2007年1月22日号
ごみの熱分解で発生するガス成分とその量を予測する倉持秀敏
皆さんの快適な生活には、電気が欠かせません。例えば、冬にはコタツやエアコンなどの暖房器具を利用するのに電気を使っていると思います。普段はあまり気づきませんが、停電を経験したときに電気の大切さをよく考えさせられるものです。 わたしたちが使用している電気は、主に、石炭や天然ガス、石油などの化石燃料を燃やしたときに発生する熱(エネルギー)から作られます。これらを燃やすと地球温暖化の原因となっている二酸化炭素(CO2)も発生してしまいます。 また、化石燃料は再生することができないので、いつかは枯渇してしまいます。温暖化を防いで化石燃料への依存から脱却するために、近年、CO2の排出量が少なく、かつ、枯渇の心配のないエネルギーを積極的に利用することが求められています。 日本では、このようなエネルギーを「新エネルギー」または「再生可能エネルギー」と呼んでいます。太陽光や風力などの自然エネルギーもその一つですが、一方で、植物由来のごみからエネルギーを取り出して発電などに利用するという取り組みも始まっています。 当センターにおいても、このようなエネルギー変換に関する研究を3年ほど前から始めています。研究対象である植物由来のごみは、例えば、家を解体したとき生じる廃木材、残飯、家畜の糞尿などです。植物由来のごみに着目する理由は二つあります。 一つは、これらのごみは比較的多くのエネルギーを有しているからです。例えば、廃木材であれば石炭の約6割程度のエネルギーを持っています。つまり、これらは化石燃料に代わる燃料とみなすことができるわけで、効率的にエネルギーを取り出すことができればごみがエネルギー資源に生まれ変わるのです。 二つ目の理由は、CO2の増加を防ぐことができるエネルギーだからです。不思議に思われるでしょうが、廃木材を例に考えてみます。廃木材を燃やして電気として利用したときには、化石燃料と同様にCO2が排出されます(炭素が燃えると、空気中の酸素と結合してCO2になります)。 一方、木が生長するときには、大気中のCO2を吸収し、炭素を取り込みます。その木を燃やせば、炭素をCO2として再度排出します。つまり、炭素が大気と植物を循環するおかげで、植物由来のごみを燃やしても新たなCO2は排出されないとみなせるのです。 最近、「バイオマス」という言葉を新聞やニュースなどでよく見かけると思いますが、バイオマスとは生物由来の資源を意味しています。 それでは、植物由来のごみをどのようにエネルギーに変換させるのでしょうか。廃木材のような水分量の低いごみは、そのまま燃やして熱エネルギーに変換する方法が一般的でしたが、近年、酸素のない状態で熱を与えてごみを分解し、水素、一酸化炭素、炭化水素というエネルギーを有した燃料ガスへ変換する技術が注目されています。 この変換技術は熱分解ガス化と呼ばれています。得られたガスはガスエンジンや燃料電池に導入され、電気へと変換されます。しかし、得られたガスを燃料電池に直接導入することはできません。なぜなら、熱分解ガス化が進むなかで様々な化学反応が起こるため、ガスの中には、燃料電池の劣化の原因となる硫化水素(H2S)、塩化水素(HCl)等の腐食ガスも発生します。 したがって、ごみごとにこれらの腐食ガスの排出量を把握し、発電前に適切に除去することが必要となります。これらの腐食ガスの排出量を把握するには、実際に実験して確認すればよいのですが、多種多様なごみに対して実験することは大変な労力と時間を費やすこととなります。そこで、私たちの研究では化学平衡計算という手法を用いて、腐食ガスであるH2SとHClの排出量を調べています。 化学平衡計算を使うことで、いろいろな反応が進行した結果、最終的にどのような物質がどのような濃度で発生するのかを見積もることができるのです。その計算結果の一部を図に示します。計算の対象にしたごみは、廃木材や下水汚泥など計6種類です。図の横軸はガス化する温度を、縦軸は熱分解ガス化において排出される腐食ガス(H2SもしくはHCl)の濃度を表しています。 大まかな傾向として、廃木材(図a)では、熱分解温度が上がるにつれ、H2SとHClが発生する濃度も上がり、約700℃でピークを迎えます。しかし、それ以上の温度では、H2S濃度はほぼ一定となりますが、HCl濃度は下がります。下水汚泥(図b)では、温度に対する腐食ガスの排出濃度の変化量は全く違う傾向を示します。 このように、ごみの種類によって温度に対する腐食ガスの排出量が違うことが明らかとなりました。また、面白い結果としては、カカオ(チョコレートの原料)の殻はHClの排出量が極端に低くなり、カカオ殻を原料に使えば、燃料電池の前にHClを除去することが不要で、より低コストで電気を提供できる可能性が示されました。 しかし、これらの結果はあくまでもコンピュータ上でのお話で、実験と計算結果を比較して、計算結果の妥当性を評価する必要があります。現在、計算結果の妥当性の評価や腐食ガスの発生メカニズムに関する研究を進めています。 <もっと専門的に知りたい人は> |
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