循環・廃棄物のけんきゅう
2014年6月号

資源利用の高度化・高効率化を目指して

中島 謙一

資源利用と環境問題

金属資源は有限であり、資源の管理、供給、消費は各国の経済活動において大きな影響を持ちます。先進諸国の経済発展に伴い拡大してきた鉱物資源および金属の需要は、近年の新興国の経済発展に伴って、更なる拡大が予測されると共に、先進諸国においても低炭素技術の導入等に伴った金属資源の需要の変化・拡大が予測されています。他方、採掘活動に伴う直接的な生態系の改変、重金属等による汚染、化石燃料の利用と温室効果ガスの排出などへの懸念が指摘されるなかで、国連環境計画(UNEP)の資源パネル(International Resource Panel)による報告1)など、世界的にも資源利用に伴う地球環境問題が注目を浴びています。

イラスト:じゅん&しげるこのような動きのなかで、私たちの研究センターでもサプライチェーンを通じた資源利用と環境影響の把握、更には、改善・解決のための資源利用の高度化・高効率化の研究に取り組んでいます。サプライチェーンとは、通常、原料の段階から製品やサービスが消費者の手に届くまでの全てのプロセスの繋がりを指しますが、現在、私たちは、リサイクルや廃棄物処理等の静脈サービスの繋がりを含めて、その把握と可視化を目指しています。この資源利用の高度化・高効率化のための1つの有益な手段として考えているのが、リサイクルの促進です。近年では、都市鉱山の有効利用(都市鉱山(2009年1月号)都市鉱山と金属資源のリサイクル(2009年6月号))などという言葉を聞いたことがある人もいるかと思います。

リサイクルに伴う資源の散逸 (Loss)

飲料容器のリサイクル、家電や携帯電話を含めた電気電子機器のリサイクル、更には、自動車のリサイクルなど、リサイクルと言う言葉を耳にする機会は多いと思います。しかしながら、実際には、リサイクル率が高い一部の金属(例えば、鉄やアルミニウムなど)を除いては、リサイクルが浸透しておらず、まだまだ多くの課題を残している事が知られています2)。この背景には、リサイクルのための市場からの回収の仕組みが不十分であること、更には、製錬・精製プロセスを含めた金属のリサイクルプロセスは、決して万能なプロセスではなく、潜在的に資源の散逸をもたらす可能性を有しているということ3)があります。特に、使用済み製品等には、非常に多くの部品や多様な素材が使われており、回収が困難な素材や金属も含まれています。また、破砕・選別などの工程を経て回収される鉄スクラップ等の金属スクラップには、付着物や合金成分など多様な元素が含まれているものがほとんど全てです。

例えば、鉄スクラップのリサイクルプロセスの要である鉄鋼製錬プロセスにおいては、アルミニウム、マグネシウム、マンガンなどは酸化傾向が強くスラグ相への分配傾向が強い事が、また、亜鉛めっき鋼板などに含まれる亜鉛は揮発してガス相への分配傾向が強い事が化学熱力学的な知見から得られます3)。他方、鉄に対するトランプエレメント(難除去性の不純物成分)として良く知られている銅や錫などの元素は金属相への分配傾向が強く酸化除去・揮発除去による不純物除去は不可能です。また、鉄鋼材料において、重要な合金元素であるニッケルおよびモリブデンも金属相への分配傾向が強く、適切な分別と再生原料としての利用がなければ、鉄リサイクルに伴う希少な資源の散逸(Loss)の可能性を有しているのです。(なお、詳しい原理などの説明については、製錬熱力学など冶金学の教科書などをみる事をお勧めします。)

資源利用の高度化・高効率化に向けて

上記にて、鉄スクラップのリサイクルについて少し触れましたが、鉄鋼材料には、鉄だけではなく、多様な合金元素などが含まれています。典型的な鉄鋼合金元素であるニッケル、クロム、モリブデンは、主にステンレスや耐熱鋼等の鉄鋼材料の原料として用いられています。一方で、ステンレスのリサイクルにおいては、ステンレススクラップの炭素鋼スクラップへの混入などにより、多くの資源散逸が起こっていることが物質フロー分析の観点からも指摘2)されています。

これに対して、鉄スクラップに含まれる合金成分等の資源の散逸の回避を目指して提案しているのが、"Alloy-to-Alloy リサイクル"、すなわち、スクラップの合金成分に着目したスクラップの選別と二次資源としての有効利用の実施4)です。上述のように、鉄スクラップのリサイクルは、合金元素の散逸の潜在的な可能性を有していますが、Alloy-to-Alloyリサイクルによる鉄スクラップの高度リサイクルの実施により、ニッケル、モリブデン、コバルト等の金属相への分配傾向の強い元素については、天然資源由来の合金成分原料(フェロアロイなど)の使用量の削減が期待できること、また、炭素鋼製造の条件下では、スラグ相への分配傾向が強いクロム、マンガン等に関しても特殊鋼製造の原料として投入することにより、合金成分の添加用途のフェロアロイや脱散剤等の削減が期待できます。

イラスト:もとこ&たまきまた、金属資源のほぼ全量を諸外国に依存している日本においては、鉄スクラップの高度リサイクルによる二次資源の活用は、国内における最終処分量の削減や貴重な資源の散逸を防止するだけではなく、資源戦略上の効果として、貴重な国内の二次資源の確保・利用を通じて経済活動に必要な金属資源の海外依存度の低減も期待できます。また、昨今、世界的にも注目を集めている天然資源の利用に伴う資源産出国での環境影響の拡大防止への貢献が期待できます。

なお、私たちの研究センターにおける取り組みの一部については、過去の記事などでも紹介しています。合わせてご参照頂ければと思います。(国際的なマテリアルフローと循環型社会基本計画の指標(2012年10月号)、世界に広がるサプライチェーンと温室効果ガスの排出管理(2012年10月号)、ニッケルの生まれ故郷(産出国)を訪ねて(2013年7月号))

参考資料
  1. United Nations Environmental Programme International Resource Panel (UNEP IRP), http://www.unep.org/resourcepanel/Publications/tabid/54044/Default.aspx
  2. B.K. Reck, T.E. Graedel, Challenges in Metal Recycling, Science, 377, pp.690-695 (2012).
  3. K.Nakajima, O.Takeda, T.Miki, K.Matsubae and T.Nagasaka: "Thermodynamic Analysis for the Controllability of Elements in the Recycling Process of Metals", Environmental Science & Technology, Vol. 45, (2011), pp.4929-4936
  4. K.Nakajima, H.Ohno, Y.Kondo, K.Matsubae, O.Takeda, T.Miki, S.Nakamura and T.Nagasaka: "Simultaneous Material Flow Analysis of Nickel, Chromium, and Molybdenum Used in Alloy Steel by Means of Input-Output Analysis, Environmental Science & Technology, Vol. 47, (2013), pp.4653-4660
<関連する調査・研究>
  • K.Nakajima, H.Ohno, Y.Kondo, K.Matsubae, O.Takeda, T.Miki, S.Nakamura and T.Nagasaka: "Simultaneous Material Flow Analysis of Nickel, Chromium, and Molybdenum Used in Alloy Steel by Means of Input-Output Analysis, Environmental Science & Technology, Vol. 47, (2013), pp.4653-4660
  • K.Nakajima, O.Takeda, T.Miki, K.Matsubae and T.Nagasaka: "Thermodynamic Analysis for the Controllability of Elements in the Recycling Process of Metals", Environmental Science & Technology, Vol. 45, (2011), pp.4929-4936
資源循環・廃棄物研究センター オンラインマガジン「環環」 資源循環・廃棄物研究センター HOMEへ戻る 国立環境研究所 HOMEへ戻る 近況 循環・廃棄物の基礎講座 循環・廃棄物のけんきゅう 循環・廃棄物の豆知識 けんきゅうの現場から 活動レポート 素朴な疑問Q&A 表紙 総集編 バックナンバー バックナンバー