けんきゅうの現場から
2011年12月号

E-wasteリサイクル現場の土とダストを調べる

藤森 崇

E-wasteとは

E-wasteという用語をいきなり使いました。あまり耳慣れないこの用語は、electronic wasteの略語としてよく使用されています。日本語では、「電気電子機器廃棄物」や「廃電気・電子製品」などという難しい訳になりますが、私たちの生活に不可欠ともいえるテレビ、パソコン、冷蔵庫などといった「電気で動く製品」の廃棄物を言い表す用語です。近年、中国、インド、フィリピンなどのアジア途上国において、E-wasteから資源性のある金属などを取り出すリサイクル業に環境汚染問題に関心を持つ研究者の注目が集まっています。E-wasteをリサイクルしている大人や子供が、有害な化学物質で汚染されていることが明らかになり、新規の環境問題として認識されるようになったためです。

アジアの発展途上国に行く

E-wasteリサイクルの問題は、多くの研究者たちがアジアの発展途上国に直接行き、現場を調査することで明らかになりました。まさに「足で知る」研究の典型例と言えるでしょう。ここでは、私たちが調査した途上国(フィリピンおよびベトナム)のケースを、私自身の感想を述べつつ紹介しようと思います。言うまでもないことかもしれませんが、研究調査で行く海外は、旅行でのそれとはおおきく異なります。起床後に当日訪問する現場についての打ち合わせや予定の調整をします。現場ではヒアリングや試料採取をテンポ良く行い、移動しながら臨機応変な対応もこなす必要があります。調査終了時には試料の調製・保存や翌日についてのミーティングを実施します。ヘトヘトになりそうですが、そこは研究者、私の場合、未知の試料が手に入るワクワク感で集中力はほとんど切れず、いわゆる「ハイ」な状態で現地調査が続けられました。

イラスト

フィリピンで訪れたE-wasteリサイクル現場は、企業として国に認可されたフォーマルな場所と、そうではなく非認可かつ家族規模でリサイクル業を営むインフォーマルな場所に大別されます(写真1)。また、ベトナムの調査の際には、ケーブル類などから銅を取り出す為に野焼きが行われている現場にも遭遇しました(写真2)。E-wasteを解体したり、燃やしたりする時に、有害な化学物質が環境中に漏洩し、時には人体の健康を脅かす可能性が指摘されています。


土とダストを調べる

 このときの調査では、こういったE-wasteリサイクル現場から土とダストをサンプルとして採取してきました。土やダストに含まれている物質を測定することで、どの位環境が汚染されているのか、そして、それが人の健康にどの位危ないのか、を評価することができます。ここでは簡単に結果のみを示します。管理されたフォーマルのE-wasteリサイクル現場(写真1参照)においてダストの汚染レベルが最大を示し、主に鉛と銅の健康リスクが高いと考えられました。フォーマルな工場において、通常労働者はマスク、作業着、手袋などをしています。そのためダストの曝露による重金属汚染の危険性は軽減されていると考えられます。しかし、実際の現場を見ると、マスクや手袋をしていない労働者も見受けられたため、今後は実態に則したより適切な曝露対策の実施が必要ではないかと感じられました。一方、インフォーマルなE-wasteリサイクル現場(写真1参照)は土もダストも、高いレベルで重金属に汚染されていました。インフォーマルな環境では大人も子供も、フォーマルのように粉じんなどの防護対策はほとんどなく、大半が軽装、マスクなし、素手で作業に従事しています。特に子供への曝露は深刻な問題であり、国、研究機関、民間団体など種々の母体による早急な対策提案が必要でしょう。また、ケーブル類の野焼き現場の土は真っ黒に変色しており(写真2参照)、ダイオキシン類等の有害な可能性のある「有機塩素化合物」が、非汚染地域の土壌と比較にならない程に濃縮されていることが明らかになりました。このように、E-wasteリサイクルは環境や人間を汚染する側面があるため、それを低減・防止するための対策が非常に重要となります。今後、出来る限りE-wasteリサイクル労働者の健康を確保・増進し、同時にリサイクル業でこれまで得てきた経済性を失わずに労働できるように配慮することも重要な観点といえるでしょう。

写真1 E-wasteリサイクル現場の様子@フィリピン. (左)フォーマル, (右)インフォーマル.写真1 E-wasteリサイクル現場の様子@フィリピン. (左)フォーマル, (右)インフォーマル.
写真2 野焼き@ベトナム. 右下の写真のようなケーブル類を野焼きしている.写真2 野焼き@ベトナム. 右下の写真のようなケーブル類を野焼きしている.
<もっと専門的に知りたい人は>
  1. 藤森ら, フィリピンのE-wasteリサイクルサイトにおける重金属および希少金属の濃度レベル評価. 第20回環境化学討論会講演要旨集, 2011, pp.342-343.
  2. 藤森ら, 塩素の定量的スペシエーションによるワイヤーバーニングサイトでの芳香族有機塩素化合物の生成機構の示唆. 第20回環境化学討論会講演要旨集, 2011, pp.152-153.
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