昨今、テレビ番組でも工場見学が人気ですが、皆さんは工場見学と聞いて何をイメージするでしょうか?
牛乳工場やパン工場などの製造工場のイメージが強いかもしれませんが、近年では、小学4年生が、社会科と総合学習の一環として、地域のごみ処理施設を訪問することになっているそうです。
一般的なごみ処理施設の見学は、次のような流れで行われます。まず、会議室で現場の担当者から(あるいはビデオ・DVDを視聴して)、ごみがどのような手順で収集・運搬され、焼却されるのか、施設の構造に関する説明を聞きます。その後、実際に見学通路を歩いて、ガラス越しに施設を見学します。ごみピットに集められた大量のごみと、それを巨大クレーンでかき混ぜる様子は圧巻です。中央制御室では工場全体の運転管理の状況や焼却炉内の様子をモニター越しに見ることもできます。
私たちも、研究の一環でごみ処理施設を見学させていただくことがありますが、現場の担当者から地域のごみ処理状況について直接話を聞き、問題意識を新たにする非常に貴重な機会になっています。
最近ある関東地方の中核都市の施設を見学しましたが、次のような点が印象に残りました。①ごみ排出量に人口減少や高齢化のなど社会変化の影響が出てきていること、②施設の老朽化に伴い設備の更新・建替えが課題となっていること、③焼却で発生する余熱が十分に利用されていないことです。
この地域では、ごみの分別収集や有料化の効果もあり、一人1日あたりのごみ排出量は平成18年から23年にかけて約1000gから600g程度まで減少しましたが、ここ3年は横ばいで推移しています。特に中心部から外れた人口過疎化が進んだ地域では、中心部に比べてのごみ発生原単位が高めであるなど、高齢の単身世帯の増加の影響が出ているということでした。昭和60年代に導入された施設では、老朽化に伴う施設の更新が必要になっていますが、既存の施設を延命するか、それとも新しい場所に建て替えるかといった移転・建て替え問題と、それに伴う財政負担が問題となっています。ごみ焼却で発生する蒸気は、工場内の冷暖房や給湯や近隣の温水プールなどの公共施設に使用されていますが、それらは発生量全体の3割程度に過ぎません。残りは発電して施設内の装置や設備を動かすのに使われていますが、余った電力が電力会社に売電できなければ無駄になってしまいます。ごみ焼却施設の余熱を地域冷暖房に有効利用する取組は地球温暖化防止の有効な手段であり、欧米では広く行われていますが、日本ではほとんど普及していません※。これはごみ焼却施設が「迷惑施設」として位置づけられ、住宅地や商業地域から離れたところに立地されることも原因の一つと考えられます。
日本ではごみ問題を身近な環境問題として感じる人が多いと思いますが、一方で、ごみ焼却施設を迷惑施設ととらえて居住地域から遠ざけたいと思っている人が多いことは大変残念なことではないかと思います。今後も多くの地域で施設の更新・建て替えが行われると思いますが、単にごみを処理するという視点だけでなく、資源やエネルギーとして有効利用する視点でこの問題を捉えて、地域・まちづくりを見直すきっかけにする必要があります。東日本大震災への対応の経験から、ごみ焼却施設を地域の防災施設として位置づけて活用しようという動きもあるようです。
各自治体では、一般市民の意識向上を目的としてごみ処理施設の見学コースを設けているところも多いようです。久しぶりの工場見学をしてみてはいかがでしょうか?
※現在ごみ焼却排熱を地域熱供給システムに活用しているのは、札幌市真駒内、東京臨海副都心、光が丘団地、品川八潮団地、千葉ニュータウン都心地区の5箇所のみです。