けんきゅうの現場から
2013年4月号

放射性物質に汚染された廃棄物の焼却施設の現地調査

倉持 秀敏

調査の必要性

放射性セシウム(Cs)に汚染されたごみを焼却処理すると、焼却した灰に放射性Csが濃縮されることはご存知の方も多いかと思います。この濃縮挙動を理解するために、焼却施設から排出される灰(炉の下から排出される主灰と排ガス中のばいじん(細かな灰粒子)である飛灰)や排ガスを調査しています。加えて、放射性Csは焼却炉内等の耐火物(2012年11月号「焼却施設における耐火物」参照)に蓄積することが指摘されていることから1)、焼却施設の点検や修理における安全性を確保するため、焼却炉内等に入り、放射線量と付着している灰等の放射性Cs濃度も調査しています。ここでは、これら2つの現地調査について紹介したいと思います。

焼却灰や飛灰ならびに排ガスの調査

図1 焼却施設における灰(左)と排ガス(右)のサンプリング 図1 焼却施設における灰(左)と排ガス(右)のサンプリング

放射性Csの挙動を明らかにする調査では、焼却されるものや、焼却灰、飛灰、排ガスを採取し、放射性Cs濃度を分析しました。灰については、いくつかの場所で図1(左)のように採取し、灰中の放射性Cs濃度を分析するとともに、溶出試験を行い、水に溶け出す放射性Csの割合(水溶性のCs化合物になっている割合)を明らかにしました。

また、排ガスについては、図1(右)のように排ガスから飛灰を除去する装置前後で採取し、放射性Cs濃度を分析し、排ガス処理における飛灰の除去率を解析しました。これらの調査から、灰が排出される場所によって、灰中の放射性Csの状態が異なっていることや、燃焼で生じたガス状の放射性Csは飛灰に付着し、飛灰を除去することで排ガス中の放射性Csを除去できることが確認されました。さらに、採取した灰中の元素を明らかにし、Cs化合物の構造を予測することにより、挙動をより詳しく理解できるものと考えています。

焼却炉内の放射線量の調査

図2 焼却炉内(左)とガス冷却室内(右、耐火物なし) 図2 焼却炉内(左)とガス冷却室内(右、耐火物なし)

ごみを燃やす焼却炉や排ガスを冷却する部分(ガス冷却室)は温度が高いことから、その内側には耐火物が使用されています。放射性Csの耐火物への浸透・蓄積を確認するため、図2のように、耐火物のある炉内等の放射線量を測定しました。耐火物のある場所では、付着している灰の放射性Cs濃度は低いものの、耐火物がない場所よりも放射線量が何倍も高いことがわかりました。また、図2のように、改修のために耐火物を除去した場所では、放射線量が焼却炉の外の放射線量と同等レベルまで低下することが確認されました。したがって、この調査でもやはり耐火物に浸透・蓄積していることが示唆されました。今後の調査では、耐火物を採取し、耐火物の組成と形状、放射性Csの濃度分布を分析して、数値計算と合わせて放射性Csの浸透・蓄積のメカニズムを明らかにする予定です。

炉内に入るのは重装備が必要でなかなか骨の折れる作業ですが、予想と違う状況もあり、時間をかけて自ら採取する重要性を再認識しました。

参考資料
  1. 阿部ら、第1回環境放射能除染研究発表会、P103、2012
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