循環・廃棄物の基礎講座
2012年7月号

拡大生産者責任(EPR)とリサイクル

吉田 綾

廃棄物処理・リサイクルにおける新しい政策アプローチ

近年、さまざまな環境政策、法制度が各国で導入されていますが、廃棄物処理・リサイクル制度の分野では、その多くは拡大生産者責任制度(Extended Producer Responsibilities: EPR)という考え方に基づいています。

EPRとは、生産者が製品のライフサイクル全体(原材料の選択、製造工程、使用・廃棄)における環境負荷に対して、一定の責任を負うという考え方です。

EPRの主な目的と機能の一つには、廃棄物処理の責任を自治体から生産者に移転することがあげられます。これにより、生産者は製品の廃棄・リサイクルなどにかかる物理的および/または金銭的な責任を負うことになります。また、生産者が唯一製品の環境負荷を低減することが出来る立場に置かれているという考え方から、生産者に環境配慮設計(Design for Environment: DfE)を促して、ある製品システムから生じている環境負荷を低減することもEPRに期待される重要な機能の一つです。

EPRの政策手法の例

EPRの政策手法には、(1)製品の引き取り、(2)規制的アプローチ、(3)自主的な企業の取り組み、(4)経済的手段があると言われています。

(1)は使用済みの製品を義務的もしくは自主的に生産者が引き取ることです。(2)は、リサイクル義務を生産者に課すことや、リサイクルや回収目標値を設定すること、特定の製品の埋立処理を禁じることなどがあります。(3)は、製品リースや、企業が国や自治体の公共サービスに資金や技術・ノウハウを提供する官民パートナーシップ(Public/private partnership)などがあります。(4)にはデポジット・リファンド制度(Deposit-refund schemes)や処理料金の前払い(Advance recycling fees: ARF)、後払い(Fees on disposal)、税/賦課金などがあります。

法規制または自主的取り組みのどちらを採用するか、また、どのような経済的手段を採るかについては、EPRの対象品目や導入地域等、様々な条件によって答えが異なっています。

使用済み電気電子機器のリサイクルへのEPRの適用

先進諸国では、埋め立て地不足などの問題から、1990年代初めから様々な製品に対しEPRの導入を促進してきました。例えば、容器包装 や電気電子製品、自動車などです。ここでは、使用済み電気電子機器(Waste Electrical and Electronic Equipment: WEEE)のリサイクル制度について、各国の制度の状況を詳しくみてみましょう。

ヨーロッパでは、2003年2月に発効したEUのWEEE指令に基づき加盟国各国で国内法が整備されています。WEEE指令では、生産者は最終ユーザーから使用済み製品を無償で引き取りし、定められた回収、処理・リサイクル目標を達成するという物理的責任があります。家庭から出る使用済み製品の回収、処理・リサイクルの費用については、生産者が負担することとなっており(この費用は製品の販売価格に含まれています)、既販品(制度開始以前に販売された製品)は市場シェアなどに応じて費用を負担することとなっています。

イラスト:たまき&じゅん

一方、日本の家電リサイクル法では、生産者に引取義務と再商品化の実施義務という物理的責任があり、消費者がリサイクル料金を排出時に支払う仕組みになっています。家庭用パソコンは、家電とは異なる法律(資源有効利用促進法)に基づきメーカー主導による回収・リサイクルシステムが構築されています。既販品は家電と同様に排出時支払いですが、2003年10月以降に購入された製品(リサイクルマークの付いたもの)には、製品購入時にリサイクル料金を負担するARFが導入されています。

アメリカでは、EPRはプロダクト・スチュアードシップ(Product stewardship)と呼ばれて実施されることが多いです。プロダクト・スチュアードシップの基本的な考え方はEPRとほぼ同じですが、生産者だけでなく、それ以外の利害関係者(様々な事業者や消費者を含む)にも部分的責任があると考えている点に違いがあります。そのためアメリカ各州で対象品目や費用負担方法が少しずつ異なる制度・プログラムが導入されています。このほかに、ブラウン管などの埋立処分禁止規制が一部州で導入されています。

日本以外のアジア地域では、韓国と台湾でEPRに基づくリサイクル制度が導入されています。中国でも2011年1月から家電四品目とパソコンについてリサイクルが始まり、今年5月にはインドでも法施行されました。現在、インドネシア、マレーシア、フィリピン、タイ、ベトナムでも導入が検討されています。

発展途上国へのEPR導入の課題

多くの発展途上国でEPRの実施が考えられている背景には、EPRが廃棄物処理・リサイクル費用の新しい資金調達方法としてとても魅力的であることがあります。

しかし、実際の制度開始に至るまでには多くの困難もあります。「生産者」が誰であるかを特定することはもとより、生産者団体が組織可能か(注)、生産者がどのようにリサイクルや廃棄物処理の費用を負担すべきか、その費用(資金)をどのように割り当てるかも重要な要素です。また、実際の制度を運営・機能させるためには、監視・モニタリングやEPR制度の実施状況を公表することなども重要です。


注:個々の企業が対応することが効率的でない場合があるため、実務上、生産者が生産者責任団体(Producer Responsibility Organization)を立ち上げ、回収・処理体制を構築するケースが多い。

<もっと専門的に知りたい人は>
  1. 小島道一編「アジアにおけるリサイクル」アジア経済研究所、2008年
  2. 国立環境研究所ほか「アジア地域における廃電気電子機器の処理技術の類型化と改善策の検討」(H21~23年度環境研究総合推進費補助金総合研究報告書)、2012年
<関連する調査・研究>
  1. 研究プロジェクト1
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