循環・廃棄物の基礎講座
2013年6月号

戦略的・段階的な3Rの推進と取組指標

田崎 智宏

3Rの取組が次なる局面へ

循環型社会元年と呼ばれる2000年から十数年が経過しました。リデュース・リユース・リサイクルという3Rの取組が様々な分野で拡がり、進められてきたのがこの十数年だったといえます。いろいろなリサイクル法、例えば、容器包装リサイクル法 、家電リサイクル法 、食品リサイクル法 ができ、また、法律によらない事業者による自発的取組などが進められてきました。

これらの取組を効果的に進めていくために、よく行われるのがロードマップの作成です。ロードマップには、数年といった短中期の具体的な実施事項を提示するものや、中長期に起こりうることを想定して備えていくためのものなど、いくつか異なる種類があります。国が策定する循環型社会形成推進基本計画(以下、「循環基本計画」)は、まさしく前者のロードマップといえます(後者のロードマップないしは戦略を作成することは、シナリオ・プランニングと呼ばれています。循環型社会におけるシナリオ・プランングについてはこちらの記事を参照ください)。循環基本計画は、2003年に第一次計画が策定され、今年の5月末に第三次計画が閣議決定されたところです。

イラスト:しげる

第三次循環基本計画の概要をみてみますと、「『質』にも着目した循環型社会の形成」、「国際的取組の推進」の2つの柱が基本的方向として提示されています。ここで、「『質』にも着目」というのは、具体的には、①リサイクルより優先順位の高い2R(リデュース・リユース)の取組を進める、②使用済製品からの有用金属の回収、③水平リサイクル等の高度なリサイクルの推進などが掲げられています。言い換えれば、たくさんの量をリサイクルすればよい時代から、リサイクルの具体的内容を見極め、より環境負荷や資源消費の少ないリサイクルや2Rの取組を進める時代へと移ってきたといえます。

循環基本計画の取組指標と取組の推進

循環基本計画では、各主体が行う個別の具体的取組を提示するだけでなく、取組の進展度合いを計測・評価し、更なる取組を促すための「取組指標」が設定されてきました。取組指標は、第一次計画から設定されており、第三次計画案では小項目で27の指標が提示されています。なかには、達成目標を設定している指標もあります。取組指標に何を設定するかは取組を進めるうえで重要なので、前述の時代変化をふまえつつ、次なる局面を意識した指標設定を行うことが第三次計画における論点の一つでした。著者は、その検討に関わりましたので、そのときの議論の内容をご紹介しながら、取組を段階的に進めていく考え方を説明したいと思います。

取組の段階的実施

第三次計画の策定にあたっては、「取組指標の設定の考え方(案)」というものが、昨年2012年9月の第74回中央環境審議会循環型社会計画部会の資料のなかで提示されています。考え方の一つに、「指標の数が増えすぎると、かえって各指標のメッセージ性が薄れてしまうおそれもあることから、取組の進展度合い等を考慮し、既存の指標を整理統合」するということが示されています。ここでは指標の数を抑えるというテクニカルな部分に主眼が置かれた説明になっていますが、取組の進展度合いを考慮することは、「次なる取組は何か」「現在の取組が順調に実施され一区切りをつけてよい時期に来ているか」という取組の段階的実施を考えることと密接な関係があります。

図 段階的な取組の進め方の概念図 図 段階的な取組の進め方の概念図

段階的な取組の実施についての考え方を図に示します。横軸が時間を表し、縦軸が取組の進展度を示します。まず、第一段階では、取組が日本(ないしは世界)のある地域で始まる段階です。この段階においては、3Rの政策としては、取組が始まるまでの期間(リードタイム)をできるだけ短くすることが求められます。したがって、こういった新しい取組があるということを関係者に伝え、取組の着手を促すことが大切になります。第二段階は、先進的に取り組まれた事例を他の地域や他の関係者へと広げていく段階です。取組を実施するためのノウハウを共有し、必要な資金等を確保しやすい状況をつくることに政策の焦点がシフトします。第三段階は、取組がより大きな効果を発揮するように調整・発展させていく段階です。もちろん、いくつかある取組のなかで、有効な取組を第一段階、第二段階で選定・拡大することで取組の有効性を高めることは大切なことですので、取組の有効性は第一、第二段階でも考慮されるべきことです。ただ、この段階で考慮される有効性は、ある取組について工夫を行い、同じ取組でもできるだけ大きな効果を得ようとするというものです。

まとめますと、段階が進むにつれ、取組の実施数から取組の効果へと、取組指標ないしは取組の評価の着眼点がシフトしてきます。最初から一気に第三段階の成果を求めることができる場合もありますが、第三段階にたどり着くまでに時間がかかる場合などは、最初から効果を求めすぎることが取組を進める意欲をそぎかねません。他方、いつまでも同じ段階で停滞していることも避けなければなりません。段階に適した取組の種類や実施の仕方というものがあり、その見極めをしていくことが、戦略的な取組の実施において大切なことなのです。

ロールプレイング・ゲームの主人公と同様、3Rの取組はレベルアップしていくものです。ただ、いつレベルアップしたのかはゲームのように教えてくれることはありません。取組を実施する人、支える人、促す人が、それぞれで考えるとともに、議論・意見交換をしながら国の取組状況をきちんと見極めて、適切な対応をしていかなければならないことなのです。

<もっと専門的に知りたい人は>
  • 環境省、中央環境審議会循環型社会部会のページ
  • 田崎智宏 (2012) 循環基本計画と計画行政の展開. 環境経済・政策研究, 5 (2), 93-96
  • 田崎智宏 (2010) 廃棄物発生抑制の取り組み推進に向けた包括的視点. 平成22年廃棄物資源循環学会研究討論会講演論文集, 83-88
<関連する調査・研究>
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