循環・廃棄物のけんきゅう
2021年12月号

なぜ片付けごみを仮置場に出さない(出せない)か

多島 良

片付けごみは仮置場以外にも出されてしまう

以前の記事で、災害で被災してしまった家の片付けで出てくる「片付けごみ」は、分別して仮置場(災害ごみを集積するために自治体が一時的に設置し、運営・管理する場所)まで持っていくことが大切であることや、そうは言っても仮置場以外の場所に分別されないまま出されてしまうことがある実態が紹介されています。例えば、平成30年7月豪雨で大変な被害にあった岡山県倉敷市では、市が管理する仮置場以外の場所、例えば国道沿いや鉄道の高架下にも片付けごみがたくさん出されてしまい、その後の分別や収集でとても苦労しました。同じような問題は、多くの災害で起きています。なぜでしょうか?

人の行動の背景にあるもの

仮置場ではない場所に片付けごみを出す理由を探っていくために、関係する理論を手掛かりにしましょう。ごみを正しく分別する、ポイ捨てをしない、あるいは節電するといった「環境にやさしい行動」をとる要因は、国内外の多くの研究者によって少しずつ解明されてきています。これらの成果を整理した研究によれば、行動の要因は大きく3種類にまとめられます。1つ目が、「意図」です。例えば、「ごみを分別するのは良いことだ」「ごみを分別しないと近所の人に悪い」「ごみの分別は簡単にできる」といった考えから、「よし、ごみを分別しよう!」という行動する意図が生まれて、実際の行動につながる場合です。2つ目が、「状況」です。ごみの分別を決心しても、ごみ袋がない、分別したものを出す場所がないといった物理的な制約によって行動がとられないことがあります。3つ目が、「習慣」です。「意図」と「状況」が行動に影響するという考え方には、人は自分の考えや置かれた状況に基づいて合理的に判断して行動しているという理解に立っています。しかし、そこまで深く考えずに「いつもやっているからやる」という理解に立って行動を説明するのが、習慣を要因とする考え方です。これら3種類の要因はお互いに影響しあいますし、それぞれに様々な背景が関係しています。また、想定する行動の特徴(大変な労力を伴う行動なのか、簡単にできることなのか、など)によって、要因の働き方が変わると理解されています。

平成30年7月豪雨の事例から考える

では、冒頭に見た倉敷市の例で、実際にどの要因が影響していたかを確かめてみましょう。倉敷市では仮置場まで持っていくことを基本としつつも、やむを得ない場合は自宅周辺の空き地などに出すことも認めていました。そこで、まずはどの程度の人が仮置場以外の場所に片付けごみを出したかを調べました。このために、市が設置した7か所の仮置場と、仮置場以外で片付けごみが出されていた5つの場所(自宅前、集積所、空き地など)のリストから、実際に自分が片付けごみを出した場所を選んでいただくアンケート調査を行いました。その結果、市が設置した仮置場と同じくらい、その他の場所に片付けごみを出した被災者がいたことが分かりました。

このアンケート調査では、仮置場以外の場所に片付けごみを持っていくことに影響しそうな「意図」と「状況」に関わる質問もしています(片付けごみを出すという行動が習慣になっている人はいないと思いますので、第3の要因としてご紹介した「習慣」は含めませんでした)。例えば、片付けごみを運ぶ車を用意できたかという「状況」を確認するために、「災害ごみを十分に運ぶことのできる車を用意できた」という文章にどの程度あてはまるかを「とてもそう思う」から「全くそう思わない」までの5つの選択肢から選んでいただきました。この設問で「全くそう思わない」と答えた人ほど、仮置場以外の場所に片付けごみを出したと答えていれば、車を用意できないという「状況」が一つの要因ではないかと推測できます。同じような考え方で、複数の要因をまとめて一度に分析する統計解析を行ったところ、図1のように要因を整理することができました。

図1 平成30年7月豪雨の倉敷市で仮置場以外の場所に片付けごみが出された要因 図1 平成30年7月豪雨の倉敷市で仮置場以外の場所に片付けごみが出された要因
【写真の出典:災害廃棄物対策フォトチャンネル(http://kouikishori.env.go.jp/photo_channel/h30_suigai/search/)】

まず、①被災宅からすぐ近くにある「自宅前・集積所」に出す場合と、②少し離れた場所にある「空き地・道路端」に出す場合で、共通する要因とそれぞれにしか影響しない要因がありました。①と②に共通する要因としては、片付けごみを運ぶための車の手配が難しかった、排出場所は仮置場が原則であることを知らなかった、仮置場が遠かった、の3つのがありました。濡れて重たくなった片付けごみは、車がなければ遠くまで運べません。倉敷市の一世帯当たりの自動車保有数は1.42台と、全国平均の1.06台よりも少し多いくらいですが、この水害の直後は、浸水して使えなくなってしまったり、軽トラックのような片付けごみを運ぶのに適した車が手に入らなかったりしたと思われます。排出場所が伝わっていなかったということは、自治体による広報の課題です。倉敷市は片付けごみの出し方を案内していましたが、災害時には様々な情報が錯綜したり、普段であれば届く情報も届かなかったりしますので、十分に情報が届かなかったのでしょう。仮置場が遠いという点について、市が設置した仮置場は、被災者が多かった地域から約2km程度の場所でした。普段であれば車を使って10分程度で往復することができるかもしれませんが、当時は災害対応車両が多く交通状況が混乱していたため、往復するのにかなりの時間がかかってしまったことが、仮置場の利用を阻害したのかもしれません。また、①にのみ影響する要因として、自宅前の道路が広くて片付けごみの量が少ないことがありました。量が少なく、道路が広ければ自宅前に出しても邪魔にならないと考えられたのかもしれません。②にのみ影響する要因としては、周囲もルールを守っていない(周りの人も仮置場以外に出している)と感じることがありました。他の人がすでに多くの片付けごみを置いていたら、自分も置いてしまおうという気持ちになったと考えられます。

こうしたメカニズムをふまえると、これから起きる災害で、できるだけ仮置場で片付けごみが出されるようにするには、社会としてどのような準備を普段から進めておくべきでしょうか?例えば、①と②に共通する要因に関連した準備を考えてみます。まず、車を確保しにくいという点は、片付けごみを仮置場に出す作業についてボランティアとの連携体制を作っておくことが一つの対策です。被災した方の多くは、被災した自宅の片付けや掃除の手伝いをボランティアにお願いするため、ボランティアで片付けごみを運ぶ道具や車を手配できれば大きな力になります。排出場所を知らない人を減らすには、防災行政無線、広報誌、ちらし、ホームページ、ツイッターなど様々な手段を効果的に組み合わせて、片付けごみの出し方を周知する準備をしておくことが重要です。さらに、仮置場の遠さへの対応として、市内の様々な場所に仮置場の候補地をあらかじめ選んでおくことが考えられます。なぜ片付けごみが仮置場以外に出されるのか、研究を通してその背景を知ることで、このように次の対策を考えられるようになるのです。

<もっと専門的に知りたい人は>
  • 多島良, 森嶋順子(2021)片付けごみを仮置場以外で排出する要因の検討. 廃棄物資源循環学会論文誌, 32, 31–42.
    https://doi.org/10.3985/jjsmcwm.32.31
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