循環型社会・廃棄物研究センター オンラインマガジン『環環kannkann』 - 循環・廃棄物のけんきゅう!
2008年2月18日号

カロリー?が気になる

小林 潤

 といっても、ダイエットやメタボリック症候群のお話ではありません。石油、石炭、天然ガスなどの化石燃料から樹木、草類などのバイオマス、果ては生ゴミや下水汚泥に至るまで、この世に存在するありとあらゆる「燃やすことができるモノ」には、総じて「カロリー」があります。 ただし、ここで言う「カロリー」とは、食べ物が消化・吸収されて、運動や基礎代謝などにより消費される生理的熱量のことではなく、空気(酸素)によって燃える(酸化する)時に発生する熱量(発熱量)のことを指します。本来、「カロリー(cal)」とは熱量を表す単位のことで、 「水1グラムの温度を1℃上げるのに必要な熱エネルギー」が1カロリーとして定められています。つまり、食品の持つ「生理的熱量(カロリー)」と燃やすことができるモノを燃やしたときに出る「発熱量(カロリー)」は、本質的には同じものなのです。

 さて、一口にゴミが持っている「カロリー」といっても、ゴミの種類によって大きく異なります。ゴミ1kgあたりでいえば、家庭ゴミはおよそ数百〜3,000 kcalくらいですが、廃木材では4,000〜5,000 kcal、ゴミ固形化燃料(RDF)では3,000〜4,000 kcal、 プラスチック・紙固形化燃料(RPF)では6,000〜10,000 kcalにも達します。RDFは家庭ゴミが原料ですが、中に含まれる水分が少ないため(RDFは製造過程で乾燥されるため)、同じ重さで家庭ゴミと比較すると発熱量が高くなります。ちなみに、原油の発熱量は1kgあたり約10,000 kcal、石炭の発熱量は1kgあたり6,000〜7,000 kcalです。 こうやって比べると、石油由来のプラスチックを多く含むRPFを除けば、多くの廃棄物の発熱量は化石燃料の半分以下であることが分かります。

 前置きが長くなりましたが、日本では可燃性の廃棄物は基本的に焼却処分されます(ごみ研究の歴史第3回参照)が、ただ燃やすだけでは廃棄物が持つ発熱量を活かすことができないので、燃やしたときに出る熱を発電に利用する「廃棄物発電」を行う施設が増えてきています。 平成17年度末のデータで焼却処理施設総数1,319に対して、発電設備を持つ施設数は286に上り、総発電能力は150万 kWとなっています(世界最大と言われる柏崎刈羽原子力発電所の総発電能力は約800万kWです。さらに今年の夏の東京電力管轄の最大電力需要は6000万kWを超えています)。 その発電効率(燃やした廃棄物の熱量に対して発電によってできた電力エネルギーの比率)は10〜20%くらいと言われており、あまり高くありません(最新の火力発電所の発電効率は50%に近いですが、逆に言えば今の技術では最も高くてこれくらいということです)。 ただし、先にも述べましたように可燃性廃棄物が持つ発熱量は化石燃料に比べると低いですし、焼却処理は廃棄物の減容化・無害化が主な目的なので、火力発電所のように発電効率を重視した発電設備(例えば、超高温・高圧で動く蒸気タービンを用いた発電設備があります。 これを超臨界圧火力発電といいます)を設置することがなかなかできません。 では、どうしたらゴミが持つ「カロリー」を上手に使うことができるのでしょうか。その答えの一つになりうる技術が「廃棄物ガス化」技術です。

 「循環・廃棄物のけんきゅう」2007年1月22日号8月20日号、および「循環・廃棄物のまめ知識」2007年1月22日号でも紹介していますが、廃棄物を高温で蒸し焼き(熱分解ガス化)にしたり、微生物を使って分解(水素・メタン発酵)することで、水素、一酸化炭素、メタン(都市ガスの主成分)などの燃料ガスを作ることができます。 このような可燃性ガスはいろいろな発電技術と組み合わせることが可能で、ガスエンジン(トラックのディーゼルエンジンとほぼ同じ)やガスタービン(ジェット旅客機のエンジンとほぼ同じ)などの内燃機関を使った発電だけでなく、燃料電池にも適用することが可能です。 ちなみに、燃料電池とガスタービンを組み合わせて発電する技術を用いることで、比較的小規模(小さな工場やマンションなどで使うくらいの電力)の発電でも50%を超える発電効率が達成可能であると言われています。ただし、「循環・廃棄物のけんきゅう」2007年1月22日号でも述べられているように、 生成する可燃性ガスの中にはいろいろな成分が含まれるためそれほど単純ではありません。さらに、成分だけではなくここでも「カロリー」が重要になります。可燃性ガスの1立方メートル当たりの発熱量でいえば、例えばガスエンジンは1,000 kcal以上の発熱量を持つ燃料ガスでないときちんと動きません(ちなみに、都市ガスは約10,000 kcal、LPガスは約24,000 kcalです)。 廃棄物のガス化によって得られる可燃性ガスの発熱量はガス化の方法によってかなり幅がありますが、熱分解ガス化技術を使えば条件を変えることである程度制御することが可能です。

 現在、私たちの研究では主に廃木材を対象として650〜950℃の幅広い温度範囲で熱分解ガス化試験を行っています。さらに、高温の水蒸気を加えて改質反応(メタンなどの炭化水素から水素を生成させる反応)やタール(分子量の大きな炭化水素類)の分解を促進させたり(水蒸気改質)、 微量の空気を加えることで反応しにくい固体炭素(木炭)を分解したり、改質触媒と呼ばれる材料を使って改質反応やタール分解反応が進行するのを手助けしたりして、生成する可燃性ガスの成分やその発熱量について分析し、それぞれの実験条件と得られる可燃性ガスの特性との関係を明らかにしつつ、目標となるガス組成や発熱量にコントロールするための方法について研究を進めています。 今までの結果から、温度を高くしたり触媒を使ったりすると水素濃度は高くなるが発熱量が小さくなること、空気は少ない方が発熱量は高くなるが分解されずに残ってしまう固体炭素が増えること等が分かってきています。ただし、これらは全て小型のガス化装置での結果で、実際に利用するときの装置の大きさになると新しい課題が出てくることがよくあります。 そこで、もう少し大きな装置を使ってさらに試験を行い、安全で効率が高く制御性に優れた装置の開発を進めています。

<もっと専門的に知りたい人は>
  1. 川本克也ほか(2004)熱分解ガス化-改質によるバイオマス・廃棄物からの水素製造技術の現状と課題、廃棄物学会論文誌、15(6)、pp.443-455
  2. Wu, W. et al. (2006) Hydrogen-rich synthesis gas production from waste wood via gasification and reforming technology for fuel cell application, Journal of Material Cycles and Waste Management, 8, pp.70-77
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