循環・廃棄物のけんきゅう
2015年1月号

E-wasteリサイクルに伴う有害化学物質のゆくえ

鈴木 剛

E-wasteリサイクル

廃電気電子機器(E-waste)は、鉄や銅などの金属類やレアメタル、プラスチックなどの有用資源を含んでいるので、これらを回収するためにリサイクルが行われています(都市鉱山(2009年1月号)、都市鉱山とリサイクル(2009年6月号))。E-wasteに含まれる有用資源は、含有割合(濃度)が天然鉱石よりも高く、加工を経て使用されているため高品質であり、官民一体となった適切なリサイクルが今後も推進されていくでしょう。E-wasteの適切なリサイクルは、有用資源を有効に活用するだけでなく、最終処分場に埋め立てる廃棄物の減量や、天然鉱石の採鉱の抑制による省エネルギー・省CO2・省資源に繋がるため、環境保全に貢献すると考えられます。

不適切なリサイクルと化学物質問題

しかし、現状では残念ながら不適切なリサイクルも行われています。環境省によると、一部のE-wasteについては、違法な不用品回収業者によって、国内でスクラップ化したのち海外へ輸出されたり、リユースと偽って輸出され、海外で環境汚染を引き起こす不適切なリサイクルが行なわれています。

そこで資源循環・廃棄物研究センターでは、日本からE-wasteや関連スクラップが輸出されている状況を考慮して、アジア途上国で行われている不適切なE-wasteリサイクルの現状やリサイクル活動が周辺環境に与える影響を調査しています(製品の資源性・有害性物質の適正な管理をめざす(2011年8月号))。日本から輸出されたE-wasteとそれに起因する環境汚染の関連性を定量的に把握することは困難ですが、日本と関係の深いアジア途上国でのE-wasteリサイクル問題の改善や解決に繋げることを目指しています。これまでに、タイ、フィリピン、インドネシアやベトナムなどを訪れ、リサイクルの現状を調査し、作業者への化学物質曝露実態を明らかにしてきました(E-wasteリサイクル現場の土とダストを調べる(2011年12月号))。ここでは、現在実施しているベトナムでの調査事例についてご紹介します。

ベトナムのE-wasteリサイクル村

私たちは、2011年1月にベトナム北部のハノイ市近郊でリサイクル村の存在を確認し、愛媛大学やハノイ自然科学大学の研究者、リサイクル村の協力者のサポートのもと、2012年1月から当該地域を対象とした複数年計画のフィールド調査を実施しています。ここでは約250世帯1,000人程度が居住しており、主な産業として稲作に加え、E-wasteリサイクルが行われています。通年E-wasteリサイクルを実施している施設もあれば、二期作の合間にリサイクルを行う施設もみられ、施設の規模は様々ですが、E-wasteリサイクルは村で暮らす人たちの仕事として根付いています。

じゅん現地でのヒアリングによると、リサイクル村では、2000年頃から、パソコン、テレビ、ビデオプレーヤー、携帯電話などのE-wasteリサイクルとして、収集、保管、解体、プラスチック・金属の分別回収やケーブルなどの野焼きによる銅回収が行なわれているとのことです。再資源化された金属やプラスチックは国内で再利用するだけでなく、中国へと輸出されているようです。中国で銅の需要が高まった時期に併せて、銅回収を目的とした野焼きが活発化する状況も把握され、輸出先の需要によってリサイクル活動が大きく変わることも調査から分かりました。フィールド調査では、日本語表記のあるE-wasteも散見され、アジア途上国でのE-wasteリサイクル問題と日本の関連性がみてとれました。

リサイクル工程と化学物質汚染

屋外保管されているブラウン管ガラス 写真1 屋外保管されているブラウン管ガラス(2012年1月撮影)
フィールド調査で確認した銅回収のための電源ケーブルなどの野焼きの状況 写真2 フィールド調査で確認した銅回収のための電源ケーブルなどの野焼きの状況(2013年1月撮影)
焼却残さを水洗浄して銅を回収する作業の様子 写真3 焼却残さを水洗浄して銅を回収する作業の様子(2013年1月撮影)

この地域のフィールド調査は、2012年1月、2013年1月、2014年1月に実施しました。ここでは、E-wasteリサイクルが周辺環境に与える影響を調査するため、居住区とその周辺に広がる水田地帯の3.0 km×1.2 kmを対象としています。水田のあぜ道や解体施設近傍やケーブルなどの野焼き現場の表面の土、リサイクル村の中心部を流れる河川で解体施設の上流から下流にかけて川の泥などを採取して分析評価しています。

これまでの調査結果から解体施設やケーブルなどの野焼き現場近傍ではE-waste由来と考えられる化学物質が高い濃度で検出されています。例えば、はんだやブラウン管用ガラスに含まれる鉛、電源ケーブルなどの銅、電池に含まれるカドミウムやマンガン、液晶ディスプレイ中のスズ、ものを燃えにくくする難燃剤やアンチモン、野焼きの際に発生するダイオキシン類などが挙げられます。

施設周辺では、特に写真1のように、部分的に解体されたE-waste(テレビのブラウン管用ガラスを一例として)が野ざらしで保管されているような場合に、関連する化学物質(この場合、鉛)の高濃度検出事例がみられています。ブラウン管用ガラス以外にも、電子基板や筐体などもよく見られました。このような保管状況のせいで、銅や鉛、難燃剤などが、雨水による流出や部材から剥離することで環境中に移行していると考えられます。一方で、野ざらしの屋外保管が行なわれていない施設周辺では、化学物質の検出濃度が低い傾向であることが分かりつつあり、保管状態が施設周辺の化学物質汚染に関わる重要な工程であると考えています。

フィールド調査では、銅回収を目的とした電源ケーブルの野焼きが確認され(写真2)、現場の周囲数メートルの範囲では高い濃度でダイオキシン類や銅などが検出される傾向です。ダイオキシン類は銅を触媒として合成するデ・ノボ合成がよく知られていますが、これを示す結果といえそうです。一方、同じ現場数メートル範囲内でも、難燃剤については、検出される種類や濃度も低くなる傾向が示されており、今後検証する必要がありますが、野焼きの250~350℃程度の温度帯で熱分解している可能性があります。2013年1月の調査では、燃焼残渣の運搬工程や、銅を回収する際に行われていた残渣の水洗浄(写真3)が、化学物質の周辺環境への拡散や流出に寄与することがわかりました。特に後者は、残渣に含まれる多くの化学物質(重金属、難燃剤やダイオキシン類)について実施施設周辺で採取した川の泥中の濃度が2012年1月から2013年1月にかけて10倍程度高くなる汚染を引き起こしていました。

適切なリサイクルにむけて

これまでの調査を通じて、製品由来化学物質は、E-wasteリサイクル活動域に集積しており、拡散し難いことがデータとして示されています。施設や野焼き現場周辺では、ベトナムの農用地や居住地の環境基準などを超過する土壌も採取されています。今後、このような化学物質の汚染の状況が、現地生活者にどのような状況でいかなる影響を与える可能性があるのか、化学物質曝露に関する調査を取り入れて継続していきます。これらの結果については、現地での適切なE-wasteリサイクルに向けて、ワークショップ(2013年1月と2014年1月に開催)を通じて現地協力者や行政組織に情報還元しており、今後も継続していく予定です。

<もっと専門的に知りたい人は>
  1. 鈴木ほか、ベトナム北部のE-wasteリサイクル施設における ダイオキシン類縁化合物の環境排出実態調査(第二報). 第23回環境化学討論会, 同予稿集, 395-396 (2014)
  2. 松神ほか、ベトナム北部のE-wasteリサイクル施設における難燃剤の環境排出実態調査(第二報). 第23回環境化学討論会, 同予稿集, 246-247 (2014)
  3. 宇智田ほか、ベトナム北部のE-wasteリサイクルに伴う有害金属類の環境排出実態調査(第二報). 第23回環境化学討論会, 同予稿集, 102-103 (2014)
<関連する調査・研究>
  1. 循環型社会研究プログラム研究プロジェクト1:
    国際資源循環に対応した製品中資源性・有害性物質の適正管理
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