2007年11月19日号
適正な資源循環の促進のためのアジア地域での液状廃棄物対策徐 開欽 (じょ かいきん)
私たちはいま日本に住んでいますが、今後の国際社会におけるアジア地域の重要性を考えると、アジアにおいて日本の果たすべき役割は非常に大きいものになると考えられています。こうした状況を踏まえ、 日本、中国、韓国はアジア地域のリーダーとして、環境問題に対して三カ国で協力して対応するための会合を設けています。 私たちはこのような背景から、アジア地域での適正な資源循環の促進に貢献すべく、有機性廃棄物(液状のものを含む)の適正処理と温暖化対策とを両立し、かつ、途上国に適合した技術システムの設計開発を進めています。 また、その適用効果を評価し、適正な資源循環システムの設計及び政策提言を行うための研究を行っています。すなわち、アジア地域の社会、経済、気候等を考慮した環境低負荷型の適正な液状廃棄物対策の技術システムを提案することを目標としています。 近年、アジア地域の一部の大都市では急速な経済発展により、廃棄物対策も進んできていますが、中小都市や農村地域などにおいては、生活雑排水・し尿などの液状廃棄物の適正処理が遅れている状況にあります。 私たちは、アジア地域における分散型の高効率、低コストな液状廃棄物対策として、これまでに蓄積してきた生物工学および生態工学を基盤とした浄化槽などの技術やノウハウを活用し、アジア地域での適正な資源循環に資するシステムを提案しようとしています。 これまでに、私たちは中国をはじめとしたアジア地域の生活雑排水・し尿などの汚水処理の実情を調査し、生活排水の特性が日本と異なる場合があることや、浄化槽技術等の導入による環境負荷削減効果などについて検討を行ってきました。こうした私たちの経験をベースとして、 2006年には、中国環境科学研究院(北京)においてアジア向けの高度処理浄化槽などの汚水処理システムの性能評価装置が導入され、その展開が期待されています。 さて、実際にアジア地域に適した液状廃棄物対策とはどのようなものでしょうか。効率的に汚濁物質を除去できることはもちろん重要ですが、日本で用いられている最新の技術をそのまま導入することは、初期導入や維持管理のコストから考えて非常に困難です。 これは環境に対する意識の違いや、排出規制、監視システムなど法律や規則が不十分であることなども関係しています。現地で継続的に利用可能なコストで運用できる必要があり、環境施策や社会システムも検討していく必要があります。 また、処理システムを安定的に運転するためにはそれなりの知識と経験が求められ、そのための技術研修なども必要になってきます。さらに、低コストな液状廃棄物対策は生物処理が基本となりますが、一口にアジア地域といっても熱帯から寒帯まで気候が様々ですので、 汚濁物質の除去に有用な生物の温度特性に応じて、地域に合った処理システムを構築することが重要です。 このように、私たちはいくつかの処理技術を検討しています。ひとつは、日本のオリジナル技術である浄化槽です。現在、日本には浄化槽に関する多くの経験と実績がありますが、これを中国などのアジア地域に展開しようというものです。 但し、各国・各地域の生活排水の性状や気候、習慣などが日本と異なり、高度処理浄化槽技術でどのように対応していくか、また、そこで発生する汚泥などの有機性廃棄物をどのように処理していくか、廃棄物に対する認識の向上や、基準・法律などの整備も含めた仕組み作りから検討する必要があります。 また、別の方法としては、植物や土壌を用いた非常に安価な汚水処理システムがあります。現在検討している水耕栽培浄化法は野菜などの可食性の植物を用いた浄化法です。この方法では、浄化槽などと比べて非常に広い面積が必要となりますが、その代わり野菜が収穫できます。 タイのバンコクでの調査においては、適切な規模のシステムを構築することで、汚水処理と食物生産を両立することが可能であることが示唆されています。 水生植物を用いた処理技術としては、植栽土壌浄化法も検討しています。人工湿地とも呼ばれるこの方法は、ヨーロッパの一部で実用化されているもので、これも非常に広い面積を必要としますが、自然生態系の力を活用しますので、メンテナンスが少なくて済み、コストも低く抑えられます。 注意すべき点は、湿地からは温室効果ガスであるメタンや亜酸化窒素が多く発生することです。私たちが、土壌中でメタンガスを生成する微生物の種類や量について分析をした結果では、根圏(土壌中の特に根の周辺)には特有の微生物が多く存在し、有機物の量に応じてメタンガスの発生量が増えていることなどを明らかにしました。 また、植栽植物の種類や汚水の流下方法の違いによる処理特性や温室効果ガス発生抑制効果が異なることも明らかとなり、土の表面に汚水を流す方法(表面流)は、土の下に汚水を流す方法(浸透流)や汚水を垂直に流す方法(垂直流)と比較してメタンガスが発生しやすいこと、植物の種類によってその特性が異なることなどがわかってきています。 すなわち、人工湿地の設計においては、有機物負荷量の設定や植物の種類、汚水の流し方などが処理を効率的に行い、かつ、温室効果ガスの発生を抑制する上で重要であるということです。 生ごみなどの有機性廃棄物については、今後のエネルギー需要の増大なども踏まえ、水素発酵やメタン発酵の導入を検討しています。特に中国を対象として、我が国との汚水性状の違い、未利用バイオマスの性状の違い、リサイクルシステムの未熟度等に注目しています。 このような技術的側面からのアプローチを進めるとともに、生ごみや汚水処理から発生する汚泥のリサイクル方策などを現地の研究者とともに一緒に考えています。 今後も、液状廃棄物の資源循環を考慮した途上国適合型のシステムの設計・開発を進め、現地での適用可能性を評価し、地域特性に応じたシステム設計および汚水性状、バイオマス性状に応じた資源循環・適正処理技術のマニュアルを構築していきます。これにより、温室効果ガスの低減と、 汚水処理の高度化や汚泥のリサイクルが両立するバイオエコエンジニアリング技術システムを確立し、その普及のための基礎研究を推進していきます。 <もっと専門的に知りたい人は> |
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