2014年9月、名古屋市で「ESDユネスコ世界会議」が開かれました。ESD(Education for Sustainable Development)は、「持続可能な開発のための教育」と訳され、環境、貧困、人権、平和、開発などの世界が抱えるさまざまな問題に対して、自らの問題として捉え、考え、新たな価値観を生み出し、それらの課題を解決するための行動につなげるための学習活動のことを指します。わが国ではこの10年間、環境をキーワードに、環境や経済、そしてそれを含む社会の統合的な発展についての課題に取り組んできました。特に教育の分野では、全国にユネスコスクール認定校を増やしたり、新学習指導要領に「生きる力」を育むための視点を導入したり、学校と地域とのつながりを強化するなどの取り組みを行ってきました。(参照→文部科学省:http://www.mext.go.jp/unesco/004/1339970.htm)
上述の世界会議では、次の10年のアクションプランについての議論も行われ、GAP(グローバルアクションプラン)として、国連に提出されました。このGAPは、ESDの取組みの推進・拡大を目指すもので、2015年以降の次の10年に向けて、ESD推進に大きく貢献すると期待されています。この中の重要なテーマとして、防災への取り組み、防災教育への取り組みも含まれています。
残念ながら、自然災害の発生を防ぐことができません。しかし、被害を最小限に抑えるための取り組み、被害からなるべく早く復旧・復興するための取り組みについては対応ができます。防災教育は、このように、災害の際にどう身を守るのかという従来の安全教育だけではなく、回復力の高い社会を作るためにどうしたらいいのかというより広い概念を含んだ教育に変化しつつあります。「教育」という言葉で考えた場合、どうしても学校教育(フォーマル教育)分野ばかりを考えてしまいがちです。しかし、「教育」には、フォーマル教育を支えるインフォーマル教育(日常の経験等に基づく、組織的ではない生涯教育プロセスの場。例えば、地域の自治会やサークル活動、書籍やメディアなどの情報による知識習得など)、ノンフォーマル教育(ある目的をもって組織される学校教育システム外の教育活動の場。例えば、博物館、科学館、社会教育施設を活用した教育など)の各セクターとの共同が不可欠です。地域にどのような災害リスクがあるのかを知り、コミュニティの弱い部分(例えば寸断されやすい道路や孤立しやすい地域、高齢者世帯)の把握などとそれを支える方法について議論しておくことは、学校教育の現場だけではなく、地域全体の課題として取り組むべきテーマでもあります。防災教育の充実は、子供に対する教育だけを意味するのではなく、地域社会全体への教育・波及効果も持つのです。
防災の分野では「被害の受けにくさ」と「被害を受けた時の回復力」を合わせてレジリエンスと呼ばれていますが、一方で、レジリエンスという言葉自体は「心的外傷となりうるような苦難から立ち直るための精神的回復力」を表す心理学用語でもあります。東日本大震災を経験した東北沿岸地域を中心に、学校教育の現場でも、災害について学ぶとともに、災害の際に重要となる地域との親密な関係、コミュニティづくりについて考える動きが活発化しています。
また、日本学術会議は、「災害に対するレジリエンスの向上に向けて」という提言を発表しています。この中では、リスクの概念への理解、データ・防災情報リテラシーの向上及び住民と行政との連携、危機管理能力を高める必要性などさまざまな提言がなされています。
自然災害の多い我が国においては、今後非常に重要な教育分野となっていくことでしょう。