けんきゅうの現場から
2022年11月号

廃棄物のよりよい分析のために

山本 貴士

廃棄物の分析は難しい

私たちの日々の活動から発生する廃棄物には、ポリ塩化ビフェニル(PCB)やアスベスト(石綿)、重金属などの有害物質を含むものがあり、これらによる健康被害や環境汚染を防止するため適切な処理・処分を行う必要があります。特に有害性の高い廃棄物は、特別管理廃棄物として通常の廃棄物よりも厳しい処理基準に基づいて処理されます1)。特別管理廃棄物には、「廃PCB等」のように特定の有害物質の有無により分類されるものと、「ばいじん」のように有害物質が一定の濃度を超える場合にのみ分類されるものがあります。後者については、試料の溶出操作により検液を作製し、検液中の有害物質の濃度が基準を超えるかどうかで判定を行います。

有害物質を含む廃棄物を特別管理廃棄物として適正に処理するためには、廃棄物中の有害物質の濃度を正確に分析することが重要です。廃棄物は、複数の成分を含む、不均一である、分析を妨害する成分を含むことがあるなどの理由から、分析が難しい試料です。環境省による環境測定分析統一精度管理調査2)という調査において、廃棄物試料(ばいじん)を対象に200を超える分析機関が重金属を分析し、分析精度の確認が行われました。その結果、六価クロム濃度の分析精度が良くないことが分かりました。図1にばいじん試料の溶出操作で得られた検液中の鉛と六価クロム濃度の分析結果を示します。鉛の結果は平均値付近に集中していますが、六価クロムの結果は大きくばらついていることが分かります。これは、同じばいじんAに含まれる六価クロム濃度を異なる分析機関XとYで分析したときに、Xの結果に基づくとAは特別管理廃棄物になるが、Yの結果ではならない可能性があることを示しています。このことは、廃棄物の適切な処理・処分という見地からは好ましい状況ではありません。

図1 平成28年度環境測定分析統一精度管理調査における鉛(Pb)と六価クロム濃度(Cr(VI))の分析結果 図1 平成28年度環境測定分析統一精度管理調査における鉛(Pb)と六価クロム濃度(Cr(VI))の分析結果
図1 平成28年度環境測定分析統一精度管理調査における鉛(Pb)と
六価クロム濃度(Cr(VI))の分析結果3)

分析方法の改善をはかる

廃棄物の分析方法は常に同じではなく、分析技術の進歩や改善点の明確化などにより見直されるものです。環境省は、特別管理廃棄物の判定方法である「産業廃棄物に含まれる金属等の検定方法」(環境庁告示第13号)を平成25年2月に改定し、検液の作製方法のあいまいであったところを明確に規定しました。その後も改正について検討する委員会が設置されており、私も裏方としてこの委員会に参加しています。

先に述べた六価クロムの分析方法として、従来はジフェニルカルバジド吸光光度法という方法が用いられていました。これは、検液を硫酸酸性にした後にジフェニルカルバジド溶液を加えた時に発色する、赤紫色の吸光度を測定する方法です。この方法による六価クロムの分析においては、難溶性の沈殿を生成したりクロムを還元する妨害物質の影響により分析が困難になる事例が知られています4)。平成30年度の検討委員会において、妨害物質を含むため分析困難である試料に対し、ジフェニルカルバジド溶液を先に加えてから硫酸酸性にする方法(逆添加法)が適用可能であることが実験的に示されました。このことを受け、令和元年度の改正において、逆添加法は六価クロムの分析方法として正式に採用されました。改正に先立って行われた精度管理調査では、ばいじん中の六価クロム濃度についてほとんどの分析機関が逆添加法により分析したことで、分析精度の大幅な向上が確認されました(図2)。

令和元年度の改正では、この他にもヒ素を分析するための試料前処理の方法が見直されています。また、分析における有害物質使用の回避も考慮され、例えば有機塩素化合物の分析では水銀化合物を使用しないイオンクロマトグラム法に変更する、アルキル水銀の分析では溶媒をベンゼンからトルエンに変更するなどの見直しが行われました。

このように、廃棄物の分析方法は最新の研究成果や社会情勢の変化などを踏まえつつ、適宜改善がはかられています。

図2 令和元年度精度管理調査における六価クロム濃度の分析結果
図2 令和元年度精度管理調査における六価クロム濃度の分析結果5)