ポリシーブリーフ5「世界的潮流をふまえた効果的かつ効率的なEPR制度への改善」
- (公開日 2023年6月30日)
- 政策テーマ
- 拡大生産者責任(EPR)
- 想定する読者
- 製品・廃棄物政策の政策担当者、生産者、流通業者、リサイクラー、廃棄物処理業者、自治体、市民団体
- 問題
- EPRの忌避による製品連鎖システムの最適化の未達成
- 問題解決のための政策オプション
- 世界的潮流をふまえた効果的かつ効率的なEPR制度への改善
( *2 合同会社エコ・インテレクト代表)
背景
製品廃棄物の処理・リサイクルを効果的に実施する場合、製品設計の段階からどのように処理・リサイクルされるのかを想定しておくことが大切であり、そのためには製品の生産者の関与が不可欠となる。このような考え方は拡大生産者責任(EPR: Extended Producer Responsibility)と名付けられて1990年代に登場し、2013年頃にはすでに350以上のEPR制度が世界中に存在するようになった(OECD 2016)。その後の数は把握されていないが、米国のみでも2013年以降の10年間でその数は約1.5倍に増えており(PSI 2023)、世界的にみればEPR制度の発展は今も続いている。
一方、日本では、EPRへの「アレルギー」と呼ぶべきようなものがあり、ステークホルダー間での責任のなすりつけあいに陥りがちであった。製品の生産から流通、使用、廃棄という一連の「製品連鎖システム」の全体を改善させる議論につなげられないまま、言い換えれば制度的には部分最適化された状態のまま(田崎 2015)、アップデートされたOECDのEPRガイダンスマニュアル(2016)に対しても、製品のリサイクル性に応じて料金を変化させる「調整費用」(OECD 2021)の採用に対しても、政策的対応や導入が積極的に行われずに現在に至っている。
EPR制度の設計における世界的潮流
それでは、日本がEPR制度の発展においてロックイン状態にあるなか、世界の制度はどのような展開をみせているのであろうか。個別に深掘りした調査が必要であるが、著者らが注目するいくつかの観点を挙げると次のとおりである。
このうち①のアンブレラ法は、多品種の製品を対象とするEPR制度を指し、フランスや韓国のEPR制度があてはまる。制度のコンセプトを重視しやすく、共通概念のもとEPRの適用が図られ、品目を拡大がしやすい条件が整っている。フランスでは2021年から2025年にかけて11品目の追加を進めていることが注目される。複数の制度のはざまに落ちてしまう問題への対応も行いやすく、動的にみた制度の有効性確保という観点でも興味深い制度類型である。②については、海洋等へのプラスチック流出問題を受け、容器包装プラスチックだけでなくその他のプラスチック製品(玩具、スポーツ用品、たばこのフィルター、漁具など)に適用を拡大していく政策動向がある。とりわけ、たばこのフィルターと漁具については、リサイクル・リユースあるいは有害廃棄物の適正処理という目的よりも自然環境中への散逸防止という観点が強くなっており、EPR制度の適用対象要件が拡大しているといえる(なお、散逸防止という点では、EPR制度における一手法であるデポジット制度も同じ目的を有しているが、既存のデポジット制度は特定のリサイクル・リユースされる有用物あるいは有害物・処理困難物を対象にしており、プラスチックという低有害性だが大量である廃棄物を幅広く対象に加えていく今回の動向とは性格を異にするものである。また、容器包装リサイクル法はまさしく低有害性だが大量である廃棄物を対象とするが、リサイクルとごみ減量を主目的としており散逸防止を主目的とはしていない)。③については、収集・リサイクル・処理の直接費用だけでなく、普及啓発費や散乱ごみ対策費、技術開発費等にも支出が行われている制度が登場している。④については、これまでのEPR制度の料金設定では、リサイクル性向上などの製品設計の改善に対する十分なインセンティブを生まなかったことから、優等あるいは劣等な環境配慮設計の判定基準を考案・設定し、その判定基準に基づき、EPR制度における料金徴収額を設定することで、製品設計の改善のインセンティブを強化するものである。具体的な判定基準の設定については各制度で試行錯誤が行われている状況といえるが、基本的考え方として「ボーナス・マルス」(Bonus-Malus;環境に良い製品にはボーナス(報酬)としてその生産者からの徴収額を小さくし、環境に悪い製品にはマルスとして懲罰的にその生産者からの徴収額を大きくする考え方。ラテン語で「良い・悪い」を意味する。)という考え方が広く共通した指導原則になりつつある。
日本においてもこれらの世界的潮流をふまえ、より効果的かつ効率的なリサイクル・廃棄物管理制度へと既存制度の見直しと新規制度の立案をステークホルダーとともに議論・検討していくことが望まれる。
EPR制度の設計における認識論:有効なメカニズム設計へ
最後に、制度設計においては認識論が大きく影響するため、制度の概念を確認しておきたい。まず、日本においてはEPRに関する議論は生産物に対する責任論で終始しがちであるが、取り組みに積極的な関係者だけでなく取り組みに消極的な関係者にも同様の行動を求めるという公平性の観点を重視し、市場における最低限の共通ルール(英語ではa level playing fieldなどと呼ばれることが多い。)をEPR制度を通じて創り出すこと、ならびに関係者が取り組みを実施しやすくするイネーブラーとして機能する制度メカニズムを創り出すことにも重きが置かれるべきである。
次に、意見表明をする人の野心度や公共介入方法の選好などによっても異なる制度が想起されることが指摘されている(田崎・松本2022)。要約すると次頁の図のとおりとなる。政策によって達成しようとする到達点(野心度)によって、検討する制度の射程が大きく異なる(上段)。また、生産者に課す責任の厳格さ(中段)や公共介入方法の選好(下段)によってもEPRの捉え方が異なり、それに応じてEPR制度の設計思想、すなわち強制的制度を指向するか自主的制度を指向するか、役割や責任の分担を重視するか、あるいは統括的・監督的な責任を集中させるかどうか、責務規定を重視するか市場メカニズムの活用を重視するかなどが異なってくる。
今後の制度検討においては、これらの議論に終始することなく、なぜ責務規定は他よりも有効なのか、あるいは市場メカニズムの活用が他よりも有効なのか、という制度オプションの有効性や、顕在化してきている問題への制度オプションの対応有効性を議論することが必要である。
引用文献
- OECD (2016) Extended Producer Responsibility, Updated Guidance for Efficient Waste Management, OECD Publishing, https://doi.org/10.1787/9789264256385-en
- OECD (2021) Modulated Fees for Extended Producer Responsibility Schemes (EPR), Environment Working Paper No. 184, OECD Publishing, https://doi.org/10.1787/2a42f54b-en
- PSIホームページ、2023年5月12日参照、https://productstewardship.us/
- 田崎智宏 (2015) リサイクル制度における責任分担がもたらした弊害と目標設定の意義. 環境経済・政策研究, 8 (1), 78-81. https://doi.org/10.14927/reeps.8.1_78
- 田崎智宏, 松本津奈子 (2022) 日本における拡大生産者責任 (EPR) に対する認識の多様性と政策対話および政策展開への示唆~ステークホルダー・インタビューに基づいて~. 廃棄物学会論文誌, 33, 178-192. https://doi.org/10.3985/jjsmcwm.33.178