2011年の東京電力福島第一原子力発電所事故によって放射性物質が環境中に放出されたため、汚染された環境を回復することを目的に除染作業が行われ、2045年までに除染作業によって発生した除去土壌や放射性物質汚染廃棄物は福島県外で最終処分が完了することを目指しています。[1, 2]。ここでいう、「福島県外で処分する」ことを「県外最終処分」といいますが、福島県外在住者にとっては、県外最終処分といわれてもどこか他人事なのではないでしょうか。しかし、県外最終処分は、福島県在住者だけでなく、実は日本全体に関わる課題となっています。まず簡単にこれまでの背景を説明すると、事故後の除染作業によって回収された土壌や可燃物をどのように処分すればいいのか、当時日本政府や多くの専門家が検討を重ねた結果、地元の方々の土地を買い取り、あるいは、貸借契約することで大熊町と双葉町にまたがる中間貯蔵施設といわれるエリア一帯で、一時的に保管することになりました。その理由として、除去土壌等の減容化・再生利用・処分を可能にする科学技術の検討が当時不十分だったからです。現在では、廃棄物や除去土壌等の減容化に向けて数多くの技術実証が行われており、これまでも研究開発の状況についてはご報告してきました [3]。一方で、焼却処理や溶融処理を経た可燃物や、様々な放射能濃度の土壌の処理・再生利用・処分に関する検討は継続中です。例えば、溶融飛灰の更なる減容化に向けての技術として何が最適なのか、安定な形で保管するためにどのように固めるのか、処分場をどこに、どのような形でつくるのかについての調査・検討が進められています。つまり、今後の選択肢によっては、みなさんが住むエリアに処分場が出来る可能性もあるということになります。そうなった時に、あなたならどう思うでしょうか。
さて、「NIMBY(ニンビー)」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。NIMBYとは「Not In My Back Yard」の頭文字を取ったもので、つまり「私の家の裏庭には作らないでほしい」という意味で、ごみ処理場や火葬場など、「公共のために必要な施設や事業であることは理解していたとしても、いざ自分の住む地域でそれが建てられようとすると反対する」という感情のことをいいます [4]。県外最終処分を考える際には、NIMBYの感情が生じるという難しさをともない、処分施設立地地域の住民・政府・行政など、様々なステークホルダーが関与するため、どういった技術を選択するかも含め、処分方法を決定するにあたっては、福島の地域の方々だけでなく、全国民の理解が不可欠となります。
世界を見渡せば紛争・気候変動によって故郷を失った人々や戻れない人々は大勢おり、2023年5月時点で推計1億1,000万人にも達しています [5]。福島に関しては東日本大震災と原子力災害によるものですが、避難を強いられ、故郷に戻れないという点においては共通しています。県外最終処分の実現に向けて、今後も研究を積み重ねていきますが、その背後には故郷に戻れない人々がいることがいることを忘れてはなりません。先ずは、これを機に県外最終処分に向けての現状や課題を知っていただき、今後の取組について関心を持って頂けたらと思います。
- 環境儀 No.58:放射性物質によって汚染された廃棄物の問題
https://www.nies.go.jp/kanko/kankyogi/58/column3.html- 環境省:放射性物質汚染廃棄物とは
http://shiteihaiki.env.go.jp/radiological_contaminated_waste/- 有馬謙一:放射性物質に汚染された土壌と廃棄物の減容化、循環・廃棄物のけんきゅう、資源循環領域オンラインマガジン環環、国立環境研究所、2022年12月号.
https://www-cycle.nies.go.jp/magazine/kenkyu/202212.html- 鈴木晃志郎:NIMBY 研究の動向と課題、日本観光研究学会第 26 回全国大会論文集(2011)、17-20
- UNHCR:グローバル・トレンズ・レポート 2022、プレスリリース、2023年6月14日.
https://www.unhcr.org/jp/53315-pr-230614.html