災害は突然発生します。そして、その直後から、国、自治体、各種機関、団体そして個人もそれぞれに様々な対応を始めます。当研究所の「災害環境マネジメント戦略推進オフィス」も直ぐに現地に入り、災害廃棄物を扱う被災自治体の支援を行います。災害時には、地震や風水害等によって倒壊した建物のがれきやコンクリート、破損した家具・家電、蛍光灯、自動車や食品系の廃棄物まで、様々なごみが混合状態で発生するため、家庭から日常的に排出されるごみとは質も量も大きく異なります。そのような災害廃棄物について、どのように処理を進めていくべきかを検討し、被災自治体を支援するのです。
災害廃棄物の処理は市町村にその責任がありますが、災害が大きくなれば外部からの支援も必要になります。特に大きな災害となれば国が支援活動を開始します。環境省の支援ネットワークは、D.Waste-Net (ディー・ウェイスト・ネット、災害廃棄物処理支援ネットワーク)と呼ばれるもので、平成27年9月に立ち上がった枠組です。災害情報及び被害情報の収集・分析、自治体等による適正かつ円滑・迅速な災害廃棄物の処理を支援しています。当研究所もD.Waste-Netの構成メンバーとして活動しています。
例えば、昨年の熊本地震では、環境省と当研究所を含むいくつかの支援者グループで、現地支援チームを結成し、支援活動を行いました。支援チームが現地に入ったのは発災翌日で、地震の傷跡がそのままに残っていました。その翌日、熊本県及び近隣自治体との初会合に臨み、いたるところで道路が寸断され、渋滞が発生していること、ごみ焼却施設が被災し運転停止していることなど現況報告を受け、直ぐに被災現地に向かい、災害廃棄物の「仮置場」の視察を行いました。
災害廃棄物処理は、簡単に言えば、被災現地から災害廃棄物を撤去・運搬して、それを「仮置場」に分別して集積し、分別物の性状に応じて処理をし、最終的にリサイクル又は埋め立て処分することです (下図参照) 。仮置場は、平時の廃棄物処理フローにはありませんが、仮置場がなければ被災現地から災害廃棄物を撤去できませんし、その後の処理に必要な分別や性状確認の場でもありますので、「仮置場」は、「被災現地」と「処理」を結びつける要となります。
支援活動の初日に仮置場を視察したのはそのためです。具体的には、仮置場の設計に関することや、不法投棄防止策、有害物・危険物の管理方法、火災防止対策など多岐にわたる課題に対し、情報提供や助言を行いました。このような仮置場に関する行動は、現地支援活動の大きな柱の一つです。
もう一つの大きな柱は、上図のような処理の道筋を作るための支援です。具体的には、災害廃棄物の量や組成(木材、コンクリートガラ、金属、瓦等)の推定、仮置場の場所、処理施設の設置場所と設備の内容、処理したものの引き取り先、運搬方法などを計画として取り纏め、これを具現化していく作業の中で、各種情報の提供や助言を行います。
D.Waste-Netによる支援は、このような情報提供や助言といった側面からの支援のほか、熊本地震で大きな効果のあった、ごみ収集車や技術者の派遣など実務支援もしています。また、D.Waste-Netとは別に、多くの自治体からの自主的な人材派遣による支援やボランティアによる被災者宅の片づけ等の援助活動が行われます。限られた時間の中で一から処理フローを作り上げ、大量の災害廃棄物の処理を完了するのは非常に難しい大事業ですので、様々な支援や援助が必要となります。
一方では、自治体自身の災害対応力を上げることも大変重要です。将来発生が予想されている南海トラフ地震のような大規模災害では、被災する市町村が多く、支援にも限界があることや、あらゆる災害に備えた基礎体力として必要だからです。
「災害廃棄物処理計画」は、災害廃棄物をどのように処理するのかをまとめるものですが、これを策定することは、真に自治体の災害対応力を培うものになります。また、災害廃棄物処理に関する各種研修や訓練を行うことで、災害対応力のある人材を育成することも非常に重要です。しかし、当該計画を策定している自治体は、まだ少ないのが現状で、研修や訓練も少数の自治体が行っているに過ぎないのが実状です。
これからは、発災時の現地支援が不要になるほどに、自治体の取り組みの加速化や、それを支援するD.Waste-Netの平時の活動を充実させることで、自治体の災害対応力の向上を図っていく必要があるでしょう。