我が国が2050年カーボンニュートラル(脱炭素)を宣言したことは、記憶に新しいことと思います。この脱炭素社会の実現に向けて、エネルギー分野はもとより、廃棄物分野でも様々なシナリオが議論されています。廃棄物分野の一つである下水道や浄化槽などの排水処理施設では、処理効率の向上や省エネ機器の導入などが進められてきていますが、排水中の有機物や窒素を微生物が分解・除去する過程で、CO2(二酸化炭素)よりも地球温暖化効果の大きいCH4(メタン)やN2O(亜酸化窒素)が排出されてしまいます。もちろん、それらの排出量を少なくする試みも進められています1、2)が、CH4は微生物が有機物を分解して最後に残るものの一つであり、N2Oは窒素除去の途中でどうしても出来てしまうものであるため、現実的に排出量をゼロにすることは難しいと思われます。
どうしてもゼロにできない分の温室効果ガス排出量は、森林による吸収やCO2 の回収・利用・貯留(CCUS)技術の導入によってマイナスとなる温室効果ガスの量を差し引くことで、カーボンニュートラルを達成することが可能です(温室効果ガスの排出量と吸収量が釣り合う状態で、全体として実質的にゼロ)。例えば、有機性廃棄物を炭にして地中に埋めることで、長期にわたって安定的に二酸化炭素を貯留できます3)。その他にも、廃棄物分野では様々なCCUS技術が検討されています(資源循環・廃棄物処理におけるCCUS技術、2022年2月号)。これらは、低炭素化というこれまでの流れの延長線上ではなく、脱炭素に向けた革新的な技術開発と社会や経済、生活の大きな転換が求められます。エネルギーや交通の分野が変化するのに時間がかかることはイメージし易いと思いますが、廃棄物分野でも、インフラの変化には時間がかかります。2050年は遠い未来ではありません。これまでの低炭素化の取り組みを十二分に進めた上で、さらに、脱炭素社会の実現に向けたあらゆる取り組みを今まさに実行していく必要があります。
- 蛯江美孝,山崎宏史,小椋有未永,徐開欽:浄化槽におけるCH4, N2O排出量に及ぼす原水流入変動と嫌気-好気循環の影響解析,水環境学会誌,Vol.35,No.2,27-32,2012.
- 稲村成昭,蛯江美孝,山崎宏史:浄化槽における流量調整機能による温室効果ガスN2O排出量の抑制効果,土木学会論文集G(環境),Vol.74,No.7,Ⅲ_399-Ⅲ_405,2018.
- IPCC:2019 Refinement to the 2006 IPCC Guidelines for National Greenhouse Gas Inventories, Chapter 2, Volume 4, 2019