循環型社会・廃棄物研究センター オンラインマガジン『環環kannkann』 - 近況
2007年3月19日号

地域を単位とした水・物質循環システムの再構築を

稲森悠平

 ごみ、と言った場合、皆さんは固形状の廃棄物を思い浮かべるかもしれません。ここでは、ごみの中でも、液状廃棄物と呼ばれる生活排水および家畜糞尿等の処理について取り上げたいと思います。

 21世紀の健全な循環型社会を構築する上では、生活に由来して発生するし尿、生活雑排水、生ゴミ、畜産廃棄物等を、その地域内で資源として循環できるようにする("地産地消型"でその場、その場で処理する)ことが重要という指摘があります。 そのためには、有用な資源(排水中のリン等)の回収、生ゴミ等の有機廃棄物の資源化のための技術開発が必要です。また、地域の実情にあった循環システムを構築していくことが重要です。

 このような廃棄物・排水の処理と資源としての利用の最適化を目指した技術開発はこれからますます重要なると考えられます。例えば、生活排水中にはリンなどの有用な資源が含まれますが、これらを有効に回収・再利用できる費用対効果の高い基盤システム技術の開発は、 これまでなされてきませんでした。この反省も踏まえ、今後の技術開発に必要な要素として、2つ挙げておきます。一つは、最小のエネルギー負荷で最大の廃棄物等の物質循環と高品質の水循環を達成すること、つまり、消費するエネルギーと、必要なメンテナンスを出来るだけ抑制する技術にすることです。 二つ目は、地域を中核とし、有機物・リン・窒素の物質循環が自然との共生を目指しつつ行われることです。そのためには、物質系(廃棄物)と水系(排水)の循環を分離するのではなく一体とした形で、かつ自然生態系を損なうことを極力抑制するシステム技術の確立が必要とされます。そのため、私たちは、以下のような研究プログラムに取り組んでいます。

 一つには、省エネルギー型水系循環技術の開発と評価があります。湖沼をはじめとする水環境において、窒素・リンは富栄養化および地下水の硝酸汚染という問題を引き起こすことが知られています。そのため、地域分散型の生ゴミ処理、し尿系排水と生活雑排水との合併処理浄化槽等において、窒素・リンを除去すると同時に、それらを資源として回収する技術開発に取り組んでいます。 また一つには、省エネルギー型物質系循環技術の開発と評価があります。すなわち、地域ごとに発生する廃棄物の負荷を、ある場所に収集して集中型で処理するのではなく、地域ごとに分散された拠点で処理することを目指すものです。このため、機能強化した各種の細菌等を用いた発酵技術と、物理化学的な処理技術等とを組み合わせ、 生ゴミ等の有機廃棄物からエネルギーや資源を取り出す技術開発と評価を行います。このような研究の中核となるのが「バイオ・エコエンジニアリング」です。

 バイオエンジニアリングとは生物処理工学のことで、例えば、高度処理浄化槽等により生活排水等に由来する汚濁物質を処理する技術です。エコエンジニアリングとは生態工学のことで、例えば、水生植物や土壌が本来環境中で持つ機能を最大限に発揮するように、工学的な設計に基づき植栽や土壌により環境浄化を試みる技術です。バイオ・エコエンジニアリングは、それらを組合せることで、生物、植物等の機能を活かした処理システムを構築することを目標としているものです。 これらの技術導入にあたってポイントとして考慮していることは、①窒素・リンを排水中から効果的に除去し、湖沼でのアオコ発生等を抑制する富栄養化対策、②CO2に比べて高い温室効果能力を有するメタンガスや亜酸化窒素ガスの発生を抑制する地球温暖化対策、③派生する汚泥・植物残渣等からアルコールを生産したり、堆肥を生産したりする資源化対策、これらが同時に達成されるようにすることです。私たちは、これらの開発研究に現在取り組んでいます。

 今後ますます、生活に由来して発生する廃棄物や排水を、単に処理するにとどまらず、それらに含まれる物質を資源として利用する高度処理システムが必要とされるでしょう。また、その際には、できるだけエネルギーの使用を抑え、メンテナンスを軽減するリサイクルシステムが望ましく、そのシステムを緑農地等の自然の物質循環サイクルに乗せるような視点に立った評価手法の確立が重要です。 バイオ・エコエンジニアリングは、そのような視点の維持と地域を単位とした処理システムの構築を目指して、今後も発展することが望まれます。

  
関連研究 その他の調査・研究
HOME
表紙
近況
社会のうごき
循環・廃棄物のけんきゅう
ごみ研究の歴史
循環・廃棄物のまめ知識
当ててみよう!
その他
印刷のコツ
バックナンバー一覧
総集編
(独)国立環境研究所 循環型社会・廃棄物研究センター
HOME環環 表紙バックナンバー
Copyright(C) National Institute for Environmental Studies. All Rights Reserved.
バックナンバー