循環・廃棄物の豆知識
2023年12月号

産業廃棄物管理票(マニフェスト)制度

山田 正人

工場や建設工事現場、お店やオフィスなどの事業活動を行っている場所から排出される産業廃棄物を、業者に委託して処分するときには、排出者は廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃掃法)に基づいて、産業廃棄物管理票、通称マニフェストを発行しなければなりません。これはどのような産業廃棄物を誰がどこに運んで、どこでどのような処分を行ったかを、排出者が確認するための宅配伝票のようなものです。

1990年、ちょうど日本経済全体が好景気に膨らんでゆくことから、バブルといわれた時代の終わり頃に、香川県の豊島という瀬戸内海に浮かぶ小さな島で行われていた大規模な産業廃棄物の不法投棄が発覚しました。これを皮切りに全国各地で不適正な処分や不法投棄が次々と発覚して社会問題となりました。戦後の経済成長で生み出され、いつのまにかどこかに消えてしまっていた産業廃棄物たちが、この時期に亡霊のように姿を現したのです。

当時、不適正な処分や不法投棄が起こった原因のひとつは、産業廃棄物の収集運搬や処理処分のために支払われたお金が少なすぎて、生活や環境に影響を与えないような適正な処分ができなかったことです。そして、このような事態になっていることを、お金を支払った排出者は知るすべがありませんでした。結果として、排出者がとにかく安いところに廃棄物の処分を委託したことで、費用をかけて適正な処分を行っている処分業者がますます選ばれにくい構造となっていました。

この悪しき構造を是正するための一つの方策として、事業者が自ら排出した廃棄物を自らが指定した業者がきちんと運び、適正に処分したことを確認するため、廃掃法の1991年改正時に感染性があるものや有害なものを含む特別管理産業廃棄物に対して、1997年改正時に全ての産業廃棄物の処分に対して、マニフェストの発行が義務付けられました。

マニフェストには紙マニフェストと電子マニフェストの2種類があります。紙マニフェストは図に示す内容が記載されたA票、B1票、B2票、C1票、C2票、D票、E票からなる7枚綴りの複写式伝票です。

まず、排出者が産業廃棄物の種類及び数量、運搬又は処分を受託した者の氏名又は名称など必要事項を記載したマニフェスト(1次マニフェスト)を収集運搬業者に渡すと署名または押印したA票が排出者の元に返ってきます。次に廃棄物を運んだ収集運搬業者は残りのマニフェストを処分業者に渡し、処分業者が署名または押印したB1票は収集運搬業者の控えとなり、B2票は運搬の報告として排出者に送り返されます。廃棄物の処分が完了すると、処分業者はC1票を控えとして、C2票を収集運搬業者へ、D票、E票を排出者に送ります。あるいは、この処分業者が破砕選別や焼却などの中間処理業者の場合にはD票のみを排出者に送り、排出者として新たにマニフェスト(2次マニフェスト)を発行し、同じように収集運搬業者を経由して(最終)処分業者までA票からE票までのやりとりを行います。最終処分が完了すると2次マニフェストのD票、E票が中間処理業者まで返送され、中間処理業者は2次マニフェストのE票を1次マニフェストのE票に転記して排出者に送ります。以上の流れを図で示したものがホームページ等(例えば、参考資料1)でみられますので、合わせてご覧頂けるとより理解が進むかと思います。またこのような伝票のやりとりを情報処理センターを介して、電子的に行うのが電子マニフェストです。

こうして排出者は自ら記載したA票を、戻ってきたB2票、D票、E票の内容と照らし合わせて間違いがないか、すなわち、正しい場所に運ばれ、適正な処分が行われたかを確認するわけです。

本来、マニフェスト制度は産業廃棄物の不適正処分や不法投棄の防止のため、排出者や行政が産業廃棄物の動きを監視するために作られた制度ですが、地域や日本全体の産業廃棄物の情報を廃棄物を運んだロットごとに集積したビックデータでもあります。これは産業の活動量を表す実体経済に関連した情報であるとともに、より効率的な資源循環を促すための基礎情報となり得ます。わたくしたちも産業廃棄物フローを表す基礎データとして、いくつかの研究への活用を進めているところです。

図 産業廃棄物管理票 (出典:環境省環境再生・資源循環局廃棄物適正処理推進課長廃棄物規制課長, 押印を求める手続の見直し等のための環境省関係省令の一部を改正する省令の施行について(周知), 事務連絡, 令和3年1月5日)
図 産業廃棄物管理票 (出典:環境省環境再生・資源循環局廃棄物適正処理推進課長廃棄物規制課長, 押印を求める手続の見直し等のための環境省関係省令の一部を改正する省令の施行について(周知), 事務連絡, 令和3年1月5日)
<もっと専門的に知りたい人は>
  1. 公益社団法人全国産業資源循環連合会, マニフェスト, https://www.zensanpairen.or.jp/disposal/manifest/
  2. 公益財団法人日本産業廃棄物処理振興センター, 電子マニフェストとは, https://www.jwnet.or.jp/jwnet/about/index.html
  3. 大塚直,廃棄物の処理及び清掃に関する法律の累次改正による規制強化について(1976 年~), 環境省五十年史, 2021, 記録編-03-1-03-12, https://www.env.go.jp/publication/history/50th/index.html

マニフェストデータを活用した研究は例えば

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