けんきゅうの現場から
2016年1月号

ごみ焼却施設の役割と災害時の活躍

前背戸 智晴

ごみ焼却施設の歴史とその役割

国土面積が狭く、人口が都市部に集中している日本で、ごみの焼却処理は衛生的処理で大きな役割を果たしています1)。歴史的にみても、1900年の汚物掃除法の成立の頃に清掃事業は既に市町村の義務となり、「市は掃除義務者の蒐集(しゅうしゅう:著者注)したる汚物を一定の場所に運搬し、塵芥はなるべく焼却すべし」とされて日本は焼却の時代に入っています。そして、日本で最初の焼却炉は1897年に当時貿易港であった敦賀に処理量11.5t/日のものがつくられました。現在主流のストーカー式焼却炉である近代的な連続式機械炉(処理量:150t/日×3炉)は、1963年に大阪市で初めて稼働しています2)。環境省の一般廃棄物の排出及び処理状況等(平成25年度)によると、国内には1172のごみ焼却施設数があります。ただし、市町村合併による施設の集約化、複数の自治体による広域処理の広がりなどで、施設規模が拡大し、施設数は減少する傾向にあります。また、環境省のポータルサイトで公表されているデータ3)から、日本の一般廃棄物処理におけるごみ焼却処理の割合は74%と世界1位(2位デンマーク54%、3位スイス、スウェーデン 50%)で、もとこ日本の主たるごみ処理方法が焼却処理であることがよくわかります(ちなみに、資料では1995年時点のデータですが、30ヶ国中の約半数で埋め立て処理の割合が50%を超えており、日本は約11%となっています)。

また、近年では低炭素社会実現のため、ごみ発電施設の高効率化を国の政策として進めており、一般廃棄物処理施設でのごみ発電量は増加しています。2006年度時点で総発電能力は1590MW、総発電電力は7190GWとなっており4)、これは一般家庭200万世帯分の消費電力に相当するもので、単にごみを焼却処理するだけでなくエネルギーを生み出す施設としても活躍しています。

災害時に活躍する仮設焼却炉

図1 仮設焼却施設の一例 図1 仮設焼却施設の一例8)
通常のごみ焼却施設では建屋内に焼却炉が設置されているが、仮設焼却炉は一般的に屋外設置

前述のように歴史的にも日本でのごみ焼却は公衆衛生上、衛生的処理で大きな役割を果たしています。日常、みなさんの町にごみがあふれることがなく、衛生的に生活がおくれるのはごみ処理施設でごみが適切に処理されているからです。一方で、大規模災害時には解体家屋や家財など大量の可燃物が災害廃棄物として発生し、町にあふれます。そういった災害廃棄物は収集されて仮置き場に分別保管されますが、可燃物は自然発火の危険性や衛生面から迅速な処理が必要です。しかし、災害の規模が大きいと災害廃棄物は通常排出されるごみの何年分にも及ぶ量となるため、既設のごみ焼却施設のみでこれらの災害廃棄物を処理することは困難となることがあります。このような場合は、災害廃棄物を迅速に処理する目的で仮設の焼却炉を建設し処理が行われます。阪神・淡路大震災では7市町等で34基(処理量合計1780t/日)の仮設焼却炉が建設され、合計約99万tが焼却処理されました(図1は宮城県の仮設焼却炉の一例)5)。また、東日本大震災では宮城・岩手の2県で1件の休止炉復旧利用を含め31基(合計4863t/日)の仮設焼却炉により合計約177万tが平成26年3月までに焼却処理されています。こういった仮設焼却炉による災害廃棄物の迅速な処理が、震災後の復興に大きく寄与しています。

除染廃棄物・災害廃棄物などを今も処理している仮設焼却炉

図2 焼却炉内での空間線量率測定調査状況 図2 焼却炉内での空間線量率測定調査状況

福島県では東日本大震災による災害廃棄物や除染作業により発生した廃棄物(除染土壌については中間貯蔵へ搬入)などの処理のため、複数の仮設焼却炉が建設され現在も処理が続いています。既に役目を終えて停止している炉を含めると17基(合計2344t/日)になります。除染廃棄物などは放射性物質に汚染されているため焼却処理を行うと焼却炉内の耐火物が放射性物質に汚染されます6)。また、焼却した灰に放射性物質が濃縮されますが、排ガスはバグフィルターという排ガス処理装置で処理されるため放射性物質が付着した微細な灰はバグフィルターで補足され、排ガス側で放射性物質は検出されていません。これまでの調査で、焼却するごみの種類(成分)によって、耐火物の汚染のされ方や焼却灰への放射性物質の濃縮挙動が変化することがわかっています。国立環境研究所では、数年後に処理を終え、解体されるこれらの仮設焼却炉等から発生する廃棄物の適切な処理、処分のため、また、今後建設される中間貯蔵施設につくられる焼却施設での適正な処理などを視野に入れ、現在も複数の焼却施設の調査(図2は焼却炉内での調査状況)を継続して行っています7)

おわりに

迷惑施設として扱われるごみ焼却施設ですが、みなさんが健康で衛生的な生活をおくる上で欠かせない施設です。また、大規模災害時に大量に発生する災害廃棄物を迅速に処理し、早期の復旧復興を進める上でも欠かすことのできない施設です。国立環境研究所ではこれまで得られた知見と現在福島県で行っている仮設焼却炉などでの調査によって、放射性物質に汚染された焼却施設解体時の適切な処理方法の確立に取り組み続けるとともに、中間貯蔵施設における廃棄物の適正な処理などに関する研究に取り組んでいきます。

参考資料
  1. 1) 武田信生, 環境工環境技術, 27(3), pp.169-169, 1998
  2. 2) 福永勲, 環境技術, 27(3), pp.170-174, 1998
  3. 3) 環境省 環境経済情報ポータルサイト, www.env.go.jp/doc/toukei/data/10ex240.xls (2015/10/26閲覧)
  4. 4) 可燃ごみをエネルギーと考える?廃棄物発電の高効率化, 国環研ニュース, Vol.28, 6, 2009
    https://www.nies.go.jp/kanko/news/28/28-6/28-6-04.html (2015/10/29閲覧)
  5. 5) 阪神・淡路大震災における災害廃棄物処理について, 兵庫県生活文化部環境局環境整備課, p10, 1997
  6. 6) 水原詞治, 焼却施設における耐火物の役割, 環環, 2012年11月号
  7. 7) 倉持秀敏, 放射性物質に汚染された廃棄物の焼却施設の現地調査, 環環, 2013年4月号
  8. 8) 災害廃棄物処理向け仮設焼却炉の運転実績、鮫島良二ほか, 廃棄物資源循環学会研究発表会講演集, Vol. 24, 2013
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