活動レポート
2012年7月号

世界遺産とごみ問題

久保田 利恵子

世界遺産とごみって全然違うテーマに見えますか? でもごみは、時に世界遺産としての価値を損なう大問題になりえるのです。世界遺産がもたらす社会経済的影響を調べてきた筆者からみた世界遺産とごみの関係を少しご紹介します。
世界遺産に登録されるには専門的な見地に立った複数の条件を満たしている必要がある上、顕著な普遍的価値(Outstanding Universal Value)を持つ遺産であることが絶対条件です。
2012年7月現在、世界中で962か所 が世界遺産として登録されています。

世界遺産はこうした登録に至る背景や条件はともかく、誰もが認める「世界的観光地ブランド」として認知されていますが、観光地化されることで大きな問題となるものの一つにごみ問題があります。

ベネツィア、知床、グランドキャニオン

この3つに共通するのはユネスコ(国連教育科学文化機関)が登録する世界遺産であるということです。

また、はじめに挙げた共通点に加えてもう一つ共通することがあります。それは、観光開発とともに遺産周辺部のゴミが増大した、ということです。

図1:ベネツィアでごみを収集する船 図1:ベネツィアでごみを収集する船

イタリア・ベネツィアは世界遺産に登録される前から観光地として栄えていましたが、世界遺産に登録されてから世界遺産観光を目当てに訪れる人が急激に増えたことにより、旧市街から住民がいなくなり、ホテル、レストラン、おみやげ店などが増えたことから排出されるごみの質と量に変化が起きたとされています。そこでベネツィア市とごみ処理業者が協力した結果、2011年にはごみのリサイクル率は50%となったそうですが、観光客が排出するごみの割合が高く、旅行先でリサイクルなどのインセンティブがなかなか働かない、ホテルなど一回使用したのみのごみが大量に排出されるなどが原因で、ごみの排出そのものの抑制はなかなか進みません。ところで、運河に囲まれている旧市街ではごみ収集車が狭い路地に入り込むことができないため、まずは清掃員が一か所に回収し、ごみ収集船(図1参照)で収集場まで運んでいますが収集船の往来も観光客増加に伴い増える一方、観光客が多い昼間の時間の収集は景観上も好ましくなく、ごみ収集マネジメントを難しくしています 。

国内を見てみましょう。2005年に世界自然遺産に登録された知床では、一時的とはいえ来訪者が増加し、来訪者が野外で用を足すことからし尿や使用済みの紙ごみが急激に増えました。美しい景観を楽しみに訪れてもトイレットペーパーが散乱した景観は見たくないですね。その後携帯用トイレが販売されるようになり、休憩場などにトイレ回収ボックスが設置されるようになってから、この状況は改善されました。同じ世界自然遺産として登録されているアメリカのグランドキャニオン国立公園でも知床のように使用ずみ紙の散乱が目立つようになり、公園敷地内に立ち入る観光客には携帯用トイレの持参が義務付けられています。

ごみの山、富士山の汚名返上!

イラスト:しげる""

みなさんもよく知っている富士山は、日本がユネスコに推薦している最新の世界遺産候補です。富士山は長らく世界遺産候補として検討されていましたが、推薦に至らなかった理由の一つにごみ問題があります。かつてユネスコの担当者が富士山を訪れたときにあまりに多いごみの不法投棄を「嘆かわしい事実」とコメントした、という話は皆さんもご存知かもしれません。推薦を見送られてきた理由のひとつに「ごみや糞尿の管理体制が確立されていない」という指摘もあったのです。

それから何年も経ち、少しずつ管理者と観光客双方の努力でごみのポイ捨ては減り、「ごみを出したら自分で持ち帰る」という大原則を守る人が多くなってきました。今ユネスコでは専門家によって富士山に「顕著な普遍的価値」があるかについて検討されており、早ければ来年6月の世界遺産委員会で世界文化遺産として登録されることになるでしょう。

現在、世界遺産に登録されるためには、遺産の保存管理計画を既存の関連法律に準拠して制定することが各国に求められています。この中で管理するべきとされていることの一つが周辺環境の保全の一環としての廃棄物管理です。自然遺産にとってはごみ投棄によって、生態系への影響が及ぼされるなどの可能性があり、文化遺産や文化的景観として登録される世界遺産にとっては景観が損なわれるなどの影響が生じます。またこれまでもご紹介してきたように、観光客の増加によってごみの発生量が増える現象はどの世界遺産登録地でも見られており、これら開発に伴う問題への対策が確実に実施されるかどうか、も含めて世界遺産登録地への管理能力が問われるようになってきました。

皆さんも世界遺産を訪れることがあったら、ごみは捨てないで、思い出と一緒に持ち帰るようにしてくださいね。

資源循環・廃棄物研究センター オンラインマガジン「環環」 資源循環・廃棄物研究センター HOMEへ戻る 国立環境研究所 HOMEへ戻る 近況 循環・廃棄物の基礎講座 循環・廃棄物のけんきゅう 循環・廃棄物の豆知識 けんきゅうの現場から 活動レポート 素朴な疑問Q&A 表紙 総集編 バックナンバー バックナンバー