近年のコンピュータ性能の向上は目覚ましいものです。特にスーパーコンピュータの計算速度などは、各国が競い合い、記録を更新するたびにニュースになります。このような高性能化により、コンピュータを使えば人間の限界を超えた規模や速度での様々な予測ができると期待が高まってきました。ごみ処理の分野でも、例えば廃棄物最終処分場(以下、処分場)に持ち込まれるごみの種類や量、埋める位置等のデータを日々記録し、コンピュータに入力しておくことで、将来を考えながら廃棄物処理関連施設を運営しようという動きがあります。では高性能なコンピュータがあればすべてが上手くいくのでしょうか?
ここで紹介する研究は、処分場の未来を予測するものです。各家庭や事業所から出されたごみは、燃やしたり潰したりして小さくしたのち、処分場に持ち込まれます。処分場とは、そのごみを、水の漏れを防ぐシートに囲まれた場所に埋め、清浄な土で覆うことで衛生的に管理するための施設です。しかし、ごみは覆われていても、微生物によって分解されていく過程や、しみ込んだ雨水に洗い流されたりする過程で環境を汚す物質が出てきます。こうした物質が溶け込んだ水は、周りの環境に悪影響を与えないように、処分場の底から1か所に集めた上で、きれいにするための処理を行います。しかし、その物質の量は何年、または何十年もかけて少しずつ減っていくものの、生活環境に影響を及ぼさないと判断される基準をクリアするまで、常に処理を続けなければなりません。処理が必要なくなったとき、処分場の廃止が認められます。廃止までの期間を廃止期間といいます。
問題なのは、処分場を廃止できるのはいつか、処分場の管理で必要な作業はどのようなものか、といったことが事前には分からないことです。処分場の内部はわからないことだらけですが、それでも理論と経験を頼りに埋め立てたごみの変化をある程度予測し、将来を見据えた運営をしようと、コンピュータシミュレーションを用いた研究が始まりました。
処分場の運営に係る管理者や研究者にとって、ごみの種類やそれを埋め立てた状況を詳しく把握することは、とても手間がかかり現実的ではありません。実態を把握しきれないため、理論のみから廃止時期を正確に予測することは困難です。そこで私たちは、今まで運営されてきた処分場のデータを集めてその傾向を分析し、予測の一助とすることを考えました。日本各地の処分場には、いつどんなごみを埋めたら、どのような物質がどれだけの期間排出されるのか、といったデータが蓄積されています。それを集約し、その傾向を処分場の特性と関係付けることで、データを全く記録していない他の処分場や、これから新しくつくる処分場においても、より正確な予測ができると期待しています。
そこで、データ収集システムを構築し、全国の処分場にデータ提供を求めました。しかし、将来に関わる重要な研究であり、協力は得られるはずという予想は外れました。想定されていた研究課題は、データ分析や予測精度の向上といった技術面でしたが、そもそも各々の処分場にはあるはずのデータを提供してもらえないという壁にぶつかってしまったのです。
なぜデータが集まらないのか。これを考えて対処するのも研究者の仕事です。データをもつ現場の人は、普段の業務だけでも忙殺されています。その中でも協力したいと思ってもらうには、研究のメリットの理解を促す必要があります。そこで、研究の説明を、研究者目線で専門的なものから、短時間で理解しやくするため、図やイラストを用いて視覚に訴えるように変更しました。デザインのプロにお願いし、興味を引きやすく、研究協力が処分場の未来をどのように変えていくかを想像しやすいものを作ってもらいました。さらに、現場の人が抱える悩みを調べるために、ヒアリングのプロに協力を仰ぎました。データの提供に二の足を踏んでしまう理由をアンケート形式で聞き取りし、障壁となっているものを一つずつ解消しているところです。
近年のコンピュータ性能の急速な発展は、ビッグデータ活用を可能にすると言われています。しかしながら、コンピュータの高性能化が進めば必ずデータが活用できるわけではありません。コンピュータが処理するデータを与えるのは人間です。まずは、洗練されたデザインの図やイラストなどを駆使した説明でデータを持つ人の心を動かし、その結果としてデータを提供いただくことが必要です。さらに、提供してほしいデータの種類と量を予め明確にしておくことで相手に与える手間を最小限にすることや、得られた紙資料、映像、または音声からデータを取捨選択してデータに潜む特徴を研究するのは当然のこと、加えてその結果を平易な説明で視覚的にも訴えられるように表現することも忘れてはいけません。データは積み重ねによって大きな価値を生み出すため、研究者と現場の方々が同じ目線で協力し合える関係を築くことが最も大切です。そうした多様な作業を実施するために、自分自身の能力を養うとともに、クリエイター、ライター、ファシリテーター等の研究者以外の方々と連携することが重要だと感じています。
<もっと専門的に知りたい人は>
- 石森洋行, 磯部友護, 石垣智基, 山田正人: 最終処分場の実用的な将来予測手法とそのための対話プラットフォームの構築. 都市清掃, 363(74):14-21 (2021)
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5:廃棄物処理処分技術の適合化ならびに高度化に関する研究