循環・廃棄物のけんきゅう
2023年10月号

浮遊型人工湿地を活用した水質浄化

尾形 有香

グリーンインフラを活用した水質浄化

グリーンインフラとは、自然環境が有する多様な機能を積極的に活用したインフラによって、環境に優しく、持続可能な社会づくりを推進するための技術です。グリーンインフラを活用した水質浄化は、高度な水処理技術と比較して処理性能は劣りますが、外部からの電力や薬品等の投入が少なく、維持管理が容易であることから、長期にわたる環境汚染の未然防止に貢献できると考えています。私達は、これまで主に、自然の機能を活用した排水処理として注目されている人工湿地に着目し、廃棄物埋立地浸出水処理への適用性評価に取組んできました (1),2),3))。人工湿地とは、ろ材によるろ過・吸着作用と、植物による吸収・吸着作用及び蒸散による水量削減、また、微生物代謝を活用した排水処理技術です。これまで取組んできたタイ王国および国内での現場実証試験を通じて、人工湿地は、浸出水中の有機物や窒素の除去に有効であることや、その処理性能は、人工湿地のデザインや水位制御等の運転方法によって影響を受けることが分かりました。また、適切な流入条件と運転方法であれば、植物やろ材の入れ替え無しで、処理性能を長期間低下することなく、持続的に処理できることが示されました。人工湿地は、浸出水処理のオプションとしての活用が期待されますが、現場に導入するには、場所の確保や工事等が必要であり、適用先に制限がありました。

浮遊型人工湿地の開発

そこで、よりフレキシブルな技術として、私達は浮遊型人工湿地の開発を進めています。浮遊型人工湿地とは、名前の通り、浮かせるタイプの人工湿地で、発泡ガラス等のろ材と植物で構成された植栽ユニットに、浮力体を付加した構造となっています (図1)。既存の貯留池に直接導入可能であり、また、導入先に応じて、ろ材、植物の種類や、浮力体のサイズ・形についても、柔軟に変更できます。浮遊型人工湿地のポイントは、ろ材の活用です。植物を活用した従来技術として、ウキクサ等の浮遊性植物や樹脂マット等に植物を入れ込んだ植生浮島があるのですが、これら技術はろ材を用いていないため、浄化能力は植物の吸収・吸着のみに依存していました (図2)。一方、浮遊型人工湿地は、ろ材を活用しているので、ろ材による物理化学除去と、植物、微生物による生物学的除去の相乗効果が得られるとともに、ろ材は、微生物の保持 (微生物担体) としても機能すると考えられます。

これまでの基礎研究によって、浮遊型人工湿地は、浸出水中の有機物、窒素や塩類を除去できることが分かりました。更に、浸出水中に含まれる難分解性有機物質であるフミン酸を効率的に除去できることが示されました。この除去メカニズムを調べたところ、ろ材単独、植物単独では、難分解性有機物質はほとんど除去されませんが、ろ材と植物が共存することで、除去能力が著しく高まることが明らかとなりました。また、遺伝子解析によって、ろ材と植物が共存することで、水質浄化に有用な微生物 (例えば、窒素循環、有機物分解、芳香族化合物の分解や、バイオフィルム形成等の能力を有する微生物) がより多く集積されることも分かり、この効果によって水質浄化能力を向上させると考えられます。ろ材、植物、微生物の複合的作用が、浄化能力を向上させる鍵となることが実験により明らかとなりました。

図1 浮遊型人工湿地 図1 浮遊型人工湿地
図2 従来技術と浮遊型人工湿地の比較 図2 従来技術と浮遊型人工湿地の比較

今後の展開と課題

今後は、浮遊型人工湿地の実装化を目指し、現場実証試験を実施することで、処理性能の評価と持続性の検証を行うとともに、現場適用の課題を抽出していきたいと考えています。また、現在、新たな展開として、特定のペル/ポリフルオロアルキル物質 (PFAS) についても、除去できるか検討をはじめています。

広く実用されるためには、どのような物質の浄化に有効であるかや、どのような水質条件だと適用できるのか等を明らかにする必要があります。また、生物機能を用いた浄化は、温度による影響を受けることから、導入先の気象条件において、どの位の速度で処理できるのかについても評価する必要があります。これらを評価する上で、浄化メカニズムの理解は重要となります。人工湿地・浮遊型人工湿地による浄化は、ろ材による物理化学的除去と、植物、微生物による生物学的除去が関与しており、それぞれ単独による作用に加え、複合的作用によって進行する場合もあり、浄化メカニズムの解明は単純ではありません。しかし、対象とする物質が、どのようなプロセスで浄化されるのか、また、処理性能を向上もしくは阻害する因子は何なのかを理解できると、その物質の浄化に最適なデザインと運転方法を提案することができ、現場導入の実現可能性を高めることができます。科学的知見に基づき、ろ材、植物、微生物の相互作用を合理的に活用することができれば、それぞれの現場に合致した持続可能な浄化技術に繋がるのではないかと思っております。

<もっと専門的に知りたい人は>
  • Kadlec R.H., Wallace S. D. (2009) Treatment Wetlands -Second Edition- CRC Press, Taylor & Francis Group
  • 尾形有香, 中嶋信美, 山村茂樹, 山田正人 (2021) 浮遊型人工湿地. 特願2021-035670, 2021.3.5
  • 尾形有香 (2021) 人工湿地システムを活用した熱帯地域における埋立地浸出水の環境負荷低減─持続可能な埋立地浸出水管理に向けて─. バイオインダストリ, 38 (7), 18-26
  • 尾形有香 (2023) フレキシブルに導入可能!浮遊型人工湿地による浄化と緑化. JST新技術説明https://shingi.jst.go.jp/list/list_2023/2023_nies.html#20230713A-001
<関連する調査・研究>
【第5期中長期計画】
【第4期中長期計画】
資源循環領域 オンラインマガジン「環環」 資源循環領域 HOMEへ戻る 国立環境研究所 HOMEへ戻る 近況 循環・廃棄物の基礎講座 循環・廃棄物のけんきゅう 循環・廃棄物の豆知識 けんきゅうの現場から 活動レポート 素朴な疑問Q&A特別企画 表紙 総集編 バックナンバー バックナンバー