電気電子機器などでは、貴金属・レアメタル(ある産業や製品に必要不可欠な希少金属)のように資源性を有する物質や、重金属・難燃剤のように有害性を有する物質が一つの製品や材料に含まれています。たとえば、ノートパソコンを分解すると、液晶パネル、ハードディスク、基板、コンデンサ、電池、モーター、そしてプラスチックカバーなど数十の部品に分かれます。さらに手作業で分解を繰り返せば1万を超える小部品や材料に分かれていき、これらも様々な物質から構成されます。
こうした物質の多くは、国内外を問わず広く流通しています。日本で使われる製品であっても、資源の採掘、材料の生産、製品の組立が国外で多く行われ、国内で出荷、消費された後に廃棄されます。このうち、まだ使える製品はリユースされ、また部品や材料がリサイクルされるものもあります。このようなリユース・リサイクルも国内だけでなく、アジア地域を主とした国外で行われる場合が多くあります。
国内においてはこのような国際流通を勘案したベースメタル(鉄や銅などの使用量の多い基盤的な金属)・貴金属・レアメタルを含む資源管理の方策が、国際社会(主にアジア)においては環境汚染防止に貢献する回収・リサイクルが求められています。
第3期中期計画期間(2011~2016年度)の循環型社会研究プログラムでは、研究プロジェクトの一つとして「国際資源循環に対応した製品中資源性物質・有害性物質の適正管理」を立ち上げました。
このプロジェクトでは、次から紹介するように、日本を中心に国際的に流通する物質(資源・材料・製品を含む)を対象として、システム分析とフィールド調査を統合した体系的な調査と研究を行います。このとき、資源性の観点からリサイクルが期待される要素と、有害性の観点から規制や対策が必要な要素について、国内外のスケールで考察を行います。
まず、国際的に流通する物質のフローを把握することをめざします。一つには、貿易統計や産業連関分析などによって、国際的なサプライチェーンを把握するものです。主に日本で使われている物質のうち、どのような物質がどの国で資源として採掘され、どこで生産・加工されて日本国内で出荷されているかなどを明らかにします。二つめとして、既存文献の調査や熱力学解析によって、元素レベルで物質の動きを細かく見て、どのような物質が既存の技術・システムで回収可能か、どのようなリサイクル技術のニーズがあるかがわかります。
このようなサプライチェーンと技術情報に加えて、資源供給の安定性、物質の稀少性、経済性などを考慮することにより、貴金属・レアメタルなどの資源性の高い物質を適切に確保するために、どのような製品や部品の回収・リサイクルを強化していくかといった検討を行います。
また、私たちは積極的に現場に足を運ぶことも意識しています。前述のような分析に加えて、実際に国内の廃棄物処理・リサイクル施設において、資源性物質がどこまで回収できているか、有害性物質が環境に排出されている、などの状況を調査します。
アジア地域にも目を向け、国外で行われるリサイクル・廃棄過程についても、フィールド研究を進めています。アジアの途上国では、労働者が安全衛生対策の不十分なまま手分解によって電気電子機器から貴金属や銅などを回収していることがあります。このとき、基板の加熱やケーブルの野焼きによって重金属・ダイオキシン類などの有害物質が環境に拡散し、作業者の健康が脅かされる可能性があります。また、鉛を含むブラウン管が埋立処分場や居住地近傍に投棄されていることもあります。私たちはこうした実態を把握して、環境への影響を抑えながら、資源回収の効果を上げる方策を検討します。
以上のように行った物質の国際フロー把握・分析とフィールド研究などの成果に基づいて、製品中の資源性・有害性物質について、国内と国際社会において3Rを促進する適正管理方策のあり方を提案します。
たとえば、「有害廃棄物等の越境移動の規制に関するバーゼル条約」の枠組みでは、電気電子機器について、どのような技術と方法を用いれば「環境上適正な管理(Environmental Sound Management; ESM)」が行えるのかを判断する根拠となる国際共通基準・ガイドライン策定の議論が始められています。
輸出入を規制・管理する場合も、輸出先でESMが保証されるかどうかは大きな要素になります。また、こうした国際共通基準が普及すれば、各国における電気電子廃棄物の処理のレベル向上も期待できます。どのようなESM基準であれば国際的にも国内でも受け入れられ、資源性・有害性物質を適正に管理できるのか、課題解決に向けて具体的な検討を進めていきます。