地球規模での気候変動の要因となるCO2の増加への対策法のひとつとして、CO2の化学的な固定や地中あるいは海への隔離(CCS: Carbon capture and storage)や工業・農業等への有効利用(CCU: Carbon capture and utilization)が試みられています。CCUのひとつとして、電気と微生物と廃棄物とを使った微生物電気分解(MEC: Microbial electrolysis cell)があります。電気分解は、電圧をかけることで、陽極側で酸化反応、陰極側で還元反応を起こす方法です。一方、微生物が生命活動を維持していくためのエネルギー獲得(異化代謝)は、体内での酸化還元反応を伴っています。酸化は物質から電子を除くこと、還元は逆に電子を与えることと定義されています。電子を他に供給する物質は電子供与体(例えばブドウ糖)、受け取る物質は電子受容体(例えば酸素)と呼ばれます。このように、電気分解と微生物の代謝とは同じように酸化還元反応を基礎とした仕組みで成り立っています。最近、電気分解の陰極から供給される電子を直接的に代謝に利用でき、CO2をメタン(CH4)や有機酸等の有価物に変換することができる面白い能力をもつ微生物が発見され、MECによる物質生産の研究が始まりました。
下図はMECの基本的仕組みを示しています。本法には幅広いバリエーションがあり、図はその中でもCO2を利用するタイプの典型的な装置です。陽極と陰極は隔膜を隔てた2つの槽にそれぞれ設置されます。陰極の槽には電子を受け取って物質生産を行う微生物が培養されます。陽極の槽では酸化反応をアシストする微生物が培養される場合とされない場合があります。陽極では、酸化反応によって電子供与体から電子(e-)が取り出されます。この時、反応を促進する追加の電子供与体として汚泥や生活排水等の廃棄物が利用される場合もあります。取り出された電子は、図に示すように線を通って陰極へと移動します。同時に生成されたプロトン(H+)も、隔膜を通って陰極の槽へと移動します。陰極の槽にはCO2が外部から供給されます。陰極に付着する微生物は、電子を受け取り、CO2およびH+からメタンや有機酸を生成します。例えばメタン生成の半反応はCO2 + 8H+ + 8e- → CH4 + 2H2Oとなります。理論的には1モルのCO2と8モルの電子から最大1モルのメタンを生成できることがわかります。原理的に、電子を流すために電力を消費することになりますが、太陽光・風力発電等の余剰電力を使用することで、電力をメタンのようなガス燃料として貯蔵する(Power to Gas)役割を持たせることなどが議論されています。現在は、装置のスケールアップや反応速度改善等を課題として様々な研究が世界的に取り組まれています。
<もっと専門的に知りたい人は>
- Zhen G., Kobayashi T., Lu X., Xu K-Q. (2015) Understanding methane bioelectrosynthesis from carbon dioxide in a two-chamber microbial electrolysis cells (MECs) containing a carbon biocathode. Bioresource Technology, 186, 141-148