃の差があることから、杉のバークを混焼する際には、この低い軟化点により燃焼炉内でバーク灰の一部が溶け始めて、そこに灰や原料に混じっている砂等が付着して塊状の固体、すなわちクリンカが生成される可能性があり、注意する必要があります。

では、どうしてこのような融点差が生じるのでしょうか?灰の主要成分であるCaO、Al2O3、SiO2に関する三成分系の相図(各成分の組成(各成分の割合)と融点の関係図)に、杉の木質チップ灰とバーク灰の主要三成分の組成をプロットしてみます。図3に示すように、木質チップ灰とバーク灰の組成は大きく異なり、また、バーク灰の組成は木質チップ灰よりも低融点の領域にありました。バーク灰が持つ成分が低融点化をもたらしており、灰の溶融特性を理解または予想する上で灰の組成の把握も重要であると考えられます。さらに、木質チップとバークを混焼すると、混焼原料の灰の融点は、図3の黒い矢印に沿って変化します。また、図3の黄色の点のように、バークと木質チップの混焼比率が1:9の時には、混焼原料の灰がより低融点化することが予想されます。したがって、木質チップとバークを混焼する比率にも注意を払う必要があります。このように、様々な原料の灰の溶融特性が分かると、木質バイオマス燃焼発電を安定して運転することに役立ちます。

今回は、原料の灰の溶融特性と混焼時の注意点を紹介しましたが、原料の灰の組成と、発電施設における燃焼炉及びボイラー等の内部から採取される燃焼灰の組成は異なります。ストーカ式や流動床式のような燃焼方式ごとに、施設で発生する燃焼灰の組成を予測する方法を検討しつつ、混焼が与える影響を予想し、クリンカ生成を回避する運転法を提示できればと思います。

図2 溶融特性測定における灰の試験すいの形状(a:開始時、b:軟化点、c:融点、d:溶融点) 図2 溶融特性測定における灰の試験すいの形状(a:開始時、b:軟化点、c:融点、d:溶融点)
表1 杉と雑木の木質チップ灰及びバーク灰の溶融特性 表1 杉と雑木の木質チップ灰及びバーク灰の溶融特性
図3 CaO-Al2O3-SiO2三成分系の相図(低融点領域は着色)と杉の木質チップ及びバークの組成 図3 CaO-Al2O3-SiO2三成分系の相図(低融点領域は着色)と杉の木質チップ及びバークの組成
<参考文献>
  1. 経済産業省資源エネルギー庁:なっとく!再生可能エネルギー
    https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/kaitori/ (2021年8月23日閲覧)。
  2. 固定価格買取制度 情報公表用ウェブサイト
    https://www.fit-portal.go.jp/PublicInfoSummary(2021年8月23日閲覧)。
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