東日本大震災をきっかけに、災害に強い社会を作っていくことの大切さが改めて認識されました。ごみ処理(収集から最終処分まで)は私たちの生活を支える基本的かつ重要なサービスですので、災害に強い社会には、災害に強いごみ処理が欠かせません。では、「災害に強い」ごみ処理とはどういうことでしょうか?例えば、焼却施設の耐震化工事が進み、地震が起きても問題なく運転を続けることができるごみ処理は「災害に強い」といえそうですね。また、大きな災害が起きれば大量の災害廃棄物が発生しますが、それを素早く処理できることも「災害に強い」ごみ処理といえそうです。このように、「災害に強い」と言っても色々な切り口がありそうです。これをうまく捉えた概念が「レジリエンス」なのです。
今、災害に強い社会を考えるキーワードとして、「レジリエンス」という言葉が流行っています。世界では、「レジリエント」な社会をつくるための研究や政策展開が数多くなされており、目指すべき社会像の一つとして広く共有されています。日本でも、内閣官房に国土強靭化推進室を設けて「国土強靭化(ナショナル・レジリエンス)」を進めています。この「レジリエンス」という言葉は、英語のResilienceをそのままカタカナ表記したものであり、もともとは、物理学の分野で「弾性力」や「復元力」(変形したものが元に戻る力。フックの法則ですね。)を指す言葉として知られていましたが、最近では防災、国際援助、気候変動、心理学など様々な分野で比喩として使用されるようになりました。分野や人によってレジリエンスの理解は少しずつ違っていますが、防災分野の理解に基づけば、「被害の受けにくさ」と「被害を受けた時の回復力」を合わせた能力と整理できます。
災害が発生すると、人命が失われたり、電気や水が使えなくなったり、交通網が断絶したりと、様々な形で人間社会は被害を受けます。こうした災害による被害を受けにくくするには、「災害に曝されない」ことと、曝されても「壊れない(=影響を受けにくい)」ことの両方が重要になります。大きな地震が発生したとしても、揺れた場所に家も何も建っておらず、だれも被害を受けない場合が前者、揺れた場所に家が建っていた場合でも、耐震化が済んでいる状態が後者の一例です。従来、防災はこのように被害を出さないことを目指していましたが、それには限界があります。将来起きる災害のことを完全に予測することはできませんし、あらゆる災害に対策を事前に行うことも現実的ではありません(お金が大変かかります)。そこで、被害を軽減する努力をしたうえで、それでも災害からの被害がゼロにならなかったとしても、そこから素早く立ち直ることができればよいという考えが出てきます。ここで、「元に戻る」は災害が起きる前と全く同じ状態になることではありません。単純な「状態」として元に戻るのではなく、「機能」として元に戻ることを指しているのです。例えば、単純に元の状態に戻る能力をレジリエンスと考えると、被災地域は、災害によって被害を受けた元の状態、すなわち、災害からの被害を受けやすい状態に戻ることを指してしまいます。実際、災害がよく起きる地域で、度々津波災害により死者が出ているにもかかわらず、ほとぼりが冷めると全く同じ場所に戻り、同じ生活を送ってしまうことが報告されています。これでは、レジリエントであることは良いことであるという感じがしませんね。この場合、例えば「快適に住む」ということと「生計手段を確保する」ということを、別の形で(例えば、別の場所で)回復させればよいのです。このように、災害に遭ってしまった教訓を活かし、より災害に強い地域として変わっていくことも、レジリエンスの重要な要素なのです。
それでは、レジリエントなごみ処理とは何でしょうか。上の整理から考えると、「被害の受けにくさ」という意味では①災害時のごみ発生を抑えることと、②ごみ処理機能(施設・車両等)への被害を抑えることであり、「被害を受けた時の回復力」という意味では③通常ごみの処理を早く再開させ、④発生した災害廃棄物を素早く処理すること、の4点で考えることができます。
まず、「①災害時のごみ発生を抑えること」は、私たち一人一人に関係する問題です。まず、身の回りのものを災害廃棄物にしないために、家の耐震化や家具の固定を進めることで、災害時に家具がゴミにならないようにすることなどが考えられます。また、洪水が多く起きるところでは、洪水警報が出た時に素早く家財を避難させることも考えられます。実際、毎年のように洪水に襲われるタイのある都市では、浸水が始まったらテレビなどの家具を家の中でも高い位置に移動させる習慣がいきわたっており、まさにレジリエントであるといえます(写真)。他にも、災害時のごみ出しルール(分別の方法、ごみ出しの場所・タイミング等)に沿ってごみ出しを行うことは、公衆衛生の観点でも、早く災害廃棄物を処理する上でも、とても重要です。つまり、私たち自身が災害時にどのような家財避難行動・ごみ出し行動ができるかが、地域のごみ処理の「レジリエンス」に関わってくるのです。
他の点は、主に行政や廃棄物処理業者の課題です。「②ごみ処理機能への被害を抑える」については、行政と廃棄物処理業者が焼却施設の耐震化を進めたり、津波が起きた時に収集車が水浸しにならない様、浸水すると想定されている場所には配置しないようにしたりする、といった工夫があります。「③通常ゴミの処理を早く再開」は、行政が普段から行っている行政サービスとしてのごみ処理をなるべく早く回復させるための体制や手順をまとめた「事業継続計画(Business Continuity Plan:BCP)」を作っておくことが重要です。ここでは、ごみ処理サービスだけではなく、環境部局として行うべき環境保全に関係する業務(大気質のモニタリングなど)も含めて、優先順位をつけていくことが必要になります。最後に、「④災害廃棄物を素早く処理」することは、行政が中心となって災害廃棄物処理計画を策定し、災害時の状況に応じた処理の方法を考え、実施することです。関係事業者・近隣自治体との協力関係を作っておくことや、ごみ処理に関して高い専門性を持つ人材の育成も欠かせません。
当センターでは、こうしたレジリエンスを向上させるための効果的な方法を明らかにする様々な研究を進めています。災害廃棄物処理計画や事業継続計画の作り方、災害時に強いごみ・し尿の運搬方法、人材育成手法の開発などです。これ以外にも、自分たちが今どれだけ「レジリエント」であるかを把握し、よりレジリエントになるための指標の開発も進めています(循環型社会を目指すための取り組み指標が開発、使用されているのと同じですね)。政策としても、研究としても、まだまだ国内の取り組みは足りていませんが、今後注目すべきキーワードとして、覚えておいてはいかがでしょうか。
<もっと専門的に知りたい人は>
- 多島良, 大迫政浩 (2014) 災害に対する脆弱性評価の基本的枠組み. 第25回廃棄物資源循環学会研究発表会, 同予稿集, 105-106.
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