けんきゅうの現場から
2014年8月号

ホーチミン市における生ごみ分別パイロット事業

河井 紘輔

発展途上国でのごみ処理

日本ではごみは焼却処理されることが多いのですが、発展途上国ではごみはそのまま埋め立てられることが多いのが現状です。最近では発展途上国であっても主要都市では埋立処分場が足りなくなってきました。そのような都市ではごみ量を安全に減らすことができる焼却処理の導入が検討されています。イラスト:ゴミ袋ただし、アジア地域のごみは生ごみを多く含むために水分が多いのが特徴であり、水分が多いと燃えにくいので、アジア地域で焼却処理を導入する際にはごみの水分に留意する必要があります(2013年8月号記事「ホーチミン市における都市ごみの発熱量と焼却処理」)。水分を少なくする方法のひとつとして、ごみの成分調整を目的とした「分別」が挙げられますが、発展途上国では、自治体がごみを分別収集している事例はこれまでほとんどありません。

ごみ分別パイロット事業

2012年からベトナム国ホーチミン市において、ごみの焼却処理の導入可能性を検証する調査事業が実施され、そこで私は生ごみの分別を自治体主導で試験的に実施することを提案しました。分別の意義や方法についてホーチミン市天然資源環境局の担当官と1年間、根気強く議論を重ね、2013年8月から生ごみ分別パイロット事業を実施することになりました。どの程度正しく分別されるのか、生ごみを分別することによって生ごみ以外のごみが焼却可能なものなのかを確認するのが目的です。ホーチミン市1区のベンゲーという地区で約100世帯に半年間、生ごみとその他ごみに分別してもらいました。分別された生ごみはメタン発酵処理、その他ごみは焼却処理をすると想定します。

ごみ分別状況調査

図1 ごみ物理組成調査の作業風景 図1 ごみ物理組成調査の作業風景

生ごみ分別パイロット事業が開始されてから4ヶ月経過した2013年12月に、パイロット事業に参加する全世帯から1週間ごみを毎日収集して分別状況を確認してみることにしました。分別された生ごみとその他ごみを各家庭から収集した後、軽トラックで運び、ごみ積替施設の一角で分別状況を調査しました(図1)。生ごみとその他ごみはどの家庭から排出されたのかが分かるように収集直後にID番号をごみ袋に貼り付けました。収集した生ごみとその他ごみをごみ袋ごと(ID番号ごと)に14項目(生ごみ、紙、プラスチック、ガラス、金属など)に分類、計量しました(図2)。この作業をすべての家庭から排出されたごみに対して繰り返す訳です。

収集した生ごみとその他ごみの合計はそれぞれ568 kg、427 kgでした。生ごみとして適切に分別されていたごみは重量比で83%であり、その他ごみでは、適切に分別されていたごみは65%でした。また、生ごみとその他ごみの低位発熱量はそれぞれ2,266 kJ/kg、7,379 kJ/kgで、仮に分別されなかった場合の家庭ごみの低位発熱量は4,460 kJ/kgであることがわかりました。この調査によると、もともと家庭ごみ中には生ごみが重量比で63%含まれていますが、現在の分別状況であればその他ごみを焼却処理することが可能で、発電も可能な発熱量が得られると判断できます。一方、生ごみとして分別されたごみにはまだ夾雑物(紙やプラスチックなどの生ごみ以外のごみ)が多く含まれていて、メタン発酵の前に夾雑物を除去する工程が必須となります。発展途上国では行政の財政基盤が弱いために廃棄物処理に高い費用をかけることができません。住民による排出源分別によって、処理施設内での夾雑物除去工程を簡素化でき、費用を抑えることができます。夾雑物の混入がほとんどない生ごみを収集するのであればごみ収集の有料化など、分別収集システムを改良する必要があります。どのような分別収集システムが良いのか、この次のステップとしてホーチミン市や住民らと対話を重ねながら提案する予定です。

図2 ごみ物理組成調査の作業レイアウト図 図2 ごみ物理組成調査の作業レイアウト図

現地での協力者の存在

このような調査には大勢の協力者が必要となります。もちろん、ホーチミン市天然資源環境局の担当官と私だけでは人手不足なので、調査の助っ人を緊急招聘することにしました。そこで、サイゴン大学で環境を学ぶ学生20人に集まってもらい、ごみの分類と計量作業をお願いしました。熱心な学生に支えられ、この調査を無事に終えることができました。

海外、特に発展途上国では日本の常識では考えられないようなハプニングが起こり、なかなか予定通りに調査を遂行できないことがあります。一例を挙げますと、以前、調査に利用する電子はかりを日本から持参した時にハノイの空港の入国税関で止められ、別室に連れて行かれたことがあります。かなり高額の関税を支払うよう指示されたのですが、それを支払うほどのお金を持ち合わせていませんでした。「調査に利用するものであって、利用後は日本に持ち帰るので通して欲しい」と懇願したものの、なかなか理解してもらえませんでした。その教訓をもとに、別の機会に電子はかりを日本からホーチミン市に持参した時には、入国税関で問題にならないように、あらかじめホーチミン市天然資源環境局に準備してもらった入国税関宛てのレターを握りしめて渡航したことがあります。発展途上国でのハプニングをうまく乗り越えるためにも、現地パートナーと常に意思疎通を図ることを心掛けています。良い関係を築いていれば、問題を解決するために現地パートナーが最善の努力をしてくれます。もっとも、解決しないことも度々ありますが。そんな時に一番大切なことは、とにかく自分を落ち着かせることです。

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