循環・廃棄物の基礎講座
2013年2月号

人工湿地による排水処理

神保 有亮

人工湿地とは?

図 北海道で導入された人工湿地(垂直流) 図 北海道で導入された人工湿地(垂直流)

湿地には多様な生物が生息し、常に浸潤状態が保たれている根圏部では、多くの微生物が繁殖しています。この植物(根)・土壌・微生物による物理的な吸着・濾過および生物的な浄化作用に注目し、自然界中に存在する湿地を模して人工的に作られた建造された湿地が人工湿地であり、高効率な排水処理技術として用いられています。主にヨーロッパを中心に人工湿地は用いられてきましたが、近年、日本でも用いられるようになり、北海道を中心に、毎日発生する数トンもの畜産し尿や、廃棄乳を含んだパーラー排水の処理に人工湿地が導入され始めています(図)。

人工湿地は基本的な構造として、排水を処理するための土壌となる部分(深さおよそ1m)と、水底に根を張り、茎や葉の一部を水面上に出している抽水植物から構成されます。加えて、排水を湿地表面を流す自由表面流、排水を湿地中を横方向に浸透させる水平浸透流、排水を湿地中を縦方向に浸透させる垂直流の3種類の流下方式があり、どういった処理を行いたいかにより、これら3種類の流下方式を組み合わせ、1つのシステムを構築します。多くの場合、植栽植物は上で挙げた、ヨシ、ガマ、マコモなどが用いられますが、植栽植物に観葉植物を用いて、人工湿地ごと公園として利用されているところもあります。

人工湿地のメリットと課題

人工湿地のメリットとしては、生態系の力を利用した生態工学的な手法であることから、電気的なエネルギーをほとんど必要としない、維持管理をほとんど必要としないということが挙げられます。多くのケースの場合、人工湿地に処理したい排水を投入するだけですので、大がかりなシステムは必要ありません。また、人工湿地内では動物の住処(すみか)となる部分が存在し、湿地内だけで1つの生態系ピラミッドが構築されています。実際にミミズやボウフラなどの微小動物が数多く生息していると同時に、それらを餌とするカエル等の動物も多く存在しています。その食物連鎖の中で、湿地内部に蓄積した窒素やリンなどの栄養分は、最終的にはヘビや鳥類などの大型動物等によって自然界中へ排出されていきます。このように、人工湿地は自然界中と類似した生態系を備えていることから、自然調和型の技術としても注目されています。これらのことから、人工湿地は開発途上国にも適用可能な排水処理技術として注目されています。一方で、デメリットも存在し、これまでの排水処理技術のものと比較して、数倍~十数倍もの面積を必要とするため、住宅などが密集する地域では導入が難しいという特徴があります。また、流下方式によっては処理水が湿地内に溜まってしまい、蚊の発生源となることもあります。東南アジアなど、蚊が媒介する感染症が多い地域では適用できない場合があります。

人工湿地の適用例

人工湿地は主に排水処理として利用されていますが、その処理の対象となる排水の種類は様々です。多くは、し尿、雑排水を含む生活排水の処理に使用されており、特に開発途上国を中心に用いられています。中国では近年の環境意識の向上から、排水処理に対して人工湿地の導入事例が数多くあり、報告されているだけで、2000以上の人工湿地が中国国内に存在していると言われます。現在、国立環境研究所バイオ・エコエンジニアリング研究施設にある人工湿地も実際の生活排水を用いて研究を行っています。

また、畜産排水、埋立浸出水など、生活排水よりも濃度の高い排水の処理にも人工湿地は用いられています。ご存じの通り、北海道では畜産業が盛んであり、そこから発生する畜産排水は、土壌汚染や地下水汚染等、様々な点から問題になっています。それらを低コストで高効率に処理するために、近年、人工湿地が用いられるようになりました。もちろん生活排水より高濃度な排水ですので、より大きい人工湿地を必要としますが、牧草地の一部を利用して人工湿地を運用しています。埋立浸出水とは、埋立地から浸出してくる排水のことで、雨が埋立地内部に浸透し、埋立処分された廃棄物が分解されて出てくるため、高濃度の排水となって出てくる水のことです。埋立地は、埋立完了後、安定化するまで数十年かかりますが、その間も浸出水は排出され続けるため、別途、浸出水処理システムを導入する必要があります。そこに人工湿地を導入し、処理を行うことで、安く安定的に、かつ長期的に埋立浸出水を処理することを目指しています。

変わった排水処理としては、ワイン醸造所の排水を処理したり、動物園から出る動物の排泄物の処理にも人工湿地が用いられたりしているようです。

人工湿地は排水処理以外にも用いられており、中国の一部では、飲料水を作る浄水場の取水口周辺に人工湿地を構築し、よりきれいな水から飲料水を作っています。また、北欧やオーストラリアなどでは、道路脇に人工湿地を構築し、道路表面上を流れた雨水の処理に人工湿地が用いられています。

人工湿地のこれから

イラスト:もとこ

21世紀になり、様々な環境問題がさらに注目されるようになりました。地球温暖化問題では、様々な処理プロセスから発生する温室効果ガスが検討されていますが、排水処理プロセスからも温室効果ガスが発生しており、それらを削減する研究が進んでいます(循環・廃棄物のけんきゅう 2012.2佐野彰 排水処理における温室効果ガス排出量の削減)。これまでの研究で、人工湿地から発生する温室効果ガスは、浄化槽などの一般的な排水処理から発生する温室効果ガスより少ないということが分かってきました。また、21世紀の国際社会の目標として貧困と飢餓の撲滅や環境の持続可能性確保など8つの目標を掲げた国連ミレニアム開発目標(MDGs:Millennium Development Goals)において、基本的な衛生施設を利用できない人の割合を2015年までに半減させることが掲げられています。この目標の対象となる地域では、基本的な衛生施設を持たず、衛生環境は劣悪であり、また、電気・水道などの基本的なインフラ施設も整っていないことから、このような地域では、処理に特別なエネルギーを必要とせずメンテナンスも容易な人工湿地の適用が可能であり、環境問題、エネルギー問題が叫ばれる現在、途上国における排水処理、衛生問題等の解決に貢献可能なポテンシャルを十分に有していると考えられます。

参考資料
  • Jan Vymazal :Removal of nutrients in various types of constructed wetlands., Science of The Total Environment, 380 (2007), pp. 65-78
<関連する調査・研究>
  1. 研究プロジェクト2
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