けんきゅうの現場から
2014年10月号

タイの廃棄物埋立地における人工湿地

尾形 有香

現在、私達は、東南アジア諸国の廃棄物埋立地管理の向上に向けて、人工湿地 (人工湿地による排水処理、2013年2月号) による廃棄物埋立地浸出水 (廃棄物埋立地浸出水、2014年3月号) の処理への適用性評価について、タイの廃棄物埋立地に人工湿地を設置し研究を進めています。(東南アジアの埋立地浸出水処理への人工湿地技術の適用、2014年3月号)。今回は、タイの廃棄物埋立地の状況や人工湿地を設置・運転するまでの道のりを紹介します。

海外の実サイトで研究を進める

現地に技術を導入する際には、予め、実サイトで適用技術を評価して改良を進めていくことが重要です。特に生物を利用した処理技術は温度などの気象条件や処理対象水の水質によって、処理性能が大きく影響を受けます。また、東南アジアで持続的に運用する上で、現地の技術力や使用できる資材・インフラなどを実際に把握することが重要となります。

当センターは、タイのキングモンクット工科大学やカセサート大学と、廃棄物管理分野の共同研究拠点を設立しており(循環センターHP)、本研究では、主にカセサート大学と協力して、バンコクから北西に約40 kmに位置するノンタブリ県サイノイ区の廃棄物埋立地で人工湿地の適用性評価に関する研究を進めています。研究の方針や人工湿地の設置場所については、埋立地を管理しているノンタブリ県とも議論し、決定しました。

サイノイ廃棄物埋立地の状況

図1. サイノイ廃棄物埋立地の様子 図1. サイノイ廃棄物埋立地の様子

サイノイ廃棄物埋立地では、ノンタブリ県で発生したごみを直接埋め立てており、埋立物は、主に生ごみ、プラスチック、紙、草本類となっています。埋立地の現場では、ごみの中から有価物を回収し売却することを生業としている、ウェスト・ピッカーも多く、子供が裸足で廃棄物埋立地内を歩いている姿や、生ゴミを狙う鳥、野犬などが見られます (図1)。また、サイノイ廃棄物埋立地を始め、東南アジアの廃棄物埋立地の多くでは、電力が十分に整っておらず、利用できる電力が限られています。以前、開発援助の一環で、凝集沈殿・膜処理を組み合わせた廃水水処理技術が導入されたのですが、経済的観点より、維持・管理するのが困難であることから、運転が停止されています。現在、浸出水処理は、貯留池のみの自然蒸発・浄化によって行われています。東南アジア諸国の中では経済が発展しているタイにおいても、まだまだ廃棄物埋立地の管理は不十分であることを目の当りしました。

パイロットスケール人工湿地の構築

たまき私たちは、東南アジア諸国の廃棄物埋立地の現状を踏まえ、現地で調達可能な資材を用い、容易に設置・運転可能な浸出水処理技術を活用する人工湿地の構築を目指しました。

始めに、コンクリートの容器 (横1m, 縦2m, 高さ1m) を設置し、次に、現地で調達可能な塩ビパイプ・工具を用いて排管を設置した後、容器内に砂・礫をつめ、後は植物を植栽するだけで完成です。このような大きなプランター菜園は、誰にでも簡単に作れます。ただし、ここで、鍵となるのは、植栽する植物種と運転条件です。サイノイ廃棄物埋立地の浸出水は、人工湿地の処理対象水として、有機物や窒素・リンの濃度は低いのですが、耐塩性の低い植物が枯死してしまうほど塩分濃度が高い特徴を有していました。予備試験で、埋立地の敷地内において自生していたガマは、浸出水中でも、枯死せずに生育可能であることが確認できたので、植栽植物として用いることにしました。ガマは、タイでは、道路わきや空地などに多く自生しており、人工湿地のために、特別に入手する必要が無く、容易に入手・維持可能であるのが利点です。

持続的な維持管理を目指して

さて、人工湿地は簡単に作成できるのですが、果たして、人工湿地を導入することで廃棄物埋立地の浸出水の管理は良くなるのでしょうか?人工湿地による廃水処理は、水位、水の流れ方、負荷量などの運転条件によって、処理可能な物質やその性能が大きく変わります。言い換えれば、そのパターンを理解し制御することができれば、東南アジア諸国の廃棄物埋立地において、人工湿地による長期持続的な浸出水の処理が可能となるかもしれません。現在は、これらの条件を明らかにする研究に取り組んでいます。(東南アジアの埋立地浸出水処理への人工湿地技術の適用、2014年3月号)

図2. パイロットスケール人工湿地の構築 図2. パイロットスケール人工湿地の構築
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