けんきゅうの現場から
2016年3月号

大気降下物に含まれる放射性セシウムを調べて

鈴木 剛

はじめに

東日本大震災以降、一部の被災自治体では、除染を含む復興活動が進められていく過程で、地表面に降下する放射性セシウム量が増えることが懸念された時期がありました。資源循環・廃棄物研究センター(以下、循環センター)では、この実態を把握するために平成25年2月から現在まで、しげる福島市内の大気降下物に含まれる放射性セシウムの量について、福島市の協力のもと調査を行ってきました。調査によって、放射性セシウムは土壌粒子と一緒に風で巻き上げられて降下しており、その量は地点を問わず減少傾向であることがわかりました。ここでは、空から降下してくる放射性セシウムをどのように現場で採取して分析しているのかを説明し、調査結果の概要を紹介します。

大気降下物の採取

図1 大気降下物の採取容器 図1 大気降下物の採取容器

大気降下物には、大気中に排出されたばいじんや風によって地表から舞い上がった粉じんのうち、大気中で浮遊していられず降下する乾性降下物や、雨や雪に取り込まれて降下する湿性降下物があります。湿性降下物は比較的容易に採取できますが、乾性降下物は採取容器に落ちてたまったものが風によって再び舞い上がることもあり採取にひと工夫が必要です。本調査では、デポジットゲージ法とダストジャー法を採用しており(図1)、デポジットゲージ法では口径の狭い容器に底面の直径と同じサイズの漏斗を連結させることで、ダストジャー法では上蓋のない寸胴鍋にジエチレングリコール水溶液をいれ舞い落ちたものを液中に捕捉することで、それぞれ乾性降下物も逃さず採取することに努めました。

採取容器は、循環センター(つくば市)と福島市5地点の調査協力施設の屋上(少なくとも地上から約5m以上の高さ)に、1回あたり約1か月間設置しました。平成25年2月以降これまでに8回の採取を行うことで、季節ごとの大気降下物量やそこに含まれる放射性セシウム量の傾向を把握しています。強風で採取容器が飛ばされたり、台風による豪雨で雨水が溢れそうになったりと、多くのハプニングを経験して現在に至っています。

採取容器の回収と放射性セシウム分析

採取容器を設置してから約1か月後に、車で回収に向かいます。大気降下物はそのほとんどが雨水で、多い時期には1地点で20リットルを超えることも。設置場所によって回収方法は異なり、エレベーターで容器を楽々下ろせるところもあれば、はしごを使用してバランスをとりながら担ぎ下ろすこともあります。季節によっては、豪雨や降雪といった悪天候の中で作業を行うこともありました。無事に回収した採取容器は、その日のうちに福島市からつくば市の国立環境研究所に持ち帰ります。

実験室では、口径1 μmのろ紙で雨水をろ過して、ろ液とろ紙上残留物に分けて放射性セシウム測定を行いました。平成25年2月~3月の調査では、放射性セシウムの96%以上がろ紙上残留物で検出され、大気降下物に含まれる放射性セシウムのほとんどが水に溶けにくい状態で存在していました。これ以降、採取容器の設置と回収を行いながら、ろ紙上に残る放射性セシウムがどのような状態で存在しているのかを把握するために試行錯誤を重ねてきました。そして、放射能分布を可視化するイメージングプレートで放射性セシウムがろ紙上に高濃度粒子として偏在していることを突き止め(図2)、表面観察技術によって1 μm前後の粒子状放射性セシウムが数十μm以上の土壌粒子に強く吸着していることを明らかにしました。

図2 イメージングプレートによるろ紙上放射能分布の可視化 図2 イメージングプレートによるろ紙上放射能分布の可視化
放射性セシウムが存在する場所が白く光って見えます。

これまでの調査結果から

大気降下物に含まれる放射性セシウムの量(ろ紙上残留物)の推移を図3に示します。大気降下物の総量は風速が強くなる2月~3月に増える傾向ですが、これに併せて放射性セシウムの降下量も増えていました。同じ採取時期の推移をみると、放射性セシウムの大気降下量は経年で減少傾向であり、平成25年2/3月から平成27年2/3月にかけて10%程度に減少していました。調査期間を通じた90%の減少分は放射性セシウムの物理的半減期(半減期:134Cs〔2.0652年〕、137Cs〔30.1年〕)による自然減衰が50%程度とすると、残りの40%程度はこれ以外の要因が関わっていると考えられました。施設周辺の表層土壌との関連性を評価したところ、大気降下物に含まれる放射性セシウムの濃度が高い場所では表層土壌の放射性セシウムの濃度も高い傾向であることや、大気降下物と表層土壌では全体の93%~95%を占める主要な構成元素(Al、Ca、Fe、K、Mg、Mn、Na)が共通していることが示され、表層土壌が大気降下物の主要な構成成分であると考えられました。福島第一原発事故によってもたらされた表層土壌中の放射性セシウムが風によって土壌粒子と一緒に巻き上げられ、降下物となっていると思われます。

調査結果を総合すると、大気降下物の由来となっている表層土壌の降雨に伴う地表面の流出(ウェザリング)や、除染作業を通じた放射性セシウムの減少が、福島市における放射性セシウムの大気降下量の大幅な減少に関連していると考えています。今後は、土壌に吸着している放射性セシウムがどこから来たのかを詳しく調査し、福島第一原発事故以降新たに生じたものではないことを確認する予定です。

図3 つくば市及び福島市での放射性セシウムの大気降下量の推移 図3 つくば市及び福島市での放射性セシウムの大気降下量の推移
Bq/m2/day:1日あたりのm2に降下する放射性セシウム量(Bq))
*ダストジャー法、**デポジットゲージ法
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