循環・廃棄物のけんきゅう
2016年11月号

東南アジアにおける排水処理装置の性能評価

蛯江 美孝

性能評価の役割

ある会社が、とても性能の良い排水処理装置を開発したとき、どうやってその製品のすばらしさを伝えれば良いでしょうか。カタログに性能を詳しく書いて配りますか?それとも、展示会などで実演しましょうか?それらの方法も良いかもしれませんが、お客さんから見ると、「カタログに書いてある性能は誰が確認したのだろうか」とか、「実際に現場で使ったときにも同じ性能が出るのだろうか」などと思うかも知れません。

日本や欧米などでは、小型の排水処理装置の性能を評価するための試験方法が定められており、製品を販売する前に第三者による試験・評価を受けることが義務付けられています。これをクリアした製品だけが市場で販売されるため、消費者は安心して購入することができますし、製造会社も自信を持って性能を表示できます。環境政策を進めようとする行政も安心です。このように、評価の仕組みは適切な排水処理装置の普及を進める上で、非常に重要な役割を果たしているのです。

評価方法が決まっていないと・・・

東南アジアでは生活排水が未処理もしくは適切に処理されていないため、河川や湖沼の水質汚染が著しく、その対策が急がれています。排水処理の方法として、日本や欧米では集中処理型の下水道が一般的ですが、東南アジアではコストや用地確保等の課題から、下水道の急速な普及は望めないのが現状です。これに対し、我が国の小型の排水処理装置「浄化槽」は、安価で設置に掛かる期間が短い分散型の生活排水処理技術であり、東南アジアでの貢献が期待されています。しかしながら、多くの東南アジア諸国においては、性能評価が義務付けられておらず、その方法も決まっていないため、販売されている製品がカタログ通りの処理性能を有していることを適正かつ公平に判断する方法もありません。イラストこのため粗悪で安価な製品を排除できず、適正な処理機能を有する製品が市場で対等に勝負できない状況に陥っています。

我が国はこれまで、途上国での衛生環境・水環境改善のための国際協力プロジェクトを数多く実施してきています。東南アジアでは浄化槽のモデル設置プロジェクトが進められ、その高い性能は認知されてきていますが、コストが高いというのが現地の方々の印象です。もちろん、更なる低コスト化や現地の状況に適用するためのハード面でのカスタマイズは必要ですが、前述した通り、適正な処理機能を有する製品が市場で対等に勝負できないことも大きな理由の一つです。従って、浄化槽という技術だけを移転するのではなく、性能を評価する仕組みを一緒に移転していく必要があるのです。

技術と制度は一体

そこで資源循環・廃棄物研究センターでは、政策・社会実装に直結した制度構築と技術の現地化を連携させた総合的なアプローチに基づく研究開発を行い、我が国の分散型技術を東南アジア地域に展開するための道筋を付ける事を目的とした研究を進めています。ここでは、性能評価の方法だけでなく、排水基準を守るようにチェックする仕組みや、維持管理、汚泥収集の頻度・体制など、分散型の生活排水処理システムに係る制度面についても取り組んでいます。

具体的には、分散型排水処理装置の性能を評価する仕組みや試験方法の確立、関連制度の構築を目指して、まずインドネシアにおいて、バンドン工科大学と協力して、現地企業を含む産官学のネットワークを構築し、議論を進めています。性能評価の仕組みができれば、評価基準に満たない性能の低い製品が市場から排除され、東南アジア地域の排水処理業界全体の技術向上が期待できます。

写真インドネシアにおける産官学ネットワークによる会合の様子

排水処理に影響を及ぼす東南アジアの地域特性

写真 インドネシアの一般的なトイレ

性能評価のための試験方法を開発するには、生活排水の質的・量的情報が欠かせませんが、インドネシアの生活排水は日本のものと同じと考えて良いでしょうか?人種が違っても同じ人間ですから、ご飯も食べるしトイレにも行きます。トイレに行く回数や排泄物の量もそれほど違いはないでしょう。しかし、インドネシアの一般的な家庭のトイレには、トイレットペーパーは置いてありません。その代わり、バケツに水が溜めてあり、桶ですくって直接洗います。また、お風呂ではバスタブにお湯を溜めて入ることはなく、シャワーを浴びるのが一般的です。さらに、未明から日没に欠けて、毎日5回の礼拝のため、手や足を洗います。このように、宗教や習慣の違いから、水を使う時間帯も使い方も日本とは異なっています。そこで、インドネシアを中心として、東南アジア各国の地域・社会特性が生活排水の質・量および排水処理特性に及ぼす影響の解析を進め、性能評価方法に反映させることとしています。

別の東南アジアの地域特性としては、気候が挙げられます。一般に、排水処理は微生物の力を借りて水をキレイにしますので、温度が低いと上手く処理が進みません。日本では四季がありますので、寒い冬にも対応できるようにする必要がありますが、インドネシアの首都ジャカルタは、平均気温が28.7℃で、一年中夏のような気候ですので、微生物が活発に活動してくれることで、装置を簡素化し、コストを低く抑えることができるかもしれません。

一方で、排水を十分にキレイにするには、排水処理装置に送風機で空気を吹き込んで、微生物に酸素を届ける必要があるのですが、電気がないと送風機が動かせません。途上国では電力供給のインフラが不十分なためにしばしば停電が起こることがありますが、ある都市の一般家庭で調査をしたところ、1日平均2.3回、45分程度の停電がありましたが、1回の停電時間は最大でも95分で、一昔前のように半日停電しているというようなことは、少なくとも都市部ではなさそうです。できれば24時間ずっと空気を吹き込んでおきたいのですが、どの程度の頻度の停電まで許容できるか、どのような工夫をすれば、停電にも対応できるか、などを検討しています。

おわりに

インドネシアはASEAN最大の2.5億人の人口を有していますが、集中処理型である下水処理場は僅か13箇所、下水道人口普及率は2℅程度に留まっています。従って、分散型の生活排水処理事業の市場規模は極めて大きいものがあります。さらに、ASEANにおける経済統合が進むことにより、ASEAN全体では5~6億人程度の市場規模になることが想定されます。国際的な環境協力は、最終的にビジネスとして現地に根付かなければ、普及は見込めないと思いますので、一過性の研究プロジェクトではなく、実際に成果を社会に反映できるような研究を進めていきたいと考えています。

<もっと専門的に知りたい方へ>
  1. 蛯江美孝(2014)浄化槽技術・システムのパッケージでの海外展開、用水と廃水、56(10)、77-81.
<関連する調査・研究>
【第3期中期計画】
【第4期中長期計画】
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