今月や以前の記事で紹介されているように、有害物質を含む廃棄物や焼却灰の処理の方法として、溶融炉を用いて廃棄物等を液状になるまで加熱し、溶融物が冷え固まってできる溶融スラグと飛灰にするという操作が行われることがあります。廃棄物や焼却灰は十分に高温であれば融かすことができますが、どのような条件で融けるのかは施設の設計・運転上に必要なので、溶融試験と併せて(※)多成分系の相図を用いた予測が行われることがあります。そこで今回の豆知識では、多成分系の相図の読み方について解説します。
多成分系(たせいぶんけい)とは、多くの異なる種類の物質が混ざった状態のことを指し、2種類の物質を混ぜたものを二成分系、3種類の成分を混ぜた場合を三成分系、のように表します。前回の記事「固液平衡の相図」では二成分系の相図について解説しましたので、今回は三成分系の相図について見ていきます。
三成分系の相の情報を全て表すためには、三成分を端においた三角形を水平面におき、温度を垂直軸にとった立体の相図を描くことが考えられます。圧力は実際に使う場面を想定した圧力(通常は1気圧)に固定して考えます。練習として、図1のような成分A、B、Cの相図があったとします。成分の混合比と温度を決めると混合物の状態が定まりますが、相図上は、三角柱内の点で表すことができます。例えば図1中の赤色の点の状態は、水平面に投影した点(黄色の点)の位置で組成を表し、高さで温度を読み取ることができます。図中の灰色の面は液相面といって、これより状態を表す点が上にあれば混合物全てが溶融することを表し、水色の面(=液相面中で最も温度が低い所と接する水平面)は固相面といい、これより下の温度では全体が固体になることを表します。黄色の点の組成をもつ混合物は、赤の点の温度では完全に融けていて、青の点は固相面上にあるので、これより温度が低ければ完全に固体になり、高ければ固体と液体が混ざった状態になります。実際の相図はもっと複雑なため、例えば完全に融ける温度が知りたいときは、液相面の等高線(融点が等しい線をつなぐので等温線という)を水平面に投影した図を描くなどして、二次元の図にします。
図2には、石灰(CaO)-アルミナ(Al2O3)-シリカ(SiO2)系の液相温度の等高線を示しました。ここに示したカルシウム(Ca)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)の3つは一般廃棄物や焼却灰の主な構成元素であり、廃棄物やその焼却灰の溶融処理においては、この3つの成分の割合により融ける温度が変わるので、よく参照される図のひとつです。
図2中の点Aは、CaO:(SiO2&Al2O3) = 0.34:0.66, (CaO&SiO2):Al2O3 = 0.8:0.2の線上にありますので、CaO:Al2O3:SiO2 = 0.34:0.2:0.46の配合比の状態を表します。この点は1500℃の等温線上にあるため、1500℃以下になると固体の灰長石(anorthite、化学式はCaAl2Si2O8)が溶融相から析出しはじめることをあらわしています。ここで、点Aの組成のものにカルシウムを含む成分を少し投入するなどしてCaO成分を増やすと、組成を表す点が左下(点Bの位置)に移動するので、融点が1400℃まで下がることが分かります。ただし、カルシウム成分を足しすぎると今度はゲーレン石(Gehlenite、化学式Ca2Al2SiO7)の領域に入るので、融点はかえって高くなると予想されるので、カルシウムが多すぎる場合では反対に、砂などケイ素を多く含む成分を加えると良いことが分かります。
実際は、廃棄物にはCa、Al、Siのほかに鉄やナトリウムなどのアルカリ金属、一般廃棄物の場合はさらに塩素、硫黄なども含まれるので、必ずしも相図の通りの温度で融けるとは限りませんが、このように、相図を用いると処理しようとしている廃棄物が溶けやすいか溶けにくいかを予想して溶けやすい配合比になるように工夫することができるため、プロセスの設計などにおいて参考にされています。また、詳しくは述べませんでしたが、今月の「けんきゅうの現場から」に示されているように、投入物の条件によっては高温で溶融塩が酸化物の溶融物と分離することがあるため、そのような条件を知るためにも相図はボート試験と併用して参照されています。