2007年8月20日号
ごみから水素エネルギーをつくり出す私たちが日常使用している電気などのエネルギーは、主に、石炭や天然ガス、石油などの化石燃料を燃やして作られています。しかし、これらを燃やすとエネルギーと同時に地球温暖化の原因となる二酸化炭素(CO2)も発生してしまいます。また、化石燃料は再生することができないので、いつかは枯渇してしまいます。このようなことから、クリーンで環境にやさしい新たなエネルギーが求められています。 そこで注目されているのがバイオマス資源の有効活用です。バイオマス資源とは、再生可能な生物由来の有機性資源のことです。生命と太陽エネルギーがある限り持続的に再生可能と言えるものがバイオマス資源であり、その特徴は、それが利用過程でCO2を放出しても、もともと大気中のCO2を吸収してできたものであることから、化石燃料の代替燃料として利用することで、CO2の排出削減に貢献できる点です。 廃棄物となったバイオマスの利用に関しては、飼料化および肥料化による再利用のほかに、メタン発酵、水素発酵による生物学的なエネルギー回収技術により、エネルギー化する方法があります。メタン発酵法は下水汚泥、し尿、生ごみ、食品廃棄物等のバイオマスから、メタンガスとしてエネルギーを回収する方法で、すでに実用化されています。一方、水素発酵により得られる水素は燃焼時にCO2を排出しないクリーンなエネルギー源であるばかりでなく、 化学工業、航空産業をはじめ多くの分野においてきわめて広い用途を有し、単位重量当たりの発熱エネルギーは石油の約3倍もあり、次世代の有力なエネルギー源の一つとして注目されています。また、水素自動車や水素電池などの新製品の開発も注目を浴びています。 水素の生産に関しては、水の電気分解や天然ガスの熱分解など既に実用化されている技術があります。その中で、メタン発酵によって生産されたメタンを水素に改質し、燃料電池に利用する方法が検討されていますが、改質には多くのエネルギーを消費します。これに対して、水素を有機性廃棄物から直接回収できれば、廃棄物の処理と同時に水素という有価資源の回収にも貢献できることになります。そこで、私たちの研究では、微生物を利用して有機性廃棄物から水素を生産するという研究を進めています。 微生物には、生活するために酸素を必要とするタイプと、必要としないタイプがいます。酸素を必要とするタイプを好気性細菌、酸素を必要としないタイプを嫌気性細菌と呼びます。嫌気性細菌は有機物を食べて生きるためのエネルギーを得る一方、その過程でメタンや水素などの様々な物質を生成します。これを発酵と言います。 水素をつくることができる微生物は、生育に必要なエネルギーを光に依存する光合成細菌と、有機物に依存する非光合成細菌に大別されます。どちらの細菌も嫌気性細菌ですが、その中で非光合成嫌気性細菌(以下は嫌気性細菌と呼ぶ)による水素発酵では、光を必要としないばかりでなく、有機性排水・有機性廃棄物などを原料として用いることも可能なので、水素発酵とともに排水・廃棄物の処理も同時に行える利点があります。 微生物の発酵作用で生ごみから直接水素を作る方法はメタン発酵に比べて難しい点が多いのですが、有効に働く微生物群の様子を解析した結果、反応時間、温度、pHなどを適切に調節することで「クロストリジウム属」と呼ばれる嫌気性細菌が効率的に水素発酵を行うことを明らかにしました。 また、生ごみからの水素の生成には酢酸等の有機酸の生成が伴うことから、水素発酵の後段にメタン発酵を設置し、有機酸をメタンに変換することで、更なるエネルギー回収が可能となります。そのため、私たちは生ごみからの水素・メタン二段プロセスの研究にも取り組んでいます。現在、食堂残飯から水素・メタンエネルギーを回収するミニプラントが茨城県美浦村のバイオエコエンジニアリング研究施設に設置され、生ごみから効率的に水素・メタンガスを回収することが可能であることが分かってきています。 さらに、水素発酵やメタン発酵による水素、メタンの回収に加え、その後に残ったものから窒素やリンなどの環境汚染物質を除去し、たい肥などへ利用することや、水域へ環境負荷を与えずに下水に流せるようにする技術の開発も同時に行っています。 <もっと専門的に知りたい人は> |
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