けんきゅうの現場から
2013年6月号

研究成果を発表する

小口 正弘

研究成果を発表する意味

私たち研究者は言うまでもなく研究が仕事です。研究では実験や調査で得られたデータの分析,解析などに基づいて新たな事実や知見を発見していきます。しかし,研究者が自らの研究で得られた成果を発表せず自分だけでしまいこんでしまっては,成果の活用も見込まれず単なる自己満足に終わってしまいます。特に私たちの研究所はその研究費用の多くが税金を原資としていますので,研究成果を積極的に発表して学術界や社会に還元する責務があります。また,研究成果が学術的,社会的に活用されるためには,その内容が他人から見ても妥当,正当で価値のあるものであることを認めてもらう必要があります。以上のことから、研究成果を発表することは研究者にとって非常に重要な仕事の一つです。成果発表をしなければ研究は完結しないといっても過言ではないでしょう。

学術論文と学会発表

研究成果の主な発表方法として学術雑誌での論文発表と学会での発表が挙げられます。

学術雑誌で論文発表をするためには,一般的に査読者による査読(論文をその学術雑誌に掲載してもよいかどうかの審査)をパスする必要があります。査読者は論文の内容と同分野の専門家(通常複数名)が務めます。査読の結果,多くの場合は内容の修正や追加を求められたり掲載不可(リジェクト)になったりしますが,そのまま掲載されることもあり得ます。修正や追加を求められた場合は適切に修正した原稿を再度提出し,査読をパスすれば晴れて掲載可(アクセプト)となります。このような過程を経て掲載される論文を「査読付き論文」といいます。論文はこのような同分野の専門家による査読システム(ピアレビューといいます)によってその内容の妥当性,正当性や価値が保証されているといえます。ちなみに査読者はボランティアです。私もしばしば査読者を務めます。忙しいときに依頼が来ると大変ですが,自分の論文も査読してもらっていることを考えて基本的に受けるようにしています。

イラスト:もとこ、たまき

学会発表は研究発表会などでプロジェクターやポスターを使って研究内容を口頭で発表するものです。論文のように査読をパスしないと発表できない場合もありますが,多くの場合は希望さえすれば発表できます。学会発表では,既に終わった研究(学術論文となっている研究)の成果を発表することもありますし,進行中の研究について途中結果を発表することもあります。学会発表では研究の進め方や内容について批判を受けたり助言をもらったりすることができ,研究をより良いものにするためのヒントを得ることができます。また,学会発表の別の役割として,同分野の研究者とのコミュニケーションやネットワーク作りのきっかけになるということがあります。このように学会発表には論文投稿とはまた異なる役割があります。

なお,論文と学会発表のほかにも,査読が付かない総説や解説記事等や研究報告書などによる研究成果の発表もしており,それらによって社会や行政への貢献も図っています。

循環センターの研究成果発表

今回の記事を書くにあたって,わたしたち資源循環・廃棄物研究センター(以下、循環センター)の研究成果の発表状況をまとめてみました。過去約5年間(2008年1月から2013年4月まで)の発表件数は,査読付き論文が約250報,その他の誌上発表(総説,解説,記事等)が約200報,学会発表が約1250件となっています。この件数には所外や所内他センターの研究者が第一著者・発表者であるもの(循環センターのメンバーが共同研究者として関わった研究発表)も含みます。循環センターの研究者数は(毎年増減はありますが)35人前後ですので,平均すると1人の研究者が1年間に査読付き論文を1~2報,その他の誌上発表を1報程度出し,学会発表を7件程度行っていることになります。

査読付き論文は7割が国際誌(英文誌),3割が国内誌(和文誌)に掲載されています。研究成果をより多くの人に知ってもらうため,論文を世界の共通言語である英語で書いて世界中の人が読むことができる国際誌に投稿することが近年の主流です。ただし,研究の対象や内容によって主に日本人に対して研究成果を発信したい場合などは,研究成果の伝わりやすさ,読んでもらいやすさなどを考えて国内誌に投稿することもあります。

次に,循環センターの研究成果がどのような雑誌に掲載されてきているかを見てみましょう。循環センターの研究成果は環境科学分野(Environmental Science and Technology,Chemosphere,環境化学など)や廃棄物・資源循環分野(Waste Management,Journal of Material Cycles and Waste Management,Waste Management & Research,廃棄物資源循環学会誌・論文誌など)の学術誌で多く論文掲載されています。それ以外にも,水処理・水環境分野,有害物質・健康影響分野,金属・材料分野,燃料・エネルギー分野,物理化学分野など様々な研究分野の学術誌に論文が掲載されています。

廃棄物や資源循環の問題解決には様々な分野の連携や知識が必要です。このため,循環センターでは多様なバックグラウンドを持つ研究者が幅広い分野にまたがって研究を行っています。今回ご紹介したデータからそのような循環センターの活動の様子を見て頂けるのではないかと思います。

循環センターの研究成果に関する査読付き論文の掲載雑誌 過去約5年間(2008年1月から2013年4月まで)の循環センターの研究成果に関する査読付き論文の掲載雑誌
(研究所内の研究成果発表データベースに登録されたデータに基づく)
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