災害時には、普段できていることすら満足にできないといわれます。東日本大震災のような激甚災害の場合には、災害廃棄物に対応する行政自体が被害を受け、平時よりも難しい状況の中、平時よりも困難な業務にあたることになります。また、災害発生時には「早期復旧・復興」に対するプレッシャーが大きく、ゆっくりと時間をかけて処理の方法を検討するわけにもいきません。そこで、時間、人員、データ等が比較的活用しやすい平時に、発災後にどのように災害廃棄物処理を実施するか、事前に検討しておくことが重要になります。
実際に災害が起きた時に、どのように災害廃棄物に対処するかを事前に定めたものが、「災害廃棄物処理計画」です。国の災害廃棄物対策指針では、都道府県や市町村でこうした計画を作成し、次の災害に備えることが定められています。実際に災害が起きた時には、この計画を適宜見直しながら、災害廃棄物の撤去、集積、中間処理、最終処分にあたるのです。内容としては、被害予測に基づく災害廃棄物の発生量推計に基づいた処理の方針、体制、分別処理フロー、環境対策とともに、それを実行するために必要となる人材、費用、施設、機材、情報等の調達・配置の方法やリストが含まれます。具体的には、例えば時系列での業務内容を整理したフロー図(図1)、仮置場の配置図(図2)、補助金申請の手続きなどが整理されます。
(図1 業務フロー図の一例(出典:熊野市(2010)熊野市災害廃棄物処理計画))
(図2 仮置場の配置図の一例(出典:Seattle Urban Area Security Initiative Region (2010) Disaster Debris Management Plan))
しかしながら、東日本大震災における災害廃棄物の処理においては、「災害廃棄物処理計画は役に立たなかった」という反省も聞かれています。原因として、一つは、計画そのものが十分に練られたものではなかったということが指摘できます。実際、自治体の全体的な防災計画にあたる「地域防災計画」の一節に「廃棄物対策」の項目を設け、2~3ページ程度の分量で抽象的な対応方法しか記載していない例も少なくありません。もう一つは、災害廃棄物の量と質が想定と現実の間で大きく異なったことで、それに対応した処理の戦略が通用しなくなったことが指摘できます。例えば、多くの自治体では、大規模な津波による災害廃棄物の大量発生は想定されていませんでした。
それでは、「想定外」をなくすために完璧な被害予測を行い、練りに練った災害廃棄物処理計画を策定するべきでしょうか。発災後、災害廃棄物処理をスムーズに進めることに役立つ計画づくりとは、どのようなものでしょう?
災害廃棄物処理計画に関する研究は、まだまだ少なく、知見もあまり蓄積がない状況にあります。そこで、従来国内外で進められてきた、緊急時計画(emergency planning)に関する研究では、どのようなことが計画づくりのポイントとして挙げられているのでしょうか。これら研究成果とともに、循環センターで実施してきたヒアリング調査の結果を整理すると、概ね6つのポイントが指摘できます(表1)。
(1) | 計画文書そのものよりも、計画づくりの過程を通した学習を重視する |
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(2) | 計画づくりを通して、関連主体との調整・関係向上を図る |
(3) | 発災後の柔軟な対応を可能とするよう、対応の細部よりも、原則を重視する |
(4) | 災害と、災害に対応する人間社会に関する正しい知識に基づいて策定する |
(5) | 「持続可能な」災害対応を考慮する |
(6) | 災害マネジメントサイクルを通した計画とする |
上記のうち、(1)と(2)は「どのように計画を作るか」に関係します。ここでは、計画文書を作ることに加え、計画づくりを通した職員の能力向上が重要です。例えば、計画づくりを通して、災害廃棄物発生量の推計方法を習得しておけば、発災後の推計量見直しが容易になります。また、災害廃棄物処理は、環境部局だけではなく、建設部局、農林水産部局等と連携する必要があります。縦割りの組織構造の中で普段はコミュニケーションを取る機会は多くありませんので、あえて計画づくりを通して、部局を超えたコミュニケーションを図ることは、発災後のスムーズな連携に繋がります。例えば、環境部局は災害廃棄物の仮置場用地を、建設部局は仮設住宅建設用地を確保する必要がありますが、利用可能な土地が限られていますので、あらかじめ調整を図っておくことが考えられます。
残りの4点は「どのような計画を作るか」に関係します。いずれも重要なポイントですが、発災後に「使える」計画を作るという意味では、(3)にあるように、ある特定の被害想定にとらわれすぎない、柔軟性の高い計画とすることが特に重要です。例えば、災害廃棄物処理において活躍が期待される民間事業者のリスト化、仮置きや処理に活用できそうな土地の洗い出し、必要な行政手続きの整理などは、発生する災害に依らず多かれ少なかれ役に立つと考えられます。逆に、あまり精緻に作り込んでしまうと、計画が分厚くなってしまい、見直しやいざというときの活用がしにくくなってしまったり、被害想定が外れた場合にほとんど役に立たなくなってしまったりするリスクがあります。他にも、(4)災害や災害時の人間行動に関する最新の知見を活用すること、(5)環境や地域社会に対する長期的な観点からの配慮を事前に十分行っておくこと、(6)災害の初動から本格復旧・復興、そして復興後の減災や災害準備を含めた「災害マネジメントサイクル」を考慮した計画とすること、もそれぞれ重要です。いざ災害が発生すると、こうした視点での配慮が行われにくい傾向にあるため、事前の検討が重要な項目といえます。
さて、上記のポイントを押さえつつ計画を作っても、災害はいつ発生するかわかりません。いざ発災した時に、時間が経ちすぎて計画が「古く」なっていては役に立ちません。また、一度では検討に漏れがあるかもしれないという不安もあります。さらに、日本の行政システムでは概ね2~3年ごとに人事異動が行われますが、その際に計画のことを忘れ去られてしまう心配もあります。このことから、定期的に内容を見直し、少しずつでも内容を充実させていくことが必要です。
災害が発生した時には、実際の被災状況に合わせた計画内容の具体化が必要になります。発生量の推計値は、実際のデータが集まれば変化しますし、処理を進める中で新たな課題が発生することは多々あります。災害廃棄物処理計画のように、実際に計画を実行するときの状況を事前に想定することが難しい計画については、一度作ったらその通りに実行するのではなく、「災害廃棄物の処理を完了する」という目的達成に向け、状況に応じて変化させながら活用することがとても重要です。
こうした計画づくりは重要ですが、現実にはそのために十分な人員、予算、時間を割くことが難しい自治体が多く存在します。環境省の統計によれば、1742の市町村のうち、約半分に当たる870の市町村では2人以下で廃棄物処理業務を担当しています(この多くは、廃棄物処理以外の業務も兼務していると考えられます)。すなわち、国全体として災害廃棄物への対応力を上げるためには、国、都道府県や専門性を持った関連機関が市町村を継続的に支援することが極めて重要といえます。例えば、東京都では都内区市町村向けのワークショップを開催するなどの支援を行っていますが、同様の取り組みは全国に広がることが期待されます。また、良好な関係作りという観点から、1回限りのイベントに終わらない長期的な支援や、普段の業務の中であえて接点を設けることも重要と考えられます。本研究所でも、こうした支援に役立つ研究を推進して参ります。
<もっと専門的に知りたい人は>
- Tajima R., Hirayama N., Osako M. (2013) Theory and Practice of Pre-Disaster Planning for Disaster Waste Management. Proceedings of The 9th International Symposium on Social Management Systems SSMS2013, SMS13-4303
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