けんきゅうの現場から
2020年1月号

これからの高齢社会、ごみ集積所の管理は大丈夫?

鈴木 薫

身近だけど知らないごみ集積所の歴史

みなさんは、ごみをどこに出していますか?家の前でしょうか?それとも、ごみ集積所でしょうか?それぞれの家の前にごみを置いて収集してもらう方法は「戸別収集」といい、複数の世帯で共同のごみ集積所(ごみステーション)を利用する方法を「ステーション収集」といいます。日本の自治体では、約7割がステーション収集を行っています。ごみ集積所の管理は行政がするものと思っている人も多いようですが、「廃棄物の処理および清掃に関する法律(廃棄物処理法)」にはごみ集積所の管理を誰がすべきかといった記載はなく、多くの市町村では、ごみ集積所は原則として利用者が設置・管理することになっています。

ごみ集積所の歴史は1964年の東京オリンピックの頃にさかのぼります。その頃、東京都の特別区では、生ごみはチリンチリンと鈴を鳴らしてやってくる収集作業員が集めていました。当時の新聞記事には、「大八車(だいはちぐるま)をひいて通るうしろから、バケツをもった主婦があちらからもこちらからも飛び出してくる」(『朝日新聞』1960.4.11 朝刊)、「チリンチリンの収集作業員がいつ集めに来るか不定期なのと、夫婦共稼ぎの場合はごみを捨てる機会がないことで、つい川や空き地などへ捨てる都民がでる」(『朝日新聞』1960.7.10 朝刊)といった記載があります。生ごみ以外の可燃ごみや不燃ごみは各戸収集で、家の外に据え付けられたごみ箱に出していました。ごみ箱は木やセメントでできた重たいもので、その中から収集作業員がごみかき出して集めていました。そうした非衛生的、非効率的な状況を改善するため、ごみ箱をポリエチレンのバケツ容器に変え、車による定時収集が始められたのです。ごみは道路わきに複数世帯でまとめて出してもらうことになり、そのためのごみ集積所の場所を話し合いで決めたり、掃除したりするのは利用者である市民の役割となりました。車による収集は全国の市町村に広がっていき、時代の流れと共にポリエチレン容器はごみ袋にとってかわられましたが、ごみ集積所による収集と、市民によるごみ集積所の管理は続いているのです。ごみ集積所の設備の設置をするのは自治会、住民グループ、土地の開発事業者、アパートの大家さんなど様々です。ごみ集積所が設置される場所や時代によってその形態も様々なものがあります。(写真1)

ごみ集積所の管理が大変なので行政がやって欲しい、ステーション収集をやめて戸別収集を導入して欲しいといった要望は少なくなく、実際に戸別収集に切り替えるところも増えてきました。しかし、自治体財政がひっ迫する中で、自助・共助によるステーション収集を継続する市町村はまだまだ多いと考えられます。

写真1 ごみ集積所の形態の例(郊外に多い小屋型)
郊外に多い小屋型
写真1 ごみ集積所の形態の例(カラス害防止のためのネットボックス)
カラス害防止のためのネットボックス
写真1 ごみ集積所の形態の例(新しい住宅地やアパートに多い金属ボックス)
新しい住宅地やアパートに多い金属ボックス
写真1 ごみ集積所の形態の例

進む高齢化とごみ集積所管理で心配されること

私たちの社会は急速に高齢化が進んでおり、これまでの社会の仕組みがうまく機能しなくなるのではないかと心配されています。地域住民で行うごみ集積所の管理もその一つです。私たちは高齢化によって地域のごみ管理にどのような問題が起こるのか明らかにするため、2019年2月につくば市の自治会長さん全員を対象としたアンケート調査(対象者608人、回答者428人)を行いました。その結果、3つの心配な点があることがわかりました。

  1. 自治会の弱体化:高齢化率が高いところでは、役員のなり手が少なく、一部の人に自治会活動の負担が集中やすい状態であることが分かりました。多くの自治会は、ごみ集積所の設置・修理や、ごみ当番の調整、利用者にごみ出しルールを守るように呼び掛けたりするなど、重要な役割を担っています。その自治会自体の機能が弱まれば、ごみ集積所の管理も大きな影響を受ける可能性があります。
  2. ごみ出しルールが守れない人の増加:高齢化率が高いところでは、認知症等で分別がうまくできない人や、ごみ集積所が遠いために自分でごみ出しできない人がいるという回答が増えました。ルール違反のごみが取り残されてごみ集積所が汚れたり、家に大量にごみを溜めてしまったりする人がでてくる可能性があります。
  3. ごみ当番ができない人の増加:高齢化率が高いところでは、高齢化のためにごみ当番ができない人がでてきたという回答が急激に増えました。ごみ当番ができなくなる人はそれを負い目に感じますし、一方でできる側は負担が増え、不公平に感じるかもしれません。

それぞれの問題の関係性を図1に示します。自治会の弱体化により問題調整・対応能力の低下が進めば、ルール違反は放置され、未分別や日時違反のごみの取残しや散乱が増えることになります。それはごみ当番の作業負担の増加にもつながります。一部の人に負担が偏れば、ごみ集積所を管理し続けていくことが難しくなります。ごみの適切な収集に支障をきたし、地域の住民同士の関係性や生活環境の悪化にもつながりかねません。

ごみ集積所管理における各主体の役割
図1 高齢化により心配されるごみ集積所管理への影響

今後のごみ集積所の管理のために

高齢社会でもごみ集積所を適切に管理し、地域住民同士が気持ちよく使い続けるためには、どうすればよいでしょうか。例えば、①自治会の弱体化が進むところでは、これまで自治会が担ってきた役割や蓄積されてきたノウハウを集約・整理し、個人や住民グループが参照できるようにする、②ルールが守れない人が増加するところでは、分別手法や排出日時を知らせるツールの利用、高齢者向けのルールの緩和策、ごみ出し支援制度等の導入を検討する、③ごみ当番ができない人が増加するところでは、ごみ当番の負担の軽減策や、できる人とできない人が助け合いやすい仕組みづくりを考えるなど、考え得る方法は非常に幅広いです。これとこれをやれば正解、というものはなく、地域の状況に応じて方法を組み合わせつつ、より良いごみ集積所のあり方を考え続ける必要があるでしょう。

ごみ集積所のあり方を考え続けるという点で、アンケート調査で非常に印象的だった回答をご紹介します。

「ごみ当番に当たった人が軽度の認知症で、ごみ当番の札をなくす等の問題が起きました。しかし本人は責任感が強い人で、ごみ当番を免除するというのもかえって酷だと判断し、当該ごみ集積所を利用している人たちに理解と協力を求め、見守りながらごみ当番を続けてもらっています。」

高齢になってゆくほど、社会とのかかわりは少なくなる傾向にあります。上記の回答を書かれた自治会長さんは、ごみ当番を高齢者の方が地域の人と関わる大切な機会であるととらえて、その方の気持ちに寄り添い、地域の皆さんと共に見守る判断をされたのです。もちろん、このようなことができるところと、そうでないところがあります。地域で何がができるか、何がしたいかは、その地域の成り立ちや、住民構成、助け合いのありよう、自治会の体力などによって様々です。それぞれの地域の人が、自分たちの課題に合った対応をとれるよう、選択肢を整理し、提示することが私たちの役割だと考え、研究をすすめています。