循環・廃棄物の基礎講座
2016年2月号

POPs条約の最近の動向

山本 貴士

POPsとは?

環境中には、ヒトやその他の生物に有害である物質が存在しています。このうち、有機物であって、環境中で分解を受けずに長期間残留する、食物連鎖により生体内に蓄積する、揮発や沈着を繰り返して長距離を移動するといった性質を持つものを、残留性有機汚染物質(POPs)とよびます。POPsの中には、過去に農薬や化学製品として製造・使用されたもの(例えばジクロロジフェニルトリクロロエタン(DDT)、ポリ塩化ビフェニル(PCB))や、焼却等により生成するもの(例えばダイオキシン類)、化学製品の合成の際の不純物として生成するものがあります。

POPsによる環境汚染や健康被害の例として、既に1962年のレイチェル・カーソンの「沈黙の春」において、DDT等の有機塩素系農薬による環境汚染とその影響が指摘されています。1968年には、PCBが混入した食用油の摂取により多数の患者が発生したカネミ油症事件がおこっています。また、1990年代にはごみ焼却によるダイオキシン類による汚染が問題となり、1999年にダイオキシン類対策特別措置法が制定され、ダイオキシン類削減のための取組がなされてきました。

POPs条約の対象とするPOPs

これらPOPsによる環境汚染に対する国際的取組の枠組みとして、2001年5月に「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約」(POPs条約)が採択され、2004年5月に発効しています。この条約では、各国に対して以下のような様々な対策をとることを求めています。1. POPsの製造・使用・輸出入等の原則禁止、2. 製造・使用することによって得られる便益(例えば疾病の予防)が大きい一部POPsについては製造・使用の原則制限、3. 意図せずに生成するPOPsの削減、4. POPsを含む廃棄物の適正管理及び処理、5. これらの対策に関する国内実施計画の策定、6. POPsに関する調査研究・モニタリング等。

POPs条約の対象となるPOPsは、それぞれ前述のとるべき対策に対応して、A(廃絶)、B(制限)、C(非意図的生成の削減)に区分されて条約附属書に掲載されており、当初は12物質でした。その後、締約国から提案された物質について、専門家からなる検討委員会で検討がなされ、2009年に開催された第4回締約国会議(COP4)において臭素化ジフェニルエーテル(PBDE)やペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)等の9物質が追加されました。以後、2011年に開催された第5回締約国会議(COP5)でエンドスルファン、2013年に開催された第6回締約国会議(COP6)でヘキサブロモシクロドデカン(HBCD)が追加されています(表1)。

表1 POPs条約の対象となるPOPs一覧

表1 POPs条約の対象となるPOPs一覧

POPs条約第7回締約国会議

2015年5月には、スイス・ジュネーブで第7回締約国会議(COP7)が開催されました。COP7では、規制対象物質の追加、条約附属書A(廃絶)又は附属書B(制限)の適用除外の評価(適当な代替物質が無い等の理由で条約を適用しないことが認められた用途について、見直しを行うこと).、条約の有効性評価、遵守手続(条約違反の認定や認定された国に対する処遇を決定する手続き)について議論がなされました。

規制対象物質の追加に関しては、残留性有機汚染物質検討委員会(POPRC)における検討結果を踏まえ、附属書A及びC(非意図的生成の削減)にポリ塩化ナフタレン(PCN) (塩素数が2~8のもの)、附属書Aにヘキサクロロブタジエン(HCBD)及びペンタクロロフェノール(PCP)とその塩及びエステルを追加することが決定しました。HCBDの附属書Cへの追加は見送られ、今後POPRCにおいて更に検討することとなりました。適用除外の評価に関しては、附属書Bに掲載されているDDTについて、病気媒介動物の駆除目的での使用の継続的な必要性について合意されました。同じく附属書Bに掲載のPFOSとその塩、PFOSFについては、カーペット、皮革及び衣類、繊維製品及び室内装飾品、紙及び包装用品、表面処理剤及びその調製添加剤、ゴム及びプラスチックの個別の適用除外の延長はしないこと、エッチング剤、半導体用レジスト等附属書に定める目的の製造又は使用は継続して必要であることが確認されました。また、附属書Aに掲載のPBDEについては、2017年のCOP8で個別の適用除外の延長継続の必要性評価を行うこととなりました。条約の有効性評価に関しては、事務局により提案された有効性評価委員会のメンバーの選出、及び2017年のCOP8での報告に向けた有効性評価の実施等に係る決議が採択されました。遵守手続に関しては、遵守委員会の設置については合意に至らず、次回COPでの採択に向けて引き続き検討することとなりました。

以上、POPs条約COP7の結果について説明しましたが、有害化学物質や有害廃棄物の国際移動に関する条約である「有害廃棄物の国境を越える移動及びその処分の規制に関するバーゼル条約」(バーゼル条約)、「国際貿易の対象となる特定の有害な化学物質及び駆除剤についての事前のかつ情報に基づく同意の手続に関するロッテルダム条約」(ロッテルダム条約)の締約国会議も同時に開催されています。このうち、バーゼル条約の第12回締約国会議において、POPs廃棄物に関する議論が行われました。この中では、前回締約国会議の決定に基づいて策定、更新作業が行われたPOPs廃棄物に関する技術ガイドラインの採択がなされました。このうち、「PCBs、PCTs若しくはHBBを含めたPBBsから成り、じゅん&しげるこれらを含み、またはこれらにより汚染された廃棄物の環境上適正な管理に関する技術ガイドライン」は、日本がリード国として更新作業を主導しています。また、各種技術ガイドラインと合わせて参照される総合技術ガイドラインにおいて、適正処理が求められる基準値である、低POP含有量(LPO)の値が、PFOS、PBDEs、HBCD等について新たに定められました。

以上の締約国会議の成果を踏まえ、今後国内では、条約で定められた規制内容に基づく措置の実施体制の整備や、追加POPs物質のモニタリング、バーゼル条約技術ガイドラインを踏まえたPOPs廃棄物の処理実態のレビューが行われることとなります。

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