東南アジアの都市域では経済成長に伴って環境保全の取り組みも進んだことから、廃棄物の埋立地においても、廃棄物層を浸透した汚水を外部に漏らさないための底部遮水の敷設や廃棄物の飛散、害虫・悪臭の発生を抑えるための覆土などを行うようになり、埋立地の状況は以前と比較して大きく改善されてきています。また埋め立てられる廃棄物も、発生源での回収および中間処理の導入により性状が異なってきています。こうした都市廃棄物管理の高度化に対して、埋立地浸出水については、貯留池や地盤への浸透など旧態依然のケースが多く見受けられるなど、十分な対策がとられていないのが現状です。
東南アジアの都市域では、雨期における浸出水の大量発生がありますし、廃棄物自体の発生量の増加と質の多様化も進んでいます。従って、このような東南アジア地域特有の環境条件に則して、埋立地浸出水の処理についても廃棄物管理システム全体の一部として提案していくことが重要と考えています。当センターでは、これらの問題解決を目的として、廃棄物管理の発展度合いに応じた浸出水対策技術・システムの提案や包括的で円滑な技術移転を支援するための情報を提供する研究活動を行っています。
ところで、経済発展が進んでいるとはいえ、現在の東南アジアの都市域で埋立地浸出水を処理するために多大なコスト、エネルギーを使用することは極めて困難です。そこで、生態系の力を活用することで、電気エネルギーをほとんど使用しない人工湿地(人工湿地による排水処理、2013年2月号)による排水処理技術に着目して研究を進めています。
人工湿地による排水処理では、処理したい排水を投入するだけですので、大がかりなシステムは必要ありません。また、湿地内には微生物、微小動物が数多く生息していると同時に、それらを餌とするカエル等の動物も介在し、有機物や栄養塩類などが生態系を通して自然界へ循環していきます。高温多雨な東南アジア地域という特性をふまえて、当センターの屋外実験施設において、雨水流入および水分蒸発量を考慮した湿地中の水の挙動および人工湿地による処理特性の基礎的研究等を行い、現地適用に向けた検討を進めています。
また、実際にタイ国において、現地の気候条件、埋立地浸出水を用いたミニスケールの試験を実施しています。植栽する植物としては埋立地内に自生しているガマを選定することで、写真の通り、大きく生長しました。浸出水に対して適応していたものと考えられます。
人工湿地による処理の目的は水質浄化ですが、今回は水量にも着目しています。浸出水が人工湿地を流れる間には蒸発によって水量が減りますし、植物による蒸散効果もあります。従って、処理水として出てくる水の量は流入させた浸出水の量よりも少なくなります。今回の実験では、40%前後の水量削減効果が得られており、特に昼間に蒸発散が進んでいることが示唆されています。うまく水量をコントロールできれば、後処理がし易くなったり、埋立地内の水管理にも繋がる有用な方法になると考えられます。
今後、塩類等の浸出水原水の水質、原水流入パターンや降雨条件、濾材の透水性、保水性等が植物の成長、蒸発散水量、水質浄化性能等に及ぼす影響を解析し、実用化に向けたパラメータを取得していく予定です。
通常、排水を処理すると有機物を嫌気的に分解する細菌や窒素を酸化分解する細菌などの作用により、温室効果ガスであるメタンや一酸化二窒素が発生します。人工湿地においても同様に温室効果ガスは発生しますが、生態系の力を活用した人工湿地でのガス発生メカニズムは複雑です。
下水処理場では、細菌類と微小動物を構成生物とする活性汚泥法が一般的ですが、人工湿地は、細菌類、微小動物の他にも、植物、小動物など、多数の生物が関与する生態系の力を活用したものですので、気候や日照も含めた様々な環境因子が作用していると考えられます。
通常の排水処理方法については、IPCCガイドライン(IPCCガイドライン、2011年3月14日号)において、科学的知見に基づいた温室効果ガス排出量の算定方法が定められていますが、人工湿地における温室効果ガス排出量の算定方法は定められていませんでした。そこで、湿地に関するガイドラインが補足されることになり、本執筆者も「人工湿地による排水処理」の統括執筆責任者として参画しました(温室効果ガス排出量の計算精度向上に向けた取り組み、2013年2月号)。当該算定方法に興味のある方は文末のリンク1) をご確認ください。
この研究では、埋立地浸出水を再度埋立地へ注入することで、埋立地内の環境条件を制御し、廃棄物層での微生物分解や化学的安定化を図る検討も進めています。循環水に浸出水を活用することは貴重な水資源の消費を避けるとともに、熱帯に特有の雨期・乾期の水量変動に対応しつつ、汚濁物質も十分に除去できる適正な浸出水処理技術が必要です。そこで私たちは、人工湿地技術と高度な膜処理技術などを組み合わせた埋立地浸出水処理技術について、東南アジアでの実用化を目指した研究に取り組んでいます。
また近年、ウキクサを植栽することによって、フェノールやアニリン、ノニルフェノールなどの芳香族化合物の除去が促進されることや、ウキクサの根からその分解菌が有用微生物として分離される等、ウキクサの魅力的な水質浄化機能が明らかにされつつあります。将来的には、埋立地浸出水の処理においてもウキクサと有用微生物の共生系を活用し、埋立地浸出水中の有害化学物質や重金属の除去等も対象とした研究を進めていく予定です。