経済のグローバル化、ポスト工業化、少子・高齢化などの変化に伴い、人々のくらし、地域社会、仕事の世界を秩序づけてきた構造は大きく変わりつつあります。
個人・家族においても、いわゆる標準モデル世帯と呼ばれる「夫婦と子」世帯の割合は減少し、単身世帯や子どものいない世帯、ひとり親と子世帯の割合が増加しています。この背景には、結婚するかしないかについての自由度が高まっていることや、離婚を肯定する考え方の割合が増加しているなどの人々の意識の変化や、女性の希望するライフコース(個人がたどる人生の道筋)※が多様化していることが影響していると考えられます。
※女性のライフコースはわかりやすく以下のように分類できます(参考資料1)。女性が実際になりそうだと考えるライフコースでは、専業主婦コースが減少し、これに代わって両立コースや非婚就業コースが増加していると考えられます。
国立環境研究所の「持続可能なライフスタイルと消費への転換」についての研究プロジェクト(2011~2015年度)では、今から約15年後(2030年頃)の日本の人々のライフスタイルや消費に関するシナリオを検討しました。
まず、人口の50~60%をカバーする主要な世帯類型のライフスタイル変化を描写しました。また、今は兆しにすぎませんが将来メジャーとなりうるライフスタイル(兆しトレンド)の動向も踏まえて、総合的に検討した結果、16種類の「2030年のライフスタイル変化」を抽出しました。各ライフスタイル変化に共通する特徴をテーマ別に集約したものを「未来イシュー仮説」と呼び、以下の8つにまとめました。
8つの未来イシュー仮説をもとに、博報堂が開発した「Future Dynamics©」という未来洞察手法を用いて、突発的な将来の変化を捉えた4つの「ありえそうな未来」のシナリオを作成しました。
「健康優先社会」シナリオでは、健康が医療・介護・地域コミュニティ・企業・消費の評価軸になり、そのために健康データを数値化した「健康ID」が多用される社会を描いています。健康を優先することで、将来の医療費・介護費が減り、社会経済格差のストレスが軽減されるような社会が実現するという内容です。
このほかに「もう一度輝けるアンチエイジングタウン」、「つながる地域は一つじゃない」、「Visor-comで拡がるコミュニケーション」という3つのシナリオがあります。
(詳細については、プロジェクトのホームページ(参考資料2)の紹介を参考にしてください。)
私たちの生活には「健康」「経済」「つながり」「セキュリティ」という4 つのリスクが存在します。様々な社会変化の中で、個人で対処しにくい「セキュリティリスク」(例えば、自然災害や離婚、失業などの予期せぬ事態への対応)が増大し、誰もが「経済リスク」にさらされる可能性があります。今回のシナリオ構築から、心身が「健康であること」、困ったときに人々が支え、助け合える「つながりを持っていること」が未来のライフスタイルを考える上で重要なポイントになることが分かりました。
今回のシナリオは予言ではありません。「ありうる未来」を予見することで、今の暮らし・ライフスタイルを見つめ直したり、未来の生き方・暮らし方を考える参考にしたりしていただけると嬉しく思います。