循環・廃棄物のけんきゅう
2013年8月号

ホーチミン市における都市ごみの発熱量と焼却処理

河井 紘輔

東南アジアおける都市ごみ管理

東南アジアでは収集された都市ごみの多くが未処理のまま埋立処分されている例が極めて多い状況です。しかも埋立地でのごみの管理は適切であるとは言えません。埋立地では厨芥類(台所ごみ)を中心とした生分解性ごみが嫌気的に分解され,その結果,温室効果ガスのひとつであるメタン(2013年8月号記事「アジア諸国の温室効果ガスインベントリ」)が生成・大気放出され,汚濁負荷の高い浸出水が未処理のまま周辺水域へ放流されています。また,東南アジアでは都市部の経済発展とともに農村部から都市部への人口流入が続いており,それに関連して都市ごみの発生量は増大し続けています。埋立地の空き容量が急速に減少しているにも関わらず,埋立地を新たに建設するための用地の確保は容易ではありません。

イラスト:もとこ

このような埋立処分に関する問題を解決するひとつの方法として,都市ごみの焼却処理が挙げられます。日本では一般的である都市ごみの焼却処理ですが,東南アジアで都市ごみを焼却処理している都市は一部を除き,ほとんどありません。都市ごみを焼却処理する利点としては,ごみ質の安定化及び埋立量の減容化が挙げられ,今後は東南アジアの主要都市においても焼却処理のニーズが高まることが予想されます。

都市ごみの発熱量の測定方法

東南アジアで都市ごみを焼却処理する際の技術的課題として,厨芥類の多さが挙げられます。東南アジアを含めた発展途上国では,厨芥類の割合が先進国に比べて高いのが特徴です。厨芥類は水分を多く含みますので,その分,燃えにくくなってしまいます。そこで,「低位発熱量」を知ることによって燃えやすいか燃えにくいかを判断できます。燃焼によって生成した水分が水蒸気(気体)の状態にあるときの発熱量のことを低位発熱量といいます。一方,燃焼によって生成した水分が水(液体)の状態にあるときの発熱量を高位発熱量といいます。都市ごみを焼却する場合は高位発熱量から水の蒸発潜熱を差し引いた低位発熱量を用いるのが一般的です。水の蒸発潜熱とは,水(液体)が水蒸気(気体)となって蒸発する際に必要となる熱量のことです。都市ごみに水分が多ければ,焼却する際に,その分の蒸発潜熱が必要となる訳です。水分が少なければ都市ごみも燃えやすいと言えます。

ボンブ熱量計という実験装置を用いると都市ごみの発熱量を実測することができ、正確な発熱量を知ることができます。ボンブ熱量計で測定できるのは高位発熱量ですが,以下の式(1)を用いて高位発熱量を低位発熱量に換算することができます。

Hl=Hh-25 (9h+M)(1)

ただし,Hlは低位発熱量(kJ/kg),Hhは高位発熱量(kJ/kg),hは水素分 (%),Mは水分 (%)を表し,蒸発潜熱を2,500 kJ/kgとしています。

ボンブ熱量計を用いると正確な発熱量を測定できますが,一度に測定可能な試料は1 g程度であることが欠点です。このわずかな試料を得る過程で,どんなに慎重に縮分(量を減らすこと)したとしても,得られる1 gが都市ごみを代表する試料となることは不可能に近く,測定した発熱量も試料ごとに大きく変動します。そこで,まずは都市ごみを物理組成ごとに分類し,物理組成ごとの三成分(水分,可燃分,灰分)及び発熱量を測定し,それらを加重平均する方がより信頼できる発熱量を推計できると考えられます。

ホーチミン市における都市ごみの発熱量と焼却処理

東南アジアの主要都市のひとつであるベトナム国ホーチミン市の埋立地において,都市ごみの運搬車両から積み下ろされた直後の都市ごみを無作為に抽出して,物理組成,三成分,物理組成ごとの発熱量を分析しました。データのばらつきを抑えるためにこの分析を8回繰り返し,平均値を算出しました(表1)。本分析から、ホーチミン市における厨芥類は都市ごみの約70%を占めること、都市ごみの水分は63.5%,可燃分は27.5%,灰分は9.0%,低位発熱量は約5,000 kJ/kgであることが分かりました。

では,低位発熱量5,000 kJ/kgとはどのような意味を持つのでしょうか。焼却処理の際,補助燃料を投入せずに都市ごみ自身が持つ発熱量によって燃焼することを「自燃」と言いますが,自燃の下限値は概ね3,350 kJ/kg(約800 kcal/kg)と言われています。さらに焼却処理の際,都市ごみ自身が持つ発熱量の一部を回収することによって発電が可能となる下限値は概ね6,300 kJ/kg(約1,500 kcal/kg)と言われています。つまり,ホーチミン市における都市ごみは,自燃はしますが,発電できるほどの発熱量はないことが分かります。

低位発熱量は式(2)のように水分と可燃分を使って表現することもできます。

Hl=aV-25M(2)

ただし,aは可燃分の平均低位発熱量(kJ/kg)を100で除した値,Vは可燃分(%)を表します。

日本でのaは概ね190~230程度の範囲にあることが多いとされていますが,8回の分析結果をもとに計算した結果,ホーチミン市では239となりました。

自燃限界と発電限界は式(2)を用いて図1中の直線として示すことができます。自燃限界と発電限界を表す直線の左側の領域(限界線と水分軸と可燃分軸に囲まれた三角形)がそれぞれ自燃可能範囲と発電可能範囲を意味します。 東南アジアにおいて都市ごみ焼却処理事業を実施する場合,現地の自治体が捻出できる処理費はあまり多くないために,発電による売電収入も含めないと採算性が厳しいと言われています。ホーチミン市で発電を伴う都市ごみの焼却処理をしようとした場合,都市ごみの水分を減らしたり(図1中の下方向),可燃分を増やしたり(図1中の左方向)するなどの成分調整が前処理として必要となります。前処理として機械選別機を使うのも一手ですが,東南アジアの水分の高い都市ごみを機械選別するのは容易ではありません。そこで,排出源分別を導入してみてはという議論がホーチミン市で始まりました。ホーチミン市天然資源環境局の主導で,排出源(主に一般家庭)で厨芥類とその他に分別するというパイロット調査が2013年8月から半年間,200世帯を対象として実施されます。私はそのアドバイザーとしてホーチミン市天然資源環境局を支援する立場で関わっています。分別収集した厨芥類は堆肥化施設へ,その他は埋立地(将来的には焼却処理施設)へ搬入されることとなっています。 このパイロット調査でどれだけの世帯が分別に協力してくれて,どれだけ都市ごみの質が変化するのか,大変興味深い試みです。

表1 ホーチミン市における都市ごみの性状(湿ベース)
物理組成 水分 可燃分 灰分 水素分1) 高位発熱量 低位発熱量
単位 % % % % % kJ/kg kJ/kg
厨芥類(分解性) 69.0 73.4 20.4 6.2 1.6 3,707 1,509
厨芥類(難分解性) 0.8 17.4 0.0 82.6 0.0 0 -434
紙類 3.0 50.1 40.1 9.8 3.1 8,849 6,899
紙おむつ 3.0 76.1 19.7 4.2 1.1 5,837 3,686
プラスチック類 15.9 37.8 54.5 7.7 6.8 21,670 19,190
金属類 0.2 4.6 0.0 95.4 0.0 0 -115
その他無機物 1.9 4.6 0.0 95.4 0.0 0 -115
木類 0.7 33.3 60.4 6.2 4.0 11,224 9,485
ゴム・皮革類 0.7 30.9 54.3 14.8 3.2 14,394 12,904
繊維類 5.0 48.1 45.7 6.2 3.4 9,885 7,917
1) 社団法人全国都市清掃会議 (2006) ごみ処理施設整備の計画・設計要領,2006改訂版.
図1 ホーチミンH市・バンコク都・大阪市における都市ごみの三成分 図1 ホーチミン市・バンコク都・大阪市における都市ごみの三成分,
自燃限界(図中右側の赤い直線),発電限界(図中左側の赤い直線)
<もっと専門的に知りたい人は>
  1. 河井紘輔, 大迫政浩, 山田正人 (2012) 発展途上国における廃棄物の分別シナリオと代替処理技術. 第23回廃棄物資源循環学会研究発表会, 同論文集, 83-84.
  2. 社団法人全国都市清掃会議 (2006) ごみ処理施設整備の計画・設計要領,2006改訂版.
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