けんきゅうの現場から
2015年10月号

ベトナム・ハノイ市における生ごみ分別収集の課題と解決方針

河井 紘輔

都市ごみの堆肥化処理

アジアで都市ごみを焼却処理しているのは日本、台湾、シンガポールぐらいで、その他の国では未処理のまま埋立処分している場合が一般的です。その結果、埋立地では温室効果ガスや浸出水(排水)が大量に発生し、深刻な環境汚染が生じています。都市ごみを未処理のまま埋立処分するのではなく、焼却処理や堆肥化処理といった中間処理を行うことができれば環境負荷が低減しますが、アジア新興国では処理コストの高い焼却処理を導入できる自治体はまだ少ないのです。一方、微生物を用いて有機物を分解し、肥料を作る堆肥化処理は焼却処理に比べると安価で導入できます。タイのバンコク都、フィリピンのセブ市、インドネシアのスラバヤ市、ベトナムのホーチミン市など、規模は様々ですがいくつかの都市で堆肥化施設が稼働中です。

都市ごみの中で堆肥化処理に適しているのは生ごみです。ごみを放っておくと腐った臭いがしますが、それは調理くずや残飯といった生ごみが微生物によって分解されているからです。都市ごみには通常、生ごみだけでなくプラスチックや金属など様々な不要物が含まれています。微生物によって分解することが難しいプラスチックや金属などは堆肥化処理に適しません。イラスト:しげるそのため、堆肥化処理に適さないごみを堆肥化処理の過程で取り除く必要があるのですが、そのすべてを取り除くことは容易ではなく、堆肥に異物として混入してしまいます。プラスチック片やガラス片などの異物を含んだ堆肥は利用者に嫌われます。見た目が悪いだけでなく、そのような異物でケガをすることもあるからです。都市ごみから作った堆肥の需要は決して高くないのですが、異物の混入が多くみられるのがその原因のひとつです。

ベトナムにおける生ごみの分別収集

そんな異物混入の課題を解決する手段のひとつが「分別」です。つまり、堆肥化に適したごみと適さなごみを分けて捨てればよいのです。そうすれば、堆肥にプラスチックやガラスなどの異物が混ざることがなくなり、堆肥の価値が上がります。ベトナムのハノイ市では(独)国際協力機構(JICA)の支援(技術協力プロジェクト)により、堆肥化に適したごみを分別収集する体制を一部地域を対象に構築しました。

写真1 分別収集容器 写真1 分別収集容器

分別収集の対象地域では毎日決まった時間に緑色と橙色のごみ収集容器が設置されます(写真1)。対象地域の住民は分別ルールに従って、堆肥化処理に適したごみを緑色の収集容器に、適さないごみを橙色の収集容器に捨てなければなりません。なおハノイ市では、草花も堆肥化処理に適したごみに分類しています。また、あさりの殻、卵の殻、鶏の骨、とうもろこしの芯、果物の種など、多くの人が生ごみと認識しそうですが、微生物によって分解されない(されにくい)ごみは、堆肥化処理には適さないごみに分類しています。


分別に関する追跡調査

JICAの支援は2009年に終了したのですが、その後も一部の対象地域(人口約1万4千人)では分別収集が継続されています。いったいどれだけの住民が現在も分別収集に参加しているのか以前から気になっていたので、2014年8月に現地で調査してみました。住民が緑色と橙色のどちらの収集容器にごみを捨て、捨てられたごみの中にはどのようなものが含まれているかを分析するという調査です。住民には普段通りごみを捨ててもらうために、ごみが捨てられるまでは住民に干渉しないよう、少し離れたところで待機し、捨てられた直後にごみを収集容器から拾い上げました。この際、収集容器の中には段ボールを設置し、ごみを拾い上げやすいよう工夫しました(写真2)。調査には大勢の地元大学生が手伝ってくれ(写真3)、その甲斐あって8日間で合計558世帯からごみを回収することができました。

写真2 調査時に収集容器の中に設置した段ボール 写真2 調査時に収集容器の中に設置した段ボール
写真3 調査に協力してくれた地元大学生 写真3 調査に協力してくれた地元大学生

調査の結果、堆肥化処理に適したごみの分別収集について、以下の3つの課題が浮かび上がりました;(P1)分別収集に参加する住民が少なかった(558世帯のうち約14%)、(P2)分別の精度があまり良くなかった(堆肥化処理に適したごみとして分別されたごみの約3分の1が異物)、(P3)分別していないごみを緑色の収集容器に捨てる住民が少なくなかった(558世帯のうち約33%)。

分別収集の解決方針

研究者としての私はこの結果を踏まえてどんな提言ができるのでしょうか。前述のP1からP3の課題を解決することによって、ハノイ市における生ごみ分別収集が改善するはずですが、問題はその順序です。つまり、(S1)分別収集に参加する住民を増やす、(S2)分別の精度を高める、(S3)分別していないごみを橙色の収集容器に捨てる、の3つの解決策をどの順序で奨励するべきなのかですが、これは自治体によって異なる可能性があります。質は低くても、ある程度の量のごみを収集したいという「量」にこだわる自治体(S1を優先)もあれば、量は少なくても、ある程度の質のごみを収集したいという「質」にこだわる自治体(S2、S3を優先)もあるはずです。より質の高いごみをより多く収集するのが理想ですが、一足飛びに理想に到達できる訳ではありませんので、その理想へ至るまでの解決方針を決定する必要があります。収集するごみの量は減ったとしても、まずは緑色の収集容器に捨てられるごみの質を高めることを解決方針にするのであれば、(S3)→(S2)→(S1)の順序を奨励することになります。なお、この結果から言えることは分別されたごみの質と量に関してのみで、なぜ住民は分別するのか(分別しないのか)を明らかにする意識調査は今後の課題です。

<参考>
  • Kawai K, Huong LTM (2015) Monitoring source separation of household organic waste in Hanoi, Vietnam. The 26th Annual Conference of Japan Society of Material Cycles and Waste Management 566-567.
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