けんきゅうの現場から
2014年4月号

科学コミュニケーションと「リケジョ」

佐野 和美

科学コミュニケーションとは?

科学コミュニケーションとは、科学を分かりやすく伝えることです。技術(テクノロジー)も含めて、科学技術コミュニケーションと呼ばれることもあります。限られた世界で専門用語を使ってやり取りされてきた難解な科学や、ブラックボックス化されて見えにくくなった技術を一般市民にもわかりやすく翻訳するという意味で、科学技術インタープリターなどという用語を用いることもあります。専門に研究している研究者以外に、新聞の科学面などに記事を書く科学ジャーナリストや、科学館・博物館やNPOに所属して活動する科学コミュニケーターと呼ばれる人たちもいます。サイエンスカフェのような対話型のイベントを行ったり、解説記事を書いたり、イラストや模型を使って科学に親しみを持ってもらう展示の工夫をしたりといった活動をしています。

また、福島第一原子力発電所の事故以降に頻繁に耳にするようになったリスクコミュニケーションも、科学技術のリスクを分かりやすく市民に伝える科学コミュニケーションのひとつです。

情報を判断する力

私は現在、放射能のリスクがどのように伝えられ、市民にどのように認識されているのかを調べる研究を行っています。

イラスト:もとこ&たまき私たちは、情報の多くを、メディアを通じて入手します。情報の入手経路は、新聞やテレビ、ラジオなどのマスメディアの他に、近年では、TwitterやFacebookなどのSNS(ソーシャルネットワーク)の寄与率も非常に高くなっています。私が調査した中でも、情報源としての利用は、多いものから1位がテレビ、2位がインターネットとなっていました。これらの情報源は、速報性はあるものの、時に物事を過度にセンセーショナルに報じることがあります。さらに、個人が発信するブログやSNSでは、検証されていない情報、いわゆるデマの類も多数流れます。また、伝えたい情報だけを意図的に切り取って伝えることで、受け手に偏った印象を与えることもあります。情報の内容の判断は、受け手側に委ねられることが多いのです。

科学は本来、多くの未知の領域を含み、不確実なものです。白か黒かはっきりと決められない物事も多いのです。放射能のリスクを巡るコミュニケーションでは、このグレーゾーンの扱いが非常に難しいと感じています。リスクの大小は、科学的に比較できる部分もありますが、個人の感じ方によって大きく変わってきます。確率的には交通事故の方が死亡リスクが高いと言われても、放射線に対して過剰な恐怖を感じている人に納得してもらうことは難しいでしょう。リスクコミュニケーションは、リスクの大小を科学的に解析し、丁寧に説明すればそれで終わりではありません。個人個人が異なるリスク間のトレードオフを考慮し、自らその意味を理解し、自分で決断できるようになることが大切なのです。以前『環環』でも紹介があった難燃剤を例として考えてみましょう。火災のリスクを下げるために開発された難燃剤ですが、ハウスダストとなりアレルギーを引き起こす原因のひとつとも言われています。このような新しい化学物質の開発や導入に際して、トレードオフが求められることがあります。

同じように、科学コミュニケーションも、1つの成果を分かりやすく伝えるだけでは不十分です。科学的なものの考え方、数値の見方や、研究結果を批判的に見る目などの向上に資するものであるべきです。このような能力は、科学(的)リテラシーと呼ばれ、日本人は低いレベルにあると言われています。(※文科省は、科学的リテラシーを「自然界及び人間の活動によって起こる自然界の変化について理解し、意思決定するために、科学的知識を使用し、課題を明確にし、証拠に基づく結論を導き出す能力」であると定義しています。)「ノーベル賞級!」などといったセンセーショナルな言葉で研究成果を宣伝することだけでは、科学の正しい理解にはつながりません。

個人個人が自ら情報の成否を判断できる科学リテラシー、情報リテラシーが求められており、科学コミュニケーションは、そのようなリテラシーの構築の役割も担わなければならないと思っています。

「リケジョ」という言葉

現在非常に盛り上がっている「リケジョ」という表現も、本来は、科学コミュニケーション活動の一環として、男性が多い理系の学部を目指す女子学生を増やそうという前向きな活動から生まれた用語です。そのイメージ戦略のおかげもあってか、理系の学部に進学する女性は、工学部などでは未だに少ないと聞いていますが、理学部や農学部など生物を専攻する学科では比較的多くなっているようです。

しかし、大学院(博士課程)に進学し、研究者としての道を選ぶ人となると大幅に減少します。研究は継続が大切です。女性のライフサイクルには、研究を一時的に中断せざるを得ない時期が生じることがあります。その部分を支える仕組みが十分でないことも、研究職を避ける理由の一つになっているでしょう。国立環境研究所では、そんな女性研究者を応援するために、施設内に一時保育施設が作られました。このように、優秀な(女性)研究者が増えるためには、より良い研究環境を用意する仕組み作りも必要でしょう。

科学リテラシー向上と科学そのものの啓蒙は重要なテーマです。併せて、「リケジョ」として女性研究者をアイドルのように特別扱いするのではなく、女性が研究者として大学や研究所で働いているのが普通である社会になるように働きかけるのも、科学コミュニケーションに携わる研究者としての仕事なのかもしれません。

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