トリートメントといっても、ダメージヘアをいたわったりするわけではありません。ここでは「処理」という意味で使われています。「メカニカル・バイオロジカル・トリートメント」をむりやり日本語で表現するなら「機械的・生物的処理」となりますが実際には英語の頭文字をとって「MBT(Mechanical Biological Treatment)」と称されます。うまい日本語の言い回しがないことからもおわかりいただけるように、日本ではあまり実施されていない形態の廃棄物処理システムです。ただし、MBTシステムにおいて採用されている個別の技術は、我が国でもそれぞれ廃棄物処理の現場で採用されています。つまりMBTとは、混合状態の廃棄物を選別し、減容化し、資源化する一体的なシステムの総称で、その組み合わせ自体に特徴があるのです(図)。
MBTは欧州で開発され、地域の廃棄物処理事情に応じて発展してきました。それには、EU全体の方針として、廃棄物埋立地不足を解消するなどの理由で、生ごみ等の生物分解性の有機物の埋め立てを最小化・禁止したことが影響しています。有機物埋立量を減らすことは、悪臭や害虫・害獣の発生を抑制するなど衛生面の改善と、周辺水域の有機物汚濁や有害ガス・可燃性ガスの拡散防止による生活環境の保全につながります。欧州では、日本と同様に熱処理による廃棄物の無機化と、MBTのような手法が選択されて独自の発展を遂げています。それには、文化的・地理的な背景と、廃棄物処理の実態が影響しています。
MBTの大きな機能として資源化と減容化が期待されますが、そのためにはごちゃ混ぜのごみの中から目的に応じた廃棄物を得るための分離が必要です。日本では熱処理のために「可燃物」を分別排出していますが、MBTでは分別されていない廃棄物を対象にします。つまり混合状態の廃棄物を選別・分離するところがMBTのスタートラインです。
混合状態の廃棄物を分けるには、素材で分けるか、比重(密度)で分けるか、大きさ(粒径)で分けるかなどの方法があります。いずれの方法でも、袋に入ったままの廃棄物や大型の廃棄物が混じると効率が落ちるので、破砕することである程度サイズを整えます。破砕できないほどの大型ごみや危険物は、人力で取り分けます。鉄やアルミは素材で分けやすい上、資源価値も高いため回収がすすめやすい品目です。比重が小さい紙やプラスチックは振動ふるいや風力選別の組み合わせで分けられます。土石類やがれきは比重が大きく粒径が大きい画分として選別されます。土砂類を細粒分として選別することも技術的には可能ですが、MBTではそこまでの分離は実施されず、上述のいずれにも含まれない成分とあわせて、後段の生物処理へと向かうことになります。
破砕と選別を経て生物処理に回される量は、元の廃棄物の状態と選別の度合いによって大きく異なります。また、生物処理の効率は、微生物分解可能な成分の含有量に強く依存します。生物処理の主体であるバクテリアは、有機物を増殖のためのエネルギー源として利用します。一方で、バクテリアの細胞自体も有機物ですので、単なる分解だけでは新たな廃棄物を産み出すことになってしまいます。好気的な生物処理では、バクテリアを捕食する微生物、さらなる高次捕食者(昆虫類など)により生態系が構成されていることで、より増殖しにくい(新たな廃棄物発生の少ない)形態に変えていっています。こうした方式は、コンポスト化でも採用されており、皆さんも耳にしたことがあるかもしれません。ただし、MBTにおける生物処理ではコンポスト化のように、生物処理後の生成物の肥料効果や土壌改良効果を意識して運転管理されることは一般的ではありません(後述)。欧州では、生物処理として嫌気的(酸素を必要としない)バイオガス化を採用することもありますが、MBT単独では充分なエネルギーが得られないため、有機物を多量に含む畜産糞尿や下水汚泥の既存プラントに混合投入されます。
MBTの過程でごみは大幅に減容化されるとともに、さまざまな資源が回収されます。金属類はふたたび素材材料として利用されますが、プラスチックや紙などは純度や経済性の観点から燃料として活用が志向されます(ごみ由来燃料:RDF)。その場合、燃料として利用してくれる相手を確保することが第一の課題です。廃棄物の焼却施設や工鉱業用途の高炉などが近隣にないと、輸送費用がかさむことになるので、システムを維持するのが厳しくなります。近隣に利用先候補があった場合、そこで求められる要求品質を満たすことが第二の課題です。廃棄物焼却であれば、すでに搬入されている廃棄物と比べて熱量的にも環境汚染物質の含有量的にも大きな問題がなく、安定した需要先となります。しかし産業炉では、要求される熱量、取り扱いの容易さ、不純物・塩素などの環境汚染物質の含有限度など、クリアする課題が多くなります。また、その際の買い取り料金(あるいは逆に処理料金)の価格が産業界の状況に応じて変動しやすいことも安定した処理のための障害になります。
生物処理の残さについては、理論的にはコンポストのような用途(土壌改良材、埋め戻し材)が想定可能ですが、上述の通り現実的ではありません。MBTは混合状態の廃棄物を対象としているため、生物処理後の残さにも細粒分に混じる異物(プラスチック、ガラス片など)が多く含まれており、コンポストとして利用するためには、前段の破砕・選別処理をより徹底する必要があるからです。そのために追加的にかかるエネルギーや人件費に対して、利用先が開拓される可能性も乏しいことから、できるだけ減容化した上で、残さは埋立地への埋設が一般的です。これは埋立物の減容化や有機物量の削減というMBT本来の目的には適っています。多くのMBT施設で「農地で利用」「土木工事での利用」を謳っているケースがありますが、よくよく聞いていくと、実際は使ってくれる人がいない、昔は使っていたようだ、農家に渡しているけど使ってはいないようだ、などの現状が詳らかになってきます。嫌気的バイオガス化から生産される精製ガス・電力・廃熱については周辺産業への供給先確保が重要です。地域のエネルギーインフラ(特に熱供給システム)が発達している場合には、住民への供給も候補に挙がります。ただし残さ・廃水の処理を別途検討する必要があります。
これまでに、欧州発の技術であるMBTを、南米やアジアの発展途上国へ移転する試みがすすめられてきました。しかし過去の取り組みの多くは、現地への適応に失敗して充分な成果を上げられていません。近年、都市の発展が目覚ましい東南アジア地域において、廃棄物量の増加に対応するための技術として、再びMBTの導入に注目が集まっています。東南アジアのごみの特徴としては、水分含有量が多いことと、食品・果実の非可食部などの有機物が多いことが挙げられます。このようなごみをMBTプロセスに投入する場合、水分により成分どうしあるいは機器への付着が生じやすくなり、破砕や選別の効率が悪くなってしまいます。そのため、事前に含水率を下げる(乾燥させる)ことが必要になります。乾季ならば、天日乾燥も可能ですが、腐敗臭、ごみの飛散などの問題が生じます。廃熱を活用することができれば追加的なエネルギーを必要とせずに乾燥させることができますので、RDF供給先の工場などと廃熱の融通で連携ができることが望ましいです。それが不可能な場合、生物処理を先に実施して、有機物分解とともに生物反応で生じる熱により乾燥をさせるバイオドライ(生物的乾燥)プロセスを行うこともあります。生物分解に不適な成分を分離せずに処理を実施するため、必要な処理面積・容量が多くなることが問題ですが、埋立地の敷地内などであれば広大な余剰スペースがあるため、さほど問題にはなりません。
持続的なMBT運営において重要となるのはRDFの受入先の確保です。先進国に比べて産業炉自体の数が少ないため、広範囲での利用を視野に入れる必要があり、他のRDF事業者・代替燃料との競争も生じます。そのため、熱量品質を石炭に近い5000 cal/gと高めに設定されるなど、要求品質を満たすために苦労しているのが現状です。少しでも選別精度を高めて、RDFの利用先を開拓できるように努力する場合もあれば、埋立ごみ減容化の目的だけに特化して、選別はほとんどせずに生物処理だけして埋め立てる場合もあります。その選択は、都市の規模、産業の集積状況、輸送環境の整備によって変わってくるものであり、都市や地域全体の成長に応じて見直しをするべきであると考えます。