けんきゅうの現場から
2011年10月号

生ごみの循環利用

河井 紘輔

生ごみの循環利用とは

多くの自治体では家庭系一般廃棄物のうち、紙類・プラスチック類・ガラス類・金属類などの資源となり得るものを分別収集して循環利用しています(2006年11月20日号「ジュンカンガタシャカイってどんな社会」参照)。循環利用の事業規模は素材ごとに異なり、都道府県内で循環利用されるものもあれば、中には国境を越えて中国などで循環利用されているものもあります(2007年2月5日号「コクサイシゲンジュンカン?」参照)。一方、生ごみ(食べ残しや調理くずなど)はバイオマス(2011年10月号「バイオマス利用による地域活性化」参照)として貴重な資源で、堆肥化やバイオガス化(2010年12月20日号「バイオガス化技術はエネルギー生産プロセスかエネルギー消費プロセスか?」参照)などの循環利用が可能です。

しかし現実的には、特に家庭で発生する生ごみのリサイクルは社会経済的に様々な条件が整わないと成立が難しいとされています。したがって、生ごみの循環利用を実施する自治体はごく一部に限られていて、多くの自治体では焼却処理しているのが現状です。そんな中、ここでは生ごみの循環利用で成功している山形県長井市の事例を紹介し、生ごみの循環利用に必要な適正規模について検討してみたいと思います。

循環利用の事例(山形県長井市)

長井市は山形県の南部に位置する人口約3万人(約1万世帯)の田園都市で、地域農業の発展を目指していち早く生ごみの循環利用に取り組んだ自治体です。市街地に住む約5000世帯が週2回生ごみを分別排出します(写真1)。委託業者によって収集された生ごみは市営の堆肥センターで籾殻と牛糞を混ぜて堆肥化されます(写真2)。80日かけて製造した堆肥は農協が委託販売し、市内の農家が利用します。堆肥を利用して栽培した野菜は認証野菜として市内の直売所で住民に販売されます(写真3)。この生ごみ循環利用計画及び事業を「レインボープラン」と称していますが、「台所と農業」をつなぐ「虹の架け橋」という由来があるそうです。

写真1 住民による分別排出 写真1 住民による分別排出
写真2 堆肥センター 写真2 堆肥センター
写真3 認証野菜 写真3 認証野菜

レインボープランは住民が主導して自治体の支援のもと、農協、商工会議所、市民団体、農家など様々な主体が関与して策定されました。全国的には生ごみ循環利用を始めたものの中断した自治体も多い中、長井市では今でも活発に行われています。しかし、生ごみの分別排出に関しては成功していると言えるものの、長井市では事業費の負担が大きかったり、参加農家の数が増えず高齢化していたり、認証野菜の消費が伸びなかったりといった課題も抱えています。

循環利用の適正規模

生ごみの循環利用が持続する条件として、「住民による徹底した生ごみ分別協力」、「自治体による事業費の負担」、「農家による堆肥利用」、「住民による農産物の消費」などが挙げられます。そして、それぞれの条件にはそれを満たすための適正規模があると考えられます。日本の大都市において生ごみの循環利用が今まで成功しないのは、上記の適正規模のうち、いくつかを満たせないからではないでしょうか。

上記はあくまでまだ仮説に過ぎませんが、私たちは生ごみの循環利用に必要な条件を論理的に明らかにするとともに、生ごみの循環利用の適正規模を提示したいと考えています。

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