E-wasteとは、ごみとして捨てられた電気・電子機器を表す言葉です。E-wasteにはレアメタルや貴金属、プラスチックなどの私達の役に立つ資源とともに、有害な化学物質も含んでいます。近年、途上国において行われているE-wasteに含まれる有用な資源を取り出す作業が、環境を汚染し、作業者の健康を損なうかもしれないと、世界各国で心配されるようになっています。E-wasteの発生量は今後も世界中で増加することが予測されていることから、今後も非常に重要な問題となると考えられます。
資源循環・廃棄物研究センターでは2011年からE-wasteリサイクル村におけるフィールド調査を行っています(E-wasteリサイクル現場の土とダストを調べる、2011年12月号; E-wasteリサイクルに伴う有害化学物質のゆくえ、2015年1月号)。2014年1月に訪問したベトナム北部のリサイクル村では、殆どの家庭の軒先でE-wasteの解体作業が行われており、マスクや軍手など防護具をせず、素手で作業が行われていました。またうず高く野積みされたE-wasteの間を子供が遊ぶような姿も確認され、早急な調査と対策が必要であると考えられました。
私はこの調査の中で、E-wasteの解体現場に住む人々がどのぐらいの量の有害物質を体の中に取り込んでいるかを調べる研究を行っています。体に取り込んだ有害物質の量を有害物質の曝露量といいます。今回の調査では、ある人が日頃食べたもの、飲んだもの、吸った空気を採取し、これらに含まれる有害物質の濃度から曝露量を積み上げていく方法を用いました。この方法の利点は、E-wasteのような有害物質の発生源と、人への曝露との関連が明確になることです。有害物質の人への曝露量を知ることで、その有害物質はどの程度、人の健康に対して危ないかを見積もることができるようになります。
そこで、E-wasteの解体作業を行っている5家庭に調査への協力を依頼し、曝露源となりうる一日分の食事、飲料水、ハウスダスト、住居周辺の土壌、室内空気の採取を行いました。さらにリサイクル村の中にある地元のマーケットで食品を多数購入してきました。住民の方々に聞き取りを行った結果、マーケットで販売されている食品のうち、米、鶏、アヒル、卵は村内で生育されたものであり、これらを日常的に食べていることがわかりました。今後の分析結果から、リサイクル村住民の曝露量を推定する予定です。
E-wasteの解体作業は作業者や周辺住民の健康を脅かす可能性がありますが、一方で作業者の経済性を向上させる側面も持ちます。今後は経済性を保ちつつ、作業者の健康を脅かすことのないよう、E-wasteからの汚染を低減、防止するための対策を考えていくことが重要であると考えています。
<もっと専門的に知りたい人は>
- 小栗朋子, 鈴木 剛, 松神秀徳, 宇智田(野田)奈津代, Nguyen Minh Tue, Le Huu Tuyen, Phan Hung Viet, 高橋 真, 田辺信介, 滝上英孝(2014)マーケットバスケット調査に基づくベトナム・ハノイ住民の一日微量金属摂取量, 第22回環境化学討論会, 同要旨集, P-191