著者 田崎智宏*1、河井紘輔*1、寺園淳*2、稲葉陸太*1
(*1 資源循環・廃棄物研究センター 循環型社会システム研究室)
(*2 資源循環・廃棄物研究センター)
* 本ポリシーブリーフにおける見解は著者らによるものであり、必ずしも国立環境研究所もしくは資源循環・廃棄物研究センターの見解を述べたものではありません。
リサイクル率の指標は、これまでのリサイクルの取り組みを把握するうえで重要な指標であったが、いくつかの課題を抱えている。
- 第一に、リサイクルできるものを、廃棄物処理の方に引き渡すことなく分別して集めることを評価しない。とりわけ、市民やごみ排出者の分別協力の取り組みを評価しない。
-
- 分別リサイクルに協力した市民等の努力とリサイクル率の指標値との間にギャップが生じてしまうことがある。市民が分別排出をしても、汚れなどのために再資源化施設で捨てられてしまう分があることは仕方がないが、自分達は無意味な分別をやらされているという市民の誤解を招くことがある。
- 第二に、ある自治体内で民間がリサイクルを進めると、自治体が集める一般廃棄物の量が減ってしまうことで、当該自治体内のリサイクルの状況は悪くなっていないにも関わらず、見かけ上、リサイクル率が低下してしまう。
-
- 民間の分別リサイクルには、店頭でのリサイクル品(缶、ペットボトル、白色トレーなど)の回収や新聞店による古紙回収、町中を巡回している資源回収業者による回収などが含まれる。近年は、特に古紙の回収が進むなど、自治体が回収しない分が増えている。
- 第三に、リサイクル施設に持ち込まれた廃棄物等のうち、どれだけ(何割)が有効に再資源化できているかというリサイクル工程の優劣を示さない。
-
- 日本全体でみれば、マテリアルリサイクル施設に投入された廃プラスチックのうち、約2割が残渣となっている(リサイクル材としての品質に満たない廃プラスチックは残渣になる)。リサイクル施設に持ち込んだからといって、品質の問題から全てがリサイクルされるわけではない。
- 第四に、リサイクルの量の指標であり、どれだけ品位の高いリサイクル材に再資源化できたかを示さない。
-
- 例えば、アップサイクル、水平リサイクル、カスケードリサイクルを区別しない。
- 第五に、再資源化されたリサイクル材を使おうとするインセンティブを与えない。
-
- 廃棄物からリサイクル品をつくっても、売れるとは限らない。
今後は下図に示すように4つの断面でリサイクルの取り組み状態を計測・評価していくことが望ましい。単一の指標ではいずれにしても全体把握が困難であり、これまでのリサイクル率を他の単一指標に変えても問題は生じてしまう(例えば、指標aを用いてきたEUでは低品質のモノがリサイクル施設に集まり、再資源化の負担がかかってしまった。)
- a)の仕向け率の指標で、分別回収と環境中への流出防止の状況を計測し、資源を着実に回収するために用いる。
-
- 一般廃棄物についていえば、指標の算出において民間回収量を含むか含まないかは明確にし、異なる意味を有する仕分け率どうしを比較しないように注意する必要がある。
- b)の有効資源化率の指標で、施設のリサイクル・パフォーマンスを計測する。
- c)の循環高度化指標で、よりよい資源循環の方向へと取り組みを促す。
-
- この指標の開発は今後の課題である(著者らの試行的な検討として2019年の廃棄物資源循環学会で口頭発表したものがある)。
- d)のリサイクル材利用割合の指標は、リサイクル材の需要喚起と、利用事業者の取り組みアピールに用いる。
-
- サーキュラー・エコノミーの取り組みが進むなか、国外で採用されつつある指標であり、事業者の3Rの取り組みは、これまでのリサイクル率の指標(アウトフローの指標)とともにこの指標(インフローの指標;場合によっては素材種別に)で捉えていくことが大切である。
- 上図の指標群に加えて、地域内の循環割合や再生可能資源の利用割合にも着目することが望ましい。
* 上記の内容は、2016~2020年度に実施した研究プロジェクト「維持可能な循環型社会への転換方策の提案」の研究成果をふまえて、著者らが政策含意を積極的に解釈・提示したものである。