特別企画
2019年12月号

令和の時代の廃棄物管理と資源循環(4):モノとの関わりの変化がもたらすもの

田崎 智宏

前回は、令和の時代における廃棄物管理と資源循環についてモノの変化に着目して、後追い型の廃棄物管理からの脱却とモノの流れを俯瞰した「シームレス」なマネジメントという2つの方向性を確認しました。今回は、その続きで、資源・有用物としてのモノに着目します。モノとの関わり方が変わる、再生可能資源と脱物質化につながる方向性です。

長期的な資源枯渇の懸念、リサイクルは産み出す価値の大きさに着目

今後は、世界の人口が増え、より多くの資源が使われることになるので、長期的に資源枯渇の圧力が高まっていくことでしょう。資源が不足する場合、一度使われた資源をもう一度使う「リサイクル」が一つの対策です。実際、第1回で述べたように、リサイクルは、廃棄物を埋め立てすることを回避するリサイクルから、資源として有効活用するためのリサイクルへと変化・発展してきました。また、第2回で述べた「循環経済」の考えでは、いかにモノの価値が高い状態での資源循環を行うかを核心にしています(使いながら資源価値を低下させないことも含みます)。価値を高めるからこそビジネスチャンスが生まれ、経済面が強調された資源循環へのシフトがされようとしているのです。

また、産み出される価値は、モノそのものの物質的な価値(つまり、良い素材)や経済的な価値(リサイクル材の価格)だけではありません。リサイクルするプロセスに由来して生み出される社会貢献といった社会的な価値もあります。こちらについては最近、学会で口頭発表をしましたので、文末の参考文献[1]をご覧ください。いずれにせよ、生み出される価値の大きさでリサイクルが評価される時代が来ています。

しかし、リサイクルは長期的な解決策として十分ではありません。リサイクルされて使われる資源の割合を90%に上げることはとても大変ですが、その場合でも、残る10%の量を天然資源でまかなわなければなりません。すなわち、リサイクルしない場合と比べて、天然資源の消費量は10分の1になるだけです。資源消費量が10倍になってしまえば、リサイクルによる削減効果は打ち消されてしまいます。新興国の経済成長がすさまじい現状の世界情勢においては、資源の有限性を考えるとリサイクルの他にも対策をとらなければなりません。

再生可能資源が中核となる社会へ

このことから、再生可能資源を利用(原油や鉱物資源などの非再生可能資源から森林や農作物などの再生可能資源への代替を)していくことが、世界全体にとって大切なこととなります。「再生可能」「Renewable」という言葉はますます社会に浸透することでしょう。第2回で述べたプラスチック問題への対応として、植物などのバイオマスから作られるプラスチック(生分解性プラスチックとは異なります。)へ代替することが数値目標とともに政策として打ち出されました。このことも、再生可能資源が中核となる社会へ転換することを後押しすることでしょう。

ここで注意すべきは、再生可能資源だからといって、いくらでも使えるわけではないことです。再生可能資源は自然がつくり出せる範囲でしか持続的に利用できません。そこで、持続可能な形で資源採取がされたかを確認する仕組みが大切になっていきます。前回述べた持続可能性についての認証制度の普及・発展が求められると同時に、資源採取業者だけでなく、そこから資源を買う業者や資源を使う消費者あるいは行政などがそのような確認を確実に実施するような仕組みやルールを構築できるかが大切です。例えば、バイオマス起源のプラスチックや紙素材に代替したから一件落着したと安心してはいけません。

モノを使わない社会、脱物質化へ

そもそもモノを使わない方向性はないのか、と思う方もおられるでしょう。つまりは「脱物質化」をキーワードとする取組です。脱物質化といっても、全くモノを使わない生活やビジネスを実現できるわけではないので、特定の生活や活動の面(例えば、移動する、涼む。)でよりモノに依存しない形に変えていくということになります。その一つは、サービス化の方向性です。つまり、モノを持たなくてもサービスが得られれば十分だという考え方です。例えば、車を所有していなくても、移動できればよいという考え方です。2000年代当初にも、サービス化のアイデアはありましたし、その実施も試みられましたが、使い勝手のよい端末やシステムがなく結局は普及しませんでした。今では、スマホとアプリが使い勝手のよいシステムとなって、様々なサービス化が普及しつつあります。特に、広がっているのはシェアリング(モノを共有すること)でしょうか。ただし、シェアリングだからと言って、即、資源消費を減らせるというわけではなく、決め手となるのは、使われていない状態の製品を上手に減らして、社会全体でモノを減らせているかです。サービス化・シェアリングは技術の発展などに後押しされて普及してきていますが、サービス化を成り立たせるシステム全体の資源消費や製品の活用度合いを把握して、環境面の効果があるかの見極めはこれからでしょう。とはいえ、シェアリングの良い点は、人々がモノを所有しない状態を経験できることです。それによって、本当にモノを必要な場面を人々が実感を伴ってよく理解できるようになることです。

脱物質化のもう一つの方向性は、まさしくモノそのものを使わないという方向性です。とはいえ、いきなりモノを使わなくするのは大多数の人にはハードルが高いので、ステップアップしていくとよいと思われます。その脱物質化の第一歩となると考えられるのは、「片付け」です。最近では、各種の片づけテクニックが注目されていますが、これは、我々の生活がいかに多くのモノに囲まれているか、そして、モノが多いという過密性と過剰性によって、むしろ、我々の生活の質が低下しているということを物語っています。単に片付けをするだけでなく、普段何気なく家のなかに買い込んでしまうものを減らすことまで思い至ると、資源消費を抑え、かつ、より快適な生活を営むことができます。その実践経験が社会的に蓄積されてきて方法論が人々の間で共有されるようになってきています[2]

近頃では、所得格差や老後の生活費の心配などがされていますが、脱物質化の方向性は、家計への負担を下げることにもつながります。脱物質化というと、我慢しなければならないという窮屈な認識がされていた時代もありましたが、これからの時代は社会的な潮流に適合して、もっとポジティブに受け入れられていく可能性があります。

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