けんきゅうの現場から
2015年2月号

インタビュー調査でデータをあつめる

横尾 英史

環境問題の研究には土や水といった「モノ」のデータが重要となります。他方で、これら問題が人間社会の活動から生じているために、「ヒト」を観察することも重要となります。私は経済新興国を対象として、インタビュー調査をすることでデータを収集し、それらを統計的に分析するという手法で研究をしています。以下では、私がベトナムで行っている調査を例にこのような研究のプロセスを紹介します。

イラストまず、これはどのようなアプローチの研究でも同じですが、研究上の「問い」を立てます。これは疑問形の短い文であるといいでしょう。私の研究対象はベトナムの家庭でのごみ分別行動です。ベトナムでは自治体による家庭ごみの分別回収がまだまだ普及していません。その代わり、「ジャンクバイヤー」と呼ばれる人たちが家庭を巡って、ごみになる前に売れるものを回収しています。そこで、ここでの問いは、「自治体によるごみ分別の義務化が無い中、どのような家庭が分別をしているか?」と設定しました。次に、仮説を立てます。ここで形成した仮説は、「所得が低い家庭ほどごみの分別をする」というものです。なぜならば、ごみを分別するとジャンクバイヤーに買ってもらえることがあり、収入となるからです。もしこの仮説が正しいとすると、所得の高い家庭が増えるに従って、ジャンクバイヤーに渡す目的で分別する家庭が減ってしまうかもしれません。そうなると、自治体が回収しなくてはならないごみが増加するため、分別回収制度を導入することの必要性が高まるでしょう。それゆえ、今後の経済成長が期待されるベトナムにおける循環型社会の未来を構想する上で、ごみ分別行動と所得の関係の研究が重要となります。

そして、仮説を統計的に検証することを考えます。そのための統計学的な分析の枠組みを決めます。その上で、枠組みに合うデータはどのようなデータかを考えるのです。ここでは、調査対象の家庭を分別「している」か「していない」かに区別する必要があります。そして、家庭の所得水準というデータが必要になります。こうして決めたデータをできる限り正確に入手できるような質問文を考えます。観察したい行動や数量を正確に知ることができる文を考えるのです。例えば、回答者が回答に困るような質問は「いい質問文」や「いい選択肢」とは言えません。「あなたの家庭ではペットボトルのごみを誰かに売っていますか?」という質問文は、調査対象の家庭すべてが、ペットボトル容器に入った製品を購入していることを前提としてしまっています。「私の家ではペットボトルは使っていない」という回答者がいることも想定して、選択式ならば「はい」「いいえ」に加えて「ペットボトルに入った製品を購入しない」を含めたり、あるいはこの質問の前に購入の有無を聞くなどします。このようにして作成した質問を列挙した後に、それを適切に並び換えます。こうして、インタビューする内容が完成します。これらが順番通りに記載されたものを調査票と呼びます。

このように調査内容を決定していくのと同時に、調査対象者を選定します。私の場合はベトナムの首都ハノイの中でも中心部の4地区に住む家庭にしぼりました。この4地区は同じ都市環境公社によってごみの収集が行われているという共通点があります。このようにして、地域を決めることで対象となる人を定義するのが一つの方法です。

写真1 写真 予備調査の様子:ジャンクバイヤーにインタビューする筆者 予備調査の様子:ジャンクバイヤーにインタビューする筆者。
写真2 写真 本調査の様子:現地の調査員のインタビューの様子 本調査の様子:現地の調査員のインタビューの様子。

次に、インタビューする人数を決定します。まず、先に定義した調査対象者となりうる人(母集団)の数を調べます。私の例では、約28万世帯でした。28万世帯の全員にインタビューできれば、この地域について非常によく理解できるでしょう。しかし、それには多大な時間と人手がかかると思いませんか。そこで、統計学が力を発揮します。この母集団からランダムに対象を選ぶことができれば、全員にインタビューした場合と非常に近い結果が得られるのです。この選ばれた調査対象者をサンプル(標本)と呼びます。母集団の各々がサンプルに選ばれる確率が等しくなるようにするのです。

サンプルを何人にするかは、仮説の内容やその程度、そしてどれくらい厳密に仮説を検証したいかによって変わってきます。私の例では、ランダムに選んだ700人以上に調査をすれば、28万人を調査して得られた結果と非常に高い確率で近い結果を得られることがわかりました。700人のサンプルの統計量(例えば所得の平均値)が母集団のそれの誤差3%の範囲に入る確率が90%となることがわかったのです。これを参考にして、サンプルの規模を700人と決定しました。これで、質問内容と調査対象者が決まりました。

次は調査員を確保する作業となります。調査を専門とする人たちに委託する場合もあれば、現地の共同研究者が学生アルバイトなどを集めることもあります。外国でのインタビュー調査の実施では、他の調査と同様で現地に信頼できるパートナーがいることが鍵となります。集まった調査員を相手に調査の内容を伝え、インタビューの練習をしてもらいます。これもとても大事なプロセスです。調査員にしっかりと質問の意図を把握してもらわなくてはなりません。また、調査員にこの研究プロジェクトがおもしろい、社会的に重要である、と思ってもらうことも調査の成功を左右します。こうして調査員に調査のトレーニングを受けてもらったら、いざ本番です。

私の例では、10人の調査員で約2か月の期間がかかりました。インタビュー調査で得られた結果は、調査員が表計算ソフトに入力します。なお、近年ではタブレット端末などを使って調査票を電子化する方法も普及し始めています。私の場合は、全調査員のパソコンと私のパソコンをクラウドサービスで繋ぐことで、調査員が入力したのと同時に結果を見ることができるようにしました。こうして、10人による合計700家庭を対象としたインタビュー調査のデータが集まりました。

今回の調査の場合、最初に問いを立ててから、調査を開始するまでに約10か月かかりました。この間、上述の調査対象者の選定や調査票の作成などの作業に加えて、研究予算の用意、予備調査、自治体への調査の説明などを行います。そして、調査に2か月、集めたデータの入力作業などに1ヶ月以上かかったので、データが集まるまでにはまる1年以上の時間を要しました。調査が無事に終わった時には、大きな達成感があります。しかしながら、研究はまだまだ道半ばです。得られたデータをもとに統計解析をすることで、当初の仮説を検証するのです!

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